騒動 13

 よし、これぐらいでいいかな?

 なかなか手間取ってしまったけど、綺麗に肉を削ぎ落とせた。

 これ、魔法で耐久上げてなかったら。

 間違いなく突き破ってただろうな。

 チート様様である。

 仮に破れたとて、それで詰みって事はないが。

 蘇生して回復魔法をかけてと。

 なかなかめんどくさい手順を踏む羽目になっていたはず。

 しかも、次で上手くいく保証もないし。

 強化魔法掛けたの。

 我ながらナイスアイデアだったな。


 完成品を部屋の隅にあるちょっとした台座の上にのせ観察。

 こう見ると、アレだな。

 某自称騎士の名前をしたディスカウントストア。

 あそこに売ってる様な有名人のマスク。

 それに似てる気がする。

 作り方に反して、予想外にグロさってのを感じない。

 まぁ、この時点でグロかったら失敗以外の何物でもないのだけど。

 中々の出来だ。

 クオリティーとしては勝ってるとすら思える。

 中身くり抜いた本物だし、当然と言えば当然かもしれないが。

 いわゆる超美麗版ってやつ。


 人相が怖いのも相まって。

 結構いい商品なのでは?

 ハロウィンのコスプレなんかにもピッタリだ。

 素人仕事にしては上出来だろう。

 高値で売れる気もする。


 って、そんなのは別にいいのだ。

 そもそもこれ売るとか。

 材料がバレたら間違いなく面倒なことになる。

 多分、ミスリルの比じゃない。

 人間はね。

 他の動物と違って外野がうるさいから。

 奴隷やらなんやらが許容されてる。

 命が軽い世界のくせして、そこは一丁前。

 宗教絡みはごめんである。


 問題もなさそうだし、さっそく自作したマスクを装備。

 なんだろう。

 見た目だけは年齢指定掛からなそうな様相に整えられているが。

 材料が材料である。

 もの凄い不快感。

 しかし、こうやって使う物だからね。

 代わりもないし。

 文句を言っても仕方がない。

 肉も脂肪も。

 魔法での補助のおかげもあって、限界までこそげ取れたのだ。

 多分、大丈夫。

 後は気の持ち様次第でどうとでもなる。


 この部屋、鏡はないらしい。

 犯罪者に自分の体の状態を見せるのも自白の助けになりそうだが。

 まぁ、そこに文句を言っても仕方ない。

 アイテムボックスから。

 適当に、手鏡を取り出し確認。

 お?

 これ、結構良さげじゃね。


 顔はいいとして、他は服が違うか。

 本物は……

 一応、横に転がってはいるのだけど。

 上は派手に破けてるし。

 下も血やら肉やでびっしり。

 これを着るのか。

 汚れは魔法で落として綺麗にするとして。

 上は。

 別に特徴的な服って訳でもない。

 似てる服で代用。

 アイテムボックスから取り出す。


 鏡を再度確認。

 ……うん。

 完璧、だな。


 これで俺の変装はオッケー。

 次は、死体の偽装か。

 俺が死んだことにしなければならないのだ。

 この亡骸。

 まんま拷問官でしかない。

 俺の服を着させたとしても。

 うん。

 顔がコワモテすぎる。

 これはいただけない。

 このまま放置は俺の方に疑いがくるだろうし。

 アイテムボックスとかに収納して。

 消してしまってもいいのだが。

 拷問のやりすぎで死体が消えましたは。

 ちょっと無理があるかな。


 今と同じやり方での偽装も可能だが。

 自分の皮を剥ぐのとか、流石にやりたくない。

 出来る出来ないの話ではなく。

 戦闘とか。

 殺人とか。

 チートがあるから平気なのだ。

 俺の根本は一般人。

 別に痛みに強かったり痛覚なかったり。

 そんなことはない。

 自分の顔の皮を剥いで、回復魔法で回復して。

 ちょっと、勘弁してほしい。


 多少の違和感は出るかもしれないが。

 こっちは変身魔法で妥協するか。

 自分の顔なのだ。

 他よりはよほど見慣れてるし、他人に変装するよりはマシなはず。

 でも、マシ程度。

 知り合い相手には通じないだろうな。

 まぁ、今回は相手が相手だ。

 衛兵の目なんて節穴だし。

 この世界には写真もないのだ。

 行ける気がする。

 一応、バレないように傷をつけて置くか。


 人間の印象は七割以上顔だというからな。

 そこを中心に。

 単純に傷つければいいって物じゃない。

 それなら皮剥いだまま、捨て置けば良かったわけで。

 判別できないほど潰すだけだ。

 そうではなく。

 衛兵達から見て、拷問のやりすぎで殺した。

 この発言に説得力を乗せるのが重要。


 ……ん?

 そう考えると、胴体に穴空いてるのはやりすぎか。

 明らかに拷問で出来た傷ではない。


 回復魔法を掛ける。

 この魔法じゃ蘇生はできないが、大雑把な傷ぐらい治せるのだ。

 死体と言っても、死にたてだからね。

 各組織は結構生きてるし。

 皮を剥いでた時も、筋肉の繊維がピクピクしていた。

 皮膚を綺麗に治すような目的ならともかく。

 この用途ならそこまで問題はない。

 やりすぎて怪我した。

 そう言い張れるぐらいまでは治癒出来るはず。


 服も合わせて、8〜9割型本人ってところか。

 人間の顔。

 見られるのは大抵、目元と口元と鼻筋。

 まぁ、目は潰しても問題ない。

 自白させるなら。

 目が見えなくてもそこまで問題ないし。

 すぐ死ぬ訳でもない。

 口元は……

 これは頬を殴られて歯が折れちゃったって形にして。

 鼻は単純に曲げてしまおう。


 いくら出来損ないとは言っても。

 自分そっくりの存在を傷つけるというのは。

 どうも、妙な気分になる。

 やってて気持ちのいいものでもないが。

 これが一番都合良さげだったし。

 仕方がない、か。


 流石にね、国ごと滅ぼせるとはいえ。

 滅ぼしたくはないのだ。

 ウーヌの街にも間違いなく影響が出て来るだろうし。

 今の生活。

 そこそこ気に入っているのだ。


 よし、おっけ。

 じゃあここからは作戦通りに。


 拷問官として、正面から、堂々と退職しますか。

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