騒動 2

 ふんわりとした印象を受ける。

 女性だ。

 歳は少し下だろうか?

 ゆったりとしたワンピースを着ている。

 そして、何よりも。

 たわわな胸元。

 シルエットの分かりにくい服装なのに。

 それでも主張してくる。

 自然と視線が引き寄せられる。


 親しげに話しかけられはしたが。

 はて、全く心当たりがない。

 こんな女性を俺が忘れるはずないのだけど。

 気まずい。

 しばし沈黙の時間が流れる。


「知り合いなんですか?」


 すっと、ノアが戻って来た。

 今見送った所なのだが。

 俺がこの女性に話しかけられてるのを見て戻って来た様子。


 耳元でそう囁かれた。

 謎の冷や汗が。

 さっきまでの健気な様子はどこへやら。

 ちょっと怖い。

 声のトーンも心なしか低い気がする。

 秘密と浮気は違う。

 そう言いたげな雰囲気。


「い、いや……」


 ジト目。


 本当に知らないんだが?

 隠してたりとか。

 そんなつもりは全くない。


 というか、そもそも浮気じゃ無いけどな。

 付き合ってないし。

 え、付き合っては無いよね?

 勝手にそうなってる可能性。

 ……ちょっとあり得そうで困る。

 思い込み激しいし。

 ノートの事で十年以上引きずってたぐらいだし。


 余計なことは考えない方がいい。

 何も言われて無いし。

 ただなんとなくそんな雰囲気を感じ取っただけ。

 これで変なこと口走って。

 踏まなくてもいい地雷を踏むのは馬鹿らしい。

 心配だから戻ってきた。

 そう言うことで。

 わざわざ藪蛇を刺激する必要は皆無だ。


 しかし、目の前でひそひそと話始めたのに。

 俺の方を見つめたまま。

 柔らかい笑みを浮かべている。

 結構失礼なことしてると思うんだけど。

 特に気分を害しては居ないらしい。


「それで、フィオナ先生。先輩に何か用事ですか?」

「あら、ノアさんいつの間に」


 ……え?


 俺の耳元から離れたノアが、自然に声を掛けた。

 お前は知り合いだったんかい!

 フィオナ先生、ね。

 どうやら学園の関係者らしい。

 講師か、教師か。

 そこはよくわからないけど。

 なんとなく貴族っぽいし教師でもおかしくはない気がする。


 なんで俺に声掛けて来たんだ?

 昔の俺を知ってたり、とか?

 まさか。

 当時の学園で教職についていた人間なんて、もうおばあちゃんと言ってもいい年齢だろう。

 そこまで歳を取ってる様には見えない。

 耳も普通だし。

 エルフって事もなさそうだ。


 それに、俺が学園に通ってたのなんて本当に一瞬だからね。

 20年以上前の、すぐ辞めた生徒なんて。

 そんなの記憶に残るはずもなく。

 多分、あれだ。

 ノアが色々と話たんだろう。

 生徒に話してるみたいに。

 前科があるからな。

 確か、メスガキがそんな様な事を言ってた気がする。


 会った事もないのに声掛けられるレベルとか。

 どれだけ詳細に話してたんだか。


 にしても、ちょっと天然入ってそうな娘だな。

 ノアに声を掛けられて。

 今気づきましたみたいな反応。

 視界には入ってたはずだが。

 俺に気を取られて他のことが見えてなかった様子。

 そんなに興味あります?

 どんな事話たんだ。

 なんか、色々盛られてそうな予感。

 ちょっと恥ずかしいのだが。

 話ほどではないなとか思われていそうな気もする。

 メスガキにも似た様な事言われたし。

 あいつはいいとしても。

 こういうお姉様系の人に貶されると。

 結構なダメージだ。

 子供に言われるのとは話が違うと言いますか。

 勘弁して欲しいのだけど。


 メスガキは貶してくるのがデフォ見たいなとこありますし?

 優しく包み込んでくれるお姉様とは違うのだよ。


「この方が、ノアさんがいつも話してた先輩さんなんですね」


 やっぱり。


「はい。なので、ナンパなら他の人に」


 急に何を口走ってるんだ。

 失礼だろ。

 ナンパって、こんな人がするわけ。

 ……

 いや、逆に?

 おっとりしてる彼女が。

 性に奔放なビッチ。

 生徒と教師を食いまくってるとか。

 あり、だな。


 いやいや、俺の趣向な話ではなく。

 ダメだな。

 そもそもこのセンサーはぶっ壊れてるのだ。

 女なら誰でも性欲強そうに見える不良品。

 全くもって意味を成してない。


「ごめんなさい。そういうつもりではなかったのですが」


 まぁ、ですよね。

 何変な疑いかけて謝らせてるんだ。

 困ってるじゃないか。


 ナンパするにしても、ねぇ。

 そもそも俺に話しかけてくる意味がない。

 この周囲には。

 貴族やら、商人やら。

 ハイスペ男子が大勢いるのだ。

 その中で俺来るかね?

 寝取り癖とかあるならあれだけど。

 いや、ここに来てる男は既婚者だろうし。

 それも無いな。

 って、違うそうじゃ無い。

 思考がそっちよりに流されてしまう。


 ノアのせいだぞ?

 ナンパとか言い出すから。

 思考回路が。


 周りは忙しそうに動いてるのに。

 俺たちだけ何やってるんだか。


「ロルフ君は私のこと覚えてますか?」

「いや、ちょっと。ごめんなさい」

「そうですか……。同じクラスだったのですけど」

「へ?」

「何年ぶりでしょう。元気にしてましたか?」


 ……え、もしかして。

 同級生!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る