十二章

騒動

「先輩、大丈夫でしたか?」


 あれやこれやと思考を巡らしていると。

 ノアが駆け寄ってきた。

 忙しいだろうに。

 仕事ほっぽり出して来てたりはしないだろうな?

 いや、してそうだな。

 このタイミングで暇にはならないだろうし。

 まったく。

 想いを向けられてるのは嬉しいんだが。

 ちょっとばかし重い。

 まぁ、贅沢な悩みではあるのだけど。


「何があったんだ?」


 一応、何も分かってませんよというポーズ。

 把握してたら可笑しいからね。

 実力の方は、なんだかんだで多少バレてしまってるところはあるが。

 それでも一部だけ。

 魔法が使えることとか多少強めの事とか。

 それで把握できるのは、魔力が一時この空間に溢れてた事ぐらい。

 それじゃ多少時間を置けばそれで終わりだからね。

 問題なく再会できる。

 こういう騒ぎにはならないはずだ。


「実は、暴徒が……」


 ざっと説明してくれたが、想像通り。

 街中でデカい魔法がブッパされたらしい。

 被害も相当だとか。

 でも、魔眼で見た程ではない。

 やはりと言うべきか。

 結構な数の魔結晶が不発だったのだろう。

 そして、数発の打ち切りだからね。

 制圧も今の所は順調と。


 やはり、同じ王都の中の事だからだろうか。

 それほど時間が経っていないのに。

 かなりの情報が集まってる様子。

 まぁ、学園だからってのもあるのかもしれない。

 独自の情報網とかありそうだし。

 貴族も子供預けてるからね。

 色々なルートから入って来るのだろう。


「じゃあ、学園祭は?」

「延期ですね」

「……まぁそうだよね」


 悲しそうだ。

 頑張ってたのにな。


 って、延期?


「延期するのか? 中止じゃなくって」

「はい。王国の未来を背負ってく子供達の行事ですから」

「はぁ」

「国の威信が掛かってるんです。暴徒如きで中止はあり得ません」

「そ、そうか」


 ここの学園祭ってそんな感じだったのね。

 まぁ、国営の学校だし。

 通ってるのも貴族や有力な商人の子供。

 そうなれば国家の行事ごとと言えなくも無いのか。

 貴族社会。

 メンツが命だからね。

 そりゃ、暴徒如きで中止にする訳には行かない。


 むしろ、延期になった事こそ。

 せめてもの冷静な判断か。

 無駄に危険に晒す訳にも行かないからね。

 それまでに解決しようと。

 国はそういう腹づもりらしい。


 なるほどね。

 じゃあそんな悲しまなくても、とはならないか。

 今日まで準備してきたんだもんな。

 ケチがつくのは、喜ばしい事では無い。


 色々と頑張って来たんだもんな。

 それを邪魔されたら。

 まぁ、控えめに言って最悪。

 しかも、教え子が決勝行ってたんだし。

 そこに水を刺されたのだ。

 想像しただけで不快極まりない。


 あ、そういえば。


「延期って言ってたけど、トーナメントは?」

「それはもちろん続きからです!」


 鼻息が荒い。

 当然とでも言いたげ。

 まぁ、そりゃそうか。

 やり直しはね。

 可哀想だし。


 メスガキは良かったな。

 優勝のチャンスはまだあるらしい。

 と言うか。

 杖、あれどうしようかな。

 ここで回収するのは。

 決勝で使えなくなっちゃうし。

 流石にどうかと。


 でも、なぁ。

 ゴタゴタしてきたし。

 今持ってるの。

 良くない気がする。


 有用性を示してしまったのだ。

 しかも、魔力の制御を外付けできる杖。

 今回の犯人。

 喉から手が出るほど欲しいんじゃないか?

 これがあれば。

 量産できれば。

 不発弾の混じる魔力結晶を安定運用し。

 平民で作った魔術師の軍隊。

 そんなのも夢物語ではなくなる。


 今は誰も気づいて無いだろうけど。

 普通の杖にしか見えていない。

 でも、誰が気づくか。

 見ただけではわからなくても。

 それなりの魔術師なら触れれば気がつくかも。

 やっぱり、危ないよな。


「そういや、あの娘が使ってた杖なんだけどさ」

「あの銀色の」

「そう。あれ、回収しといてくれない?」

「え?」

「俺のなんだよね」

「そうだったんですか?」

「うん、この前教えた時に練習用に貸したんだけど。返してもらうの忘れてて」

「……なるほど」


 俺の話に相槌を打つ。

 意味深な視線。


「言っとくけど別にズルとかしてた訳じゃないよ?」

「分かってます。そもそも事前にそれぐらいはチェック入りますから」

「そっか」

「でも、どうして」

「今持ってたら、ちょっと危険な様な気がして」

「危険?」

「ズルじゃ無いって話と矛盾するかもしれないけど。想像以上に有用だって分かったから」

「そんなすごい杖なんですか?」

「そうは思ってなかったけどね。多分狙われる気がする」

「……まぁ、わかりました」


 納得してくれた。

 俺が言っても話拗れる気しかしないしな。

 ただでさえややこしいことになってるし。

 任せよう。


 あれだな、これ。

 犯人についてある程度事情把握してますって。

 そんな自白をしてるようなものだ。

 初めに惚けた意味が無い。

 まぁ、ノア相手だしな。

 つい話しすぎてしまっった。


 だからだろうか。

 ジト目。

 ノアからの視線が痛い。


「えっと、何か?」

「まだまだ色々と隠していそうだなって」

「あはは」


 そりゃ、勘付かれますよね。

 何も知らないにしては言動がおかしいし。

 自覚はしています。


 ……あれ?

 このまま質問漬けに合うかと思ったけど。

 これ以上聞いてこない。

 それどころか、ジト目が笑顔に戻って。

 なんで?

 逆に怖いんだけど。


「えっと……、ノアさん?」

「ん?」

「気にならないの?」

「そりゃ、気になりますけど」

「けど?」

「先輩から話してくれるの待とうかなって」

「どうして」

「僕を受け入れてくれて」

「まぁ、」

「王都までわざわざ来てくれて」

「呼ばれたからね」

「とっても嬉しかったので」


 健気だ。


 洗いざらい話してしまおうか。

 そう心が傾く。

 魔性っぷりに磨きが掛かってる気がする。

 まぁ、どっちにしろ落ち着いてからだな。

 ノアは忙しいだろうし。


「じゃあ、俺は大丈夫だから」

「はい」

「色々忙しいだろ?」

「ですね」

「大変だと思うが、頑張って」


 あまり拘束するのもあれだしね。

 トラブルでイレギュラー対応の嵐だろうな。

 地獄である。


 ちなみに俺はどうした物か。

 学園祭終わったら帰る予定だったんだが。

 この有様。

 まぁ、ノアの話を鵜呑みにするなら。

 中止ではなく延期になったらしいし。

 次の開催まで。

 ゆっくりしてもいいかな。


 つまり、暇である。

 事態の解決?

 そんなの兵士に任せとけばいいのだ。

 なんのために税金払ってると思ってるのか。

 俺の場合。

 大して納めても居ないが。

 金も貰ってないのに働く気にはならん。

 火の粉を振り払うだけならともかく。

 それ以上はね。

 お賃金が欲しい。


 それに、俺が何もしなくても。

 多分なんとかなるでしょ。


「え、ロルフ君!?」


 不意に名前を呼ばれた。

 ノアの声じゃない。

 そもそも君付けなんてされないし。

 振り返る。

 ……こいつ、誰だ??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る