学祭 11

 何にしても、取り敢えず目の前の事象に対処しなければ。


 対象の魔法に魔力自体をぶつける。

 魔法は使用しない。

 相手が使う以上の威力の魔法を使っての相殺とか。

 可能ではあるが。

 それやると余波で被害がデカくなるだけだし。

 魔力にのみ干渉する形。

 これがベスト。

 圧倒的な量で術式ごと無理やり押し流す。


 分かりやすく言うなら、メスガキが困ってた原因。

 あれを意図的に再現しようて話だ。

 魔力があろうと、それが魔法になってなければ大した効果は発揮しない。

 彼女はイップスからそれを起こしていた訳だが。

 魔力量は十分でありながら、上手く制御できずに効率もガタ落ち。

 結果、使用した魔力量から想定される遥か下の威力しか出ていなかった。

 発動前の魔法に魔力をぶつけてもそれと同じような事が起きる。

 横から別ベクトルの力が加えられる訳だからね。

 これを制御するのは至難の技だ。

 ただ、この魔力だと出来損ないでもかなりの威力。

 実際メスガキの魔法も人に重傷を負わせるぐらいの威力はあった訳で。

 普通はその程度が限界。

 しかし、普通ではなく常識外な物量で押し流して仕舞えれば?

 出来損ないどころか。

 その魔法をほぼ完全に無効化出来るって寸法よ。


 闘技場に魔力の嵐が吹き荒れ。

 文字通り。

 相手の魔法を魔力ごと押し流した。


 ちなみに、俺が今使った魔力は隠蔽されていない。

 流石にそこまでの余裕はなかった。

 やり方の関係上、相手より圧倒的に使用する魔力が大きいってのもそうだが。

 魔法が完成する前に横槍を入れるためにスピードも必須なのだ。

 普段から使うような手段でもないし。

 隠蔽とか、そんな余計なことをしている暇はない。


 周囲も違和感を感じ取ったのだろう。

 魔術師なら当然だ。

 闘技場全体が騒がしくなる。

 バレれば面倒ごと間違いなしだな。

 しかし、この魔力の原因が俺だってことはバレていないはず。

 隠蔽は出来ていない。

 ただ、ここまでの量だとね。

 デカすぎて。

 逆に、発信元の特定が困難になるのだ。

 王都全体から闘技場が元だって事が特定できそうな規模だが。

 そこから先。

 細かいところが分かりにくい。


 それに、今ので警戒は跳ね上がるかもしれないが。

 魔法として使った訳でもない。

 ただ、膨大な魔力が放出されただけ。

 そもそも人がやったとも思われない可能性が高いし。

 身元を特定しようって思考にもならないはず。

 なんならトーナメントも。

 おそらく中止にはならないだろう。

 珍しいけど、自然界でもたまにある現象らしいしね。


 地下で圧縮されていた魔力が噴き出したりなど。

 そういうの。

 ミスリルが自然に出来る訳だからね。

 魔力の圧縮自体はままある事だ。

 影響としては、魔法がうまく使えなくなったりとか?

 原理としてはさっき話したのと同じ。

 一瞬の話だけど。

 魔力なんてすぐに空気中に発散するしね。

 今のはそれを人力で再現した形だ。

 ちなみに本で読んだ。

 学園の教師の著作だったし、知ってはいるだろう。

 だから、まぁ問題はない。

 人が起こせる規模じゃないのだ。

 勝手に勘違いした上で、納得してくれるはず。


 ただ、無効にしてはい終わりともいかない。

 次が来る。

 この手段は何回も使えない。

 いや、魔力量的には可能なんだけど。

 違和感しかない。

 それはあまりよろしくない。

 その前に元を叩かなければ、無意味になる。


 魔眼を起動。


 さっきの時点で大雑把な方向は把握済み。

 その方向を中心に探る。

 しかし、どうもぼやけて見えるな。

 やはり周りの反応から見ても、偽装は間違いなく掛けられてるのだろう。

 ただ、すでに大体はわかってるからね。

 あれほどの魔力量だし。

 隠れるのは不可能。

 偽装と魔力量の合わせ技でピンポイントでの特定が少々困難だが。

 俺には魔眼がある。

 こいつは、範囲を絞れば精度も増すのだ。

 広い範囲から見つけるのは無理だったかもしれないが。

 闘技場内。

 さらに方向も大雑把とはいえ特定済み。

 ここまでわかっていれば、そこから先の把握は一瞬。


 席を立ち、大体の場所に向かう。

 転移なら一瞬なんだけど。

 流石にね?

 突然消えたらおかしいだろう。

 幸い、周囲も混乱で慌ただしくなっていたし。

 席を離れたとて。

 それぐらいなら悪目立ちはしない。

 犯人は何処にいるのか。

 警備がきついとこならアレだけど。

 不審者なのだ。

 そんな所にはいかないだろうという予想。


 やはり、魔力を辿りついた場所は人気が少ない。

 ここは物置だろうか?

 しかもしばらく使われてなさそうな雰囲気。

 内部犯か。

 そうでなければ、事前にそれなりの準備をしていたな。

 突発的な犯行ではなさそう。


 ここまで近づけば、魔眼ではっきりと認識できる。

 この扉の向こう側だ。

 しかし、人の魔力にしては違和感を感じる。

 形は人型なのだが……

 どちらかといえばゴブリンとかオークとかその方が近いか?

 種族ごとの魔力の波形なんて覚えてないし。

 確実なことは言えないのだけど。

 まぁ、そこはいい。

 正直人であってもなくても邪魔な事に変わりはないのだ。

 何者であろうと、俺の取る選択肢に違いはない。


 ドアに手を当て、内部に魔法の刃を生成。

 今度はさっきほど急ぐ必要もない。

 しっかり偽装を掛ける。

 一種の意趣返しの様な物だ。

 チートを生かした、ただでさえ目で見えない魔法の刃への高度な偽装。

 まぁ、まず気付かれない。

 そのまま狙いを定め、射出。

 って、その前に……

 このままだと魔法が壁突き破っちゃうからね。

 事故は望ましくない。

 相手が使った魔法的にかなりの対魔力も予想されるのだ。

 魔法の刃の威力を落とすわけにもいかない。

 射線上にシールドを展開。

 当然、こっちもしっかり偽装済みだ。


 改めて、魔力の刃を射出する。

 人型の魔力が真っ二つに切れたのを確認した。

 案外あっけなかったな。

 他に破壊音などは聞こえてこないし。

 シールドの方もうまく機能してくれたっぽい。

 これで万事解決、かな?


 このまま帰ってもいいんだけど。

 周囲を見渡す。

 魔眼でも。

 近づいてくる人間はいない、か。

 まぁ、こんなことするために犯人が選んだ場所だし。

 そりゃそうか。

 中の人間、流石に興味がある。

 余計なことだという自覚はあるけど。

 これそのまま帰るのはね。

 ちょっと無理だ。

 扉を開け、倉庫の中に入った。


 黒のローブを纏った死体。

 それが真ん中から真っ二つに。

 大量の血を流している。

 室内にあるのはそれだけ。

 大掛かりな装置などはない。


 あの魔法、コイツが放とうとしたってことでいいんだよな。


 ぱっと見は人である。

 魔物とかその類ではなさそう。

 ただ、まともな人間でもない。

 感じる印象としては。

 悪魔崇拝とか黒魔術師とか。

 ざ、怪しい見た目。


 警備の連中はななにしてるんだか。

 俺の事は止めた癖に。

 まぁ、中に入ってからわざわざ着替えたのかも知れないけど。

 にしても酷い。

 危うく大惨事になりかけたのだ。

 反省してほしい。

 酔っ払いに気を取られて他が雑になった説?

 いや、それは俺の責任ではないだろ。

 無いよね?

 ……しーらね。


 しかし、コイツ何したかったんだろうな。

 こんなとこで魔法ぶっ放して。

 まるでテロ。

 別に金銀財宝があったりはしないのだ。

 しかも、周りは魔術師ばかり。

 一発撃てたところでこの未来は変わらなかったと思うのだけど。

 そりゃ被害はデカいけど。

 無差別に殺して得られるメリットなんて……


 ん、テロ?

 もしかしてと魔眼の範囲を広げる。

 目一杯。

 王都のあちこちで結構デカめな魔力反応。

 やっぱり。

 しかも魔力の傾向も。

 コイツと似たような感じだ。

 人とは違う。

 それでいて術者はぼやける。

 偽装方法も同一か。

 無関係だと思う方が無理があるな。


 これ、単独犯じゃないな。

 計画的な犯行。

 テロみたいではなく、文字通りのテロ。

 狙いは貴族だろうな。

 魔力反応も王都の中心部付近。

 貴族街が中心だし。

 ならここでやるのも理解は出来る。


 学園なんて貴族ばかりだしな。

 しかも学園祭。

 今日は親も来てるし。

 警備も普段よりは緩くなる。


 ターゲットとしちゃ、これ以上ない場所ではあるか。

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