学祭 10

 なんだかんだあって、次が決勝。

 メスガキは、危うげなくとは言えないが勝ち進んだ。

 勝ち進んでしまった。

 ここまで来ると流石に罪悪感を覚える。


 にしても、魔力の制御が安定するだけでここまでか。

 メスガキは元の魔力量が多いにしても……

 俺、デフォルトでチート持ってたからあまり気にしていなかったのだが。

 結構強力な効果なのかもしれない。

 魔力の制御を外部ツールに任せられるのって。


 技術の体系化も進んでないしね。

 その大部分を個人の感覚なんて物に頼ってるからこそか。

 工業製品のような精度。

 これに敵わないって事だ。

 と言っても、それが毎回最適とは限らないのだが。

 状況やら環境から逆算しての職人技。

 そんなのもあるのかもしれない。

 ただ、低学年だからね。

 それを期待するには経験値が圧倒的に足りないのだろう。


 このままだと優勝しそうな勢い。

 目を逸らしたい所だ。

 しかし、どうせ結果は変わらない。

 最後まで見るのがせめてもの責任の取り方か。


 で、あの杖の事だが。

 もともと、気に入ってるっぽかったしあげてもいいかと思っていたのだけど。

 ここまで効果が出るとなるとダメだな。

 後で回収だ。

 どう考えても面倒なことになる。

 俺にとっての不都合はそこまででもないけど。

 メスガキの方が。

 そうなったらノアが困るだろうし、仕方がない。

 まぁ、十分自信も付いただろう。

 補助輪としての役割はしっかりまっとうしてくれたのだ。

 もう不要である。

 しばらく苦労するかもしれないが。

 学園祭までの緊張感で調子が上がってたってことで、納得してもらおう。


 ……!?


 そろそろ決勝が始まるかというところ。

 デカい魔力を感知した。

 別に魔眼を使っていた訳でもない。

 それでも反応した。

 それだけ大規模だったって事だ。

 周囲を見ると、特に慌ててる様子はない。

 おかしい。

 周りの観客は貴族中心。

 ってことは当然学園のOBも多く。

 そうなれば、魔術師も多いと思うんだが。

 今のを見逃すだろうか?

 ちょっと考え難い気がする。


 場所は闘技場の内部。

 一瞬、何か揉め事でも起こったのかと思ったが。

 違いそうだな。


 攻撃性の高い魔力。

 おそらく魔法でも放とうとしたのだろう。

 あの量だ。

 かなりの規模になる。

 途中で謎に中断されたが。

 発動されてれば……

 闘技場の観客全体に被害が出ていたかも。


 ちょっとした揉め事で使うような規模ではない。

 それに、学生に使えるとも思えない。

 上級冒険者とか。

 王宮魔術師とか。

 それぐらいのレベル感。

 もし生徒で使えるとしたら何十年に1人って天才。

 それが考えなしに。

 ……いや、普通に考えてあり得ないだろう。


 周りが気付けてないのも無視できない。

 要は魔力自体に隠蔽が施されてたって話だ。

 俺が気づいたのはチート持ちだから。

 あとは規模が巨大だったから。

 揉め事で威嚇に使うならそんな事はしないだろうし。

 隠す理由は一つ。

 他に魔法の発動を知られないようにするため。

 そんなの、悪意を持った人間以外使用しない。


 別に無視していてもいいのだけど。

 これ、俺の方にも影響ありそうなんだよな。

 火の粉は払い除けるのが道理。

 それに、ほっといたら間違いなく大事になるだろうし。

 せっかくの決勝戦。

 中断されちゃうのはかわいそうか。


 俺としてはあやふやになってくれた方が都合いい気もするけど。

 いや、それはあれだな。

 俺のミスだ。

 よろしくない。

 メスガキは別にズルしてる訳じゃないのだ。

 たまたまいい装備を貸してもらえた、それだけである。


 また魔力を感知。

 しかも、さっきよりさらに大規模。

 ダメだな。


 このままだと、闘技場自体が吹き飛びかねない。

 それでもノアは平気だろうが。

 メスガキはアウト。

 関わった期間は短いが、多少なりとも愛着はある。

 目の前で見殺しにするのは違うか。


 本当はあんまり関わりたくないのだけど。

 しゃーなしだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る