学祭 9

 ドリンクと軽食を片手に観戦。

 気分としては野球場。

 プロではなく学生だし。

 例えるなら、甲子園って所か。


 ちなみにこの観戦セット、中で買った物ではない。

 アイテムボックス産だ。

 いや、分かるよ?

 せっかくの学園祭なのだし、イベント事だ。

 現地で買ったものを飲み食いするのが醍醐味である。

 でも、流石にね。

 さっきの紅茶で懲りた。

 高いのだ。

 学園内で売ってるような物は基本上流階級価格。


 カフェはまだ接客あったからあれだが。

 他はそうでもないし。

 軽食を売ってるような屋台なんて。

 商品を受け渡して終わりだ。

 別にぼったくってる訳ではないんだろうけど。

 正直、値段ほどの価値は感じない。


 多少野暮かもしれないが。

 十分楽しめてるし。

 コスパも考えればこれでいいのだ。


 ここに酒もあったら最高なんだけどな。

 まぁ、言っても仕方がない。

 いや、アイテムボックスの中には結構あるんだけど。

 入場の時に懲りた。

 ここで飲み始めたら、多分追い出される気がするし。

 せっかく招待してもらったのに。

 それは申し訳ない。

 ノアに迷惑かける訳にもいかないしね。


 ここじゃなくて、学園の外の。

 王都の他の闘技場なら酒飲みながら見れるだろうし。

 今度行ってみようかな。

 今まであまり興味はなかったのだけど。

 案外、面白いのかもしれない。

 飲みながらの観戦はそこまでお預け。


 今行われてるのは低学年がメインの様だが。

 それでも。

 学園の生徒同士のガチ戦闘だ。

 結構見応えがある。

 学園祭の催しで、学園内部のみの大会とはいえ。

 観客が観客だからね。

 出てるのも貴族だが、観客も貴族なのだ。

 その影響力はかなりのもの。

 将来に関わってくる。

 そりゃ、出るとなれば本気にもなるか。


 見る限り、魔法中心の戦闘スタイルの生徒が大半。

 貴族が多いしね。

 学園で魔法を教わることもあってか、使える人間が多いのだ。

 年齢の割に。

 かなりハイレベルな戦いが繰り広げられる。

 参加者自体も結構な人数いるのに。

 盗賊とか、低級の冒険者とか。

 そこら辺とは鼻っから比較になりそうもないな。

 流石に上級冒険者には並ばないけど。

 別に彼らは戦闘が本職な訳じゃないからね。

 学生なのだ。

 その上でこの戦闘力。

 案外、才能では近いものを持っているのかもしれない。


 でも、それぐらいって感じ。

 学園は一応研究機関も兼ねていて、彼らはその教育を受けている訳だが。

 レベルが高いってだけ。

 魔法自体の進歩はあまり感じない。

 最先端の教育を受けてるはずの学園の生徒がである。

 やはり魔法は個人依存なんだなと。

 強く感じる内容だ。

 まぁ、それに関して言えば生徒に責任はないのだけれど。

 ちょっと寂しく思う。

 前世じゃ、十年もあれば世界を変えるような発明がされていたからね。

 分野はばらけていたが。

 それでも、目まぐるしく変化していた。

 この世界ではそれがないのだと思うと、楽しみが結構削られる。

 一応、まだ期待はしてるけどね。


 次は、メスガキか。

 どうだろうな。

 勝てるかどうか。

 今までの様子を見てると。

 正直怪しい所だ。


 魔力の制御がある程度マシになったとはいえ。

 ついこないだの事だしな。

 学生ってこともあって他も未熟ではあるが。

 経験の差ってのは結構大きい。

 魔力自体は多いし。

 可能性が無いとは言わないけど。

 客観的にみれば、少し厳しいような気がする。


 と思っていたのだが、開幕炎魔法をブッパ。

 相手もそれに反応して水魔法で防ごうとしたっぽいが。

 単純にメスガキの方が威力が強い。

 そのまま押し切ってしまった。

 降参すら言わせずにあっさりとKO勝利。

 凄いな。

 それに、この前以上に制御が安定している。

 だから魔力量を生かしてゴリ押しで行ったのだろうけど。

 それほど期間も無かったのに。

 あれから頑張ったんだな。

 そう思うと、ちょっと感慨深い気がする。


 ……って、あれ?


 メスガキが持ってる杖。

 なんか、見覚えある様な気が。

 あれって……

 俺が貸したミスリルの杖じゃね?

 そういえば。

 練習しろと貸したっきりだ。

 回収するの忘れていた。


 いや、別に高い物でもないしそれ自体は構わない。

 構わないのだが。

 元は銀で出来た杖としては最低限の品質の物。

 それを俺が魔力でミスリルに変えただけだし。

 大した値段ではない。

 だから、渡したまま忘れていたのだけど。

 あの杖。

 魔力を安定させる性質があるのだ。

 練習用に渡したのもそれで感覚を掴んでもらうため。

 そりゃ制御も効くはず。

 補助輪をつけたままなのだし、当然。


 これ、チートでは?

 やらかした?


 初戦に勝利したメスガキ。

 ノアに頭をよしよしされて照れている。

 2人とも喜んでるっぽい。

 まぁ、いっか。

 過ぎたことは後悔しても仕方がない。

 対戦相手はちょっとかわいそうな気もするが。

 そもそも、装備に制限とかないだろうし。

 別に悪事を働いた訳でもない。


 メスガキにとってはあまり良くない気もするけど。

 俺は教師じゃないし。

 明確なルール違反でもないし。

 今回のトーナメントのために高い装備揃えてきたって子も珍しくはないはず。

 それと同じ様なものだ。

 そのつもりはなかったが。

 あれを買い取ってもらっても別にいい訳で。

 レンタルも可。

 元は銀だからね。

 そこそこの値段で貸し出してやるのもやぶさかではない。

 そう考えれば、おかしくもない。

 チートではなくあくまで健全な応援の内って事で。


 魔道具の類ならともかく。

 杖であることに変わりはないし。

 魔力も本人の物だし……


 うん、多分大丈夫でしょ。

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