学祭 6
適当に、カフェにでも入るか。
せっかく学園祭に来たのにただ見て回ってても仕方ないし。
かと言って。
1人でお化け屋敷とか。
占いとか。
そんな年齢でもない。
ましてやお堅い発表なんて見る気も起きない。
消去法ではあるが。
どこか、期待している自分もいる。
「いらっしゃいませ」
教室の中に入ると、メイド服を着た少女が迎えてくれた。
おぉ……
メイド服である。
前世で流行ってたメイド喫茶的なものでは無く。
伝統的な。
ロングスカートタイプの落ち着いたデザインの物だ。
そのまま、席に案内される。
見た感じ年齢は中学生ぐらいだろうか?
メスガキよりは先輩だと思われる。
メイド服を着てはいるが、多分メイドでは無いのだろう。
学園祭なのだし。
本職の人にやらせる意味がない。
普通に生徒だ。
その癖、お客様対応がなかなか手慣れてる気がする。
貴族なのに。
いや、商人の子供の可能性もあるけど。
どちらにしろだ。
この学園の生徒である以上、上流階級である事に変わりはない。
おそらく、普段から接しているからだろうか。
経験はなくとも。
見慣れてはいるのだろう。
マナーとかも厳しく教わってるはずだし。
様になって見えるのも当然か。
メイド服なんて将来袖を通す事もないだろうに、楽しそうに働いている。
こんなおっさん相手の接客でも。
ずっと笑顔だ。
実際、結構楽しんでるんだろうな。
遊びの延長線上。
仕事ではなく。
おままごととか、その類でしかない。
思い返してみれば、俺もそんな記憶がある。
職場体験とか。
面倒ではあったけど、それなりに楽しかった思い出。
小学生とか中学生頃の話だ。
イベントでしかないからね。
本当に働かなければ。
案外そんなもんなのかもしれない。
席に着き、テーブルにはメニュー表が用意されていた。
見るからに立派な紙質。
ここら辺は、流石学園って感じだな。
ただのお遊びなのに。
無駄に金がかかってやがる。
いや、お遊びだからこそ採算とか考えず金かけられるんだろうが。
さて、どれにしようか……
え?
あぁ、なるほど。
お値段の方も、結構ご立派で。
一杯の値段。
俺の飲み代と同じぐらい。
他にも軽食メニューなんかもあるっぽいが。
そっちはもっと高価だ。
こんなとこで腹満たそうもんなら、娼館以上に掛かりそうな気がする。
ボッタクリでは?
いや、別にこれで儲けようなんて事考えてないんだろうけど。
学園祭なんて大体トントンにしかならないし。
儲けても学校に回収されるだけ。
あくまでこれは前世の話だけど。
どちらにしたって、お客さん貴族とか商人ばかりだし。
評判下げるようなことしても仕方がない。
こういう相場観なのだろう。
高級品を使って原価自体が高いから、価格もこの値段になってる。
正直、あんまり払いたくない。
でも店入っちゃったからな。
ここで出ていくのもどうなん?
学園祭の店だよ?
いや、それはありえないでしょ。
払えない訳じゃないし。
まぁ、プライスレスって事で。
祭りの屋台とか。
そういうのと一緒。
それに、上流階級のお嬢さんに接客して貰えると思えば。
むしろこの程度の金額は安いと言える。
キャバクラとかラウンジとか、その比じゃないし。
前世で言えば芸能人とか?
モデルやらアイドルやらのレベル感の相手。
それに接客してもらえるのだ。
もちろん実際の内容として、全く違うと言われればその通りなのだけど。
まぁ、そういう考え方も出来るって話。
そう考えれば、サービス料込みで案外リーズナブルなのでは?
「注文いいかな?」
「はい」
「紅茶を1杯お願い」
悩んでても仕方ないので。
メニューの一番上に書いてあったものを頼む。
多分おすすめなのだろう。
注文を受け戻っていったメイドさん。
すぐに帰ってきた。
何やらティーポットとティーカップを持ってきた様子。
どうやらここで淹れてくれるらしい。
準備を始める。
これ、やっぱり安いのでは?
にしても、学園祭の店なのにしっかり淹れるんだな。
てっきりインスタントかと……
いや、インスタントなんてこの世界に無かったわ。
そりゃこれ以外の方法無いわな。
どうしろって話だ。
仮にこの世界でそんなもの作ったとして。
むしろ、そっちの方が高級品になりそうな予感しかしない。
銀色のティーポットに水を注ぐ。
これ、多分ほんとに銀なんだろうな。
鉄とかだと味が落ちるし。
銀食器か。
それ自体なら庶民でも手は届く。
しかし、この見事な装飾。
明らかに貴族向けの商品である。
一瞬今から水出しでもするのかと身構えたが。
当然そんな訳なく。
半日とか、普通に学園祭が終わる。
おもむろにメイド服の生徒がティーポットに魔力を流す。
すると、そこから湯気が……
沸騰したお湯を一度ティーカップに移し。
茶葉を入れ。
再度、ティーポットにお湯を戻した。
……なに、そのハイテクな茶道具。
あの銀のティーポット魔道具になっていたらしい。
魔力を消費して湯沸かしの出来るティーポット。
そんな魔道具あったのかと。
ちょっとびっくりした。
欲しいかと聞かれれば、お湯が沸かせるだけの魔道具。
お湯なんて他の方法で沸かせば良いし。
だから、別にいらないんだけど。
でも、ちょっと魅力を感じてしまっている自分もいる。
男の子だからね。
そういう物には目がないのだ。
不要だけど、機能もりもりな道具とか。
謎の魅力を感じる。
十得ナイフとかその系統。
失礼だと言われそうだけど俺にはそう見える。
どうせ使わないのが目に見えてるし。
別に買いはしないのだけど。
見る分にはタダだからね。
たまに道具屋で数時間無為に消費したりとか。
そんな事、日常茶飯事である。
目の前で淹れてくれるの。
これ、結構いいな。
スペースがないからって理由なんだろうけど。
香りも感じるし。
接客されてる感も出るし。
かなり嬉しいサービスだ。
ただ、この蒸らしてる間の数分間。
なんとも言えない空気が流れる。
少し気まずい。
別にいいんだけどね。
雑談とか、流石にそこまで求めるのは酷だろう。
彼女たちはプロではないのだから。
「お待たせしました」
2、3分経っただろうか。
ティーカップに紅茶を注ぐ。
綺麗な色だ。
オレンジと言うか茶色と言うか。
期待した通りの見た目。
香りも悪くない、気がする。
まぁ、良し悪しなんてわからないんだけど。
良い匂いではあるし。
多分いいやつなんでしょ。
しかも、砂糖まで付いてきた。
流石上流階級。
あの値段設定も納得だ。
まぁ、俺はストレートで頂くけど。
せっかくのいい紅茶だ。
なんとなく。
砂糖を入れるのは勿体無いし。
これ、砂糖が貴重じゃなくなった現代の価値観なんだろうな。
付いてきてるのにあえて使わないって。
砂糖は高級品だからね。
値段も。
もしかしたら茶葉より高い説ある。
でも、自分が良いならそれでいいのだ。
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