学祭 5

 5話


 ノアとの会話もそこそこに、解散。

 学園を見て回る。

 向こうも名残惜しそうだったし。

 本当は2人一緒に回ってもいいんだけど。

 忙しいからね。

 そんな選択肢は無いのだ。


 別に逃げた訳じゃないよ?

 あのままだと怒られそうだったからとか。

 断じてそんなこと考えてはいない。

 おのれ、メスガキめ……

 いや、完全な八つ当たりなのだが。

 どちらかといえば恨むべきはおっちゃんか。

 トードーの串が美味いのが悪い。

 あんな、最高のツマミ。

 しかも割引価格。

 酒が欲しくなって当然である。


 そんな戯言もほどほどに。

 学園内を散策。

 周囲の光景、それにノスタルジーを感じる。

 生徒たちが廊下を歩いている姿。

 窓から覗く教室。

 学園祭っていう非日常だからかテンションこそ高めだが。

 全てひっくるめて。

 その景色がどこか懐かしい。


 よく見てみれば、前世とは何もかも違うのだけど。

 校舎の作りもそうだし。

 廊下を歩く生徒の髪色もカラフルだ。

 この世界に来てからの思い出は……

 学園に一年もいなかったからね。

 懐かしいってか、大体は新鮮味の方が強いはず。

 ほぼ記憶にないし。

 と言うのも、それぐらい薄かったんだよね。

 チートのおかげで、魔法では何も躓かなかったし。

 他は前世と似たようなもの。

 もともと勉強好きでもないのに興味が湧くはずもなく。

 そりゃ、記憶に残る訳ない。

 覚えてるものと言えば、あのノートのことぐらい。

 それだってノアとの一件が無ければ忘れていた。


 それでも……

 ふと、足を止めてまじまじと周囲を見渡す。

 不思議な縮尺だ。

 別に、ここが異世界だからではない。

 前世でもそうだったのだろう。

 単純に、子供用に作られているからこその違和感。

 廊下に置いてあるロッカー。

 背丈が低い。

 上にもう一段ぐらい増やした方が使いやすそうだが。

 届かないからね。

 教室の机と椅子もそうだ。

 こじんまりとしていて、窮屈そうにすら見える。

 そんなのが無限にある。

 特殊な空間だ。

 大体の場所は大人に合わせて設計される。

 でも、ここの主役は子供なのだ。


 何もかもが違うのにノスタルジーを感じる理由。

 多分、これなんだろうな。

 子供の頃見た景色と大人になってみる光景。

 縮尺が狂って見える。

 通学路なんかが顕著だ。

 記憶よりずっと短くて、本当になんでもない道。

 でも、その違和感が感情を刺激する。


 それに、学園祭ってイベントも。

 世界は違うし。

 通ってる生徒も前世でいう上級国民ばかり。

 クオリティーに差もあるが。

 それでも。

 子供たちが作り上げてるってところに変わりはないからね。

 それが懐かしいのだと思う。


 適当に校内を見て回る。

 クラス単位でやってるのはお堅いのが多いらしい。

 魔法の研究だとか。

 植物の研究だとか。

 この国の歴史についてとか。

 そんなんばっか。

 まぁ、学園に遊びに来てる人間も少ないだろうし。

 仕方ないのかもしれないけど。


 そんなん見ても仕方ないしね。

 どちらかといえば、授業よりの展示。

 見せることより。

 調べることに重きを置かれている。


 そのまま、教室が並ぶ場所を抜け。

 こっちの方は俺も初めて来た。

 クラブとか部活とか。

 それ用の部屋が並ぶ部活棟的な場所。


 こっちは、生徒主体なのだろう。

 前世で見たようなものが多い。

 占いとか。

 お化け屋敷とか。

 カフェとか。

 向こうは調べた内容が貼ってあるだけで無人だったし。

 クラブとかの方に力を入れるのが伝統なのかも。

 元生徒なんだけどね。

 なんせ、一度も学園祭を経験していないから。

 そこらへんの知識が全くないのだ。


 講師のノアが忙しくしてた理由も分かる。

 担任とは違う訳だけど。

 むしろ、そっちの方が負担は大きいのかもしれない。

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