学祭 4
「えっと、ありがとう?」
「なんで疑問系」
恐る恐る、お礼を言ってみる。
助けてもらったからね。
実際結構ピンチだったし。
予想に反して、軽い返事が返って来た。
この様子を見る限り。
あまり怒ってはなさそう?
いや、そこまで当てにならないけど。
俺って人を見る目ないし。
心当たりもバリバリあるし。
ただ、話が拗れないならそれに越した事はない。
「にしても、あの様子だと私が来ないと危なかったんじゃない?」
「うん、その可能性もあった」
「そんな適当な服装で来るからそうなるのよ」
「ごめんなさい」
「ほんと、これだから庶民は……」
ただ、別の方向で怒られてしまった。
服装ね。
まったくもってその通りだと思う。
自分でも反省してた所だ。
やはりTPOやマナーってのは最低限必要らしい。
それにしても、結構元気そうな様子。
何より。
あれから会ってなかったからね。
少し心配だったのだ。
ほんとだよ?
別に、我が身可愛さに逃げたりはしていない。
……多分。
好きな相手に実は彼氏がいたとか。
しかも、目の前でキスしていたのを見て知ったのだ。
数週引きづってもおかしくない。
まぁ、俺は彼氏では無いのだが。
じゃあ何だって言われると難しいのだけど。
そこはともかく。
かなりの心傷案件だからね。
特に、メスガキみたいな思春期の女の子にとっては。
「……」
目があった。
明らかに何かを言おうとして。
躊躇った。
そんな感じ。
「どうした?」
「えっと、これは少し気になっただけなんだけど」
「うん」
「ノア先生とは……」
「?」
「そういう関係って事でいいのよね?」
なんとなくそんな予感はしたが。
聞いてくるのかと。
それに少し驚いてしまった。
見られちゃってたからね。
ずっと、気になってはいたのだろう。
でも、ノアに直接質問する事も出来ず。
俺に聞いてきたと。
初めの予防線が余計痛々しいというか。
少しな訳ないのだが。
そういう強がりなのだろう。
ま、ここで誤魔化してもね。
どうせ意味のない事だ。
本当なら適当にあやふやにしてしまいたい所だが。
ノアの生徒だし。
どうせバレるというか、ほぼバレてるというか。
これはただの確認作業みたいなもの。
「まぁ、正直に言うとそうだな」
「やっぱり」
「察してはいたんだ?」
「なんとなく」
「そっか」
「いつから?」
「ノアが学園に行くより前からかな」
「……」
「ごめん」
「なんで謝るの?」
「いや、好きだったんだろ?」
「なんで!?」
「そりゃあの態度見たら」
「知らない!」
あ、触れない方が良かったかも。
俺に謝られてもな。
これ嫌味でしかないか。
沈黙に耐えられず、ついつい謝ってしまった。
こんなの、前世も合わせて数十年ぶりぐらいだし。
異世界に来てからは経験がない。
だから。
あまり慣れていないのだ。
悪意があったわけじゃないので許してほしい。
ぷいっと。
そっぽを向かれてしまった。
「この間男!」
それだけ言って、走り出してしまった。
人聞きの悪いことを。
俺は元からだし。
どちらかといえばお前じゃい。
ってか。
どこでそんな言葉を覚えたのか。
この耳年増め。
ほんとメスガキだな。
これ呼び止めた方が良かったのかな?
いや、冷静になれ。
呼び止めてどうするって話だ。
別に俺は青春モノをやってる訳じゃないのだ。
ここは学園だけど。
俺は学生じゃないし。
変に流されるな。
碌な事にならない。
知り合いの教え子を見にきてるのだから。
どっちかといえば教師側。
そんなのをする人じゃない。
そもそもの話。
その配役で言えば間違いなく悪役側である。
1人残されてしまった。
門から入ってすぐ。
会話に聞き耳を立ててた人は少ないと思うけど。
人聞きの悪いこと叫ばれたからね。
視線が集まってしまった。
また振り出しに戻るのはご勘弁。
「ロルフ先輩?」
「あ、ノア!」
名前を呼ばれ、振り返る。
ノアだ。
ふぅ、助かった。
「ちょっ、どうしたんですか?」
「酷い目にあった」
「さっきエリス走っていきましたけど」
「あぁ」
「喧嘩でもしました?」
メスガキのおかげで気づいてくれたらしい。
なら感謝。
とはいかないが。
まぁ、多めに見てやらんこともない。
危うく冤罪掛けられるとこだったからね。
俺が会話の選択肢ミスったせいな気もするが。
それはそれ、これはこれ。
「いや、喧嘩というかちょっと不幸な行き違いが」
「そうなんですか?」
あまり想像出来てなさそうだが。
一応、納得してくれたらしい。
これ説明するのはね。
余計メスガキを怒らせる気がするので。
NGです。
それぐらいは分かる。
「と言うか、一緒にいたんですね」
「助けてもらって」
「え?」
「実は、学園に入ろうとしたら止められちゃって」
「招待状は?」
「持ってたよ。でも、服装がほら」
「なるほど」
「そこに彼女が声を掛けてくれたのよ」
好感度あげといたから。
許してほしい。
俺がいる時点で。
そういう問題じゃないと言われそうな気もするが。
そこはね。
もう仕方ないから諦めてくれ。
「すいません、僕が事前に周知してれば」
「いや、そんなのいいって」
「そうですか?」
「問題なかったし、それがお仕事なんだから」
それはそれで恥ずいしね。
高圧的って訳でもなかったし。
普通に仕事してただけ。
ちょっと行き先が不安ではあったが。
最終何もなかったし。
終わりよければ全てよしって事で。
あんまりノアに負担掛かるのもね。
ただでさえ大変そうだったのだ。
「招待状持ってればあまり止められないのに」
「あ、そうなんだ」
「はい。だから不運な……」
ノアの言葉が途中で止まった。
あれ?
クンクンと俺の匂いを嗅ぐ。
顔を近づけて。
おい!
学園の外でも相当だったが、敷地内だぞ?
ちょっと待ってくれ。
メスガキもまだ近くにいるかもしれんし。
そう思ったが。
何をするでもなく。
すっと、身を引いて向き直る。
「先輩、もしかしてお酒飲んで来ました?」
「え?」
「アルコールの匂いがするんですけど」
「俺にとっちゃジュース」
「そう言う話ではなく」
「……飲みました」
「服装とかじゃなくて、そのせいなんじゃ?」
冷静になってみれば、これ絶対そうだわ。
仮に招待状持ってても。
服装が一般人。
しかも酔っ払い。
俺ならこんな人間絶対学園の中に入れませんわ。
メスガキのおかげで中に入れたけど。
あれ?
来なかったら詰んでたのでは。
危なかったとか、そんなもんじゃない。
ノアからのジト目。
視線が痛い。
気をつけよう。
迷惑かけたいわけじゃないしな。
まぁ、今更なのだけど。
心掛けるって事で。
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