学祭 3

「もしかして、お知り合いでしたか?」


 俺が視線を向けたのが良くなかったのだろう。

 声に反応して、咄嗟に……

 今は現在進行形で取り調べを受けてる状況なのだ。

 当然、兵士も目の前にいる訳で。

 俺のことを注視している。

 そんな状況でバレないはずもなく。

 兵士が目ざとく見つけてしまった。

 メスガキ相手に少し下手から確認を取る。


 相手は子供だか、子供である前に貴族だからね。

 無碍には出来ない。

 彼女が招待した客とでもなれば対応を変える必要もあるし。

 俺へのこの審査も。

 多分、不審者っぽかったからそうしてるだけで。

 ただの仕事だ。

 別に嫌がらせをしている訳でもないし。

 そもそも身分が保証されるならそこは構わないのだろう。

 個人的な感情などない。


 どっちに転ぶか。

 かなり怖いんだけど。


 一応知り合いではある。

 ただ顔を知ってるだけじゃなくて、魔法を教えた訳だし。

 少なからず感謝してくれてた様な気もする。

 勘違いじゃなければ。

 ずっと悩んでたっぽいし、それを解決した訳だからね。

 普通に考えて。

 かなり好感度を稼げるイベントだ。


 でも、恨みも買ってそうなんよな。

 その自覚がある。

 しかも、ちょっとした物ではなく。

 一発ゲームオーバー級の。


 兵士に話しかけられた彼女がチラリと俺の方に視線を戻した。

 目が合う。

 ニヤリと悪い笑顔を浮かべた様な。

 メスガキモード?

 いや、自分で考えておいて意味不明な造語だが。

 メスガキが男を揶揄うために悪意を持って行動する事。

 そんなイメージだ。

 痴漢冤罪とか?

 何度も同じようなシチュエーションを見たことがある。

 無論、リアルではなく同人誌の話。

 その後わからせが入って読者はスッキリする訳だが。

 一回酷い目に合わせられるからな。

 それだけで面倒なのだ。

 せっかくの学園祭なのに、どれだけ時間を取られる羽目になるか。


 仮に一旦兵士に捕まったとして。

 多分、ノアが助けてくれるだろうからね。

 刑事罰とかはないだろうし。

 禁固何年なんて事になる可能性も皆無。

 チート使ってどうこうとか。

 その必要はない。

 だから、俺のチートがばれてどうたらみたいな心配もない。

 そこはいいんだけどさ。

 でも、面倒なのは面倒だよね。


「……はぁ。その人、ノア先生のお客様よ」


 って、あれ?

 助けてくれるの?


「あ、それで冒険者カードを」

「もしかして、身分証求めたらそれ出してきたの?」

「はい」

「ランクが低いから疑っていたのね」

「そ、そんなことは」

「いいの、あのおじさんが悪いんだから」

「はぁ……」

「どうせ真面目にやってないのよ」


 酷い言われよう。

 しかも、いつの間にかおじさん呼びに戻ってるし。

 俺がおっさんなのは否定しないけど。

 ロルフ先生とか。

 呼んでくれてなかったっけ?


 まぁ、助けてくれただけ感謝か。

 文句を言うのはお門違いだ。


 ただ、兵士は俺の立場がよくわからないのだろう。

 メスガキの悪態に苦笑いするだけ。

 片方に同調するわけにもいかないもんな。

 庶民生まれなのだろう。

 それが学園で警護なんてエリートだとは思うが。

 色々と大変そうだ。


「それで、ノア先生呼んできた方がいいの?」

「いえ、招待状の方も確認は取れているので問題はないです」

「そう」

「ロルフ様も申し訳ございませんでした」


 通してくれるらしい。


 そんな、深々と頭を下げて。

 大変な仕事だ。

 誰でもかんでも通すわけにもいかないが。

 止めた相手がお偉いさんの可能性も高い。

 地獄では?

 まぁ、仕事だからね

 仕方ないのかもしれないけど。


 別に文句はない。

 ただ無駄にドキドキしただけで。

 実際俺も怪しかったしな。

 普段着のまま来るもんじゃない。

 もう少しまともな服を着てくるべきだった。

 そうすれば多少スムーズだったろうに。

 TPOってやつ。


 高い服なんて金の無駄だと思ってたけど。

 一着ぐらいあった方がいいかもな。


 それで、だ。


 兵士のチェックは無事に超えれたわけだが。

 目の前にはメスガキ。

 今、俺のことを助けてくれたのだから居るのは当然だ。

 ジトっとした視線を向けられている。

 何を考えてるんだか正直よくわからない。

 ……これ、どうすれば。

 なんか状況が悪化してる気すらしてきた。

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