生徒 12
ま、チェンジってのは冗談として。
冗談だよね?
聞いてくれる姿勢が整ったところで。
始めるか。
「魔法がうまく使えない原因、自分では何でだと思う?」
「制御の甘さですよね」
「正解。魔力量は十分あるんだけどね、制御が甘いせいでだいぶ損をしちゃってる状況だ」
「はい」
「これを何とかしないと今の現状を突破できない」
別にこれが冒険者とかだったら。
そりゃ、制御できるに越したことないけど。
魔法使える時点で有益だからね。
言う事ないんだが。
学園の生徒だとそうも言ってられない。
ほんと、難儀ではあると思う。
「原因は分かる?」
「いえ、それが分かれば……」
「ま、だよね」
それが分かってればとっくに自分で対策してるだろう。
大概の問題は原因不明。
それが一番厄介なのだ。
特に人間の体なんて未知の部分が多いからね。
技術が進んだ前世でもそうだったのだ。
この世界の文明レベル。
しかも、魔力なんてものが乗っかってもう一段複雑になってるし。
そりゃブラックボックスの塊にもなる。
魔法関連の技術が俗人化しやすいのも。
こういう所もあっての事なのだろう。
「心理的な物だとは思うんだけどね」
「心理的な?」
「そう。体の方に問題はなさそうだったし」
「何でそんなこと」
「見ればわかる」
疑わし気な視線を向けられる。
ま、そりゃそうだ。
でも説明する気はない。
学園とかの話は調べれば分かる事だからね。
隠してるわけでもないし。
ただ、ほとんど話さないだけで。
でも魔眼とかは。
俺のチートに関わる事だから。
明確に秘密である。
何となく強いっぽいとか、そういうのとは異なるのだ。
「疑ってる訳じゃないけど、努力もしてるんでしょ?」
「……はい」
「なら何か、そうだな」
「?」
「例えばだけど、幼少期にトラウマになるようなことでもあった?」
「トラウマ……」
正直これぐらいしか思いつかないし。
なんらかの原因があって、イップスに陥ってる。
体の状態を見て。
この可能性が高いと思った。
魔力の回路には問題なかったし。
話を聞く限り魔法には真面目に取り組んでるっぽいからね。
後は致命的にセンスがないか。
俺としては前者であって欲しいところ。
後者だとね。
改善の方法がひたすら努力あるのみとしか言えないし。
解決まで時間か掛かる。
別に今回は成果出す必要もないのだが。
ノアがせっかく頼ってくれたし。
それにドヤ顔したい。
多分、いい反応を返してくれると思うんだよね。
「たとえば、魔力で誰か傷つけちゃったとか」
「……何で」
「え?」
「そんな事誰にも言ったこと無いのに」
「ま、それ以外可能性も思いつかなかったからね」
「……」
「あったんだね?」
「はい、学園に入学する少し前に」
ビンゴ!
心当たりはあったらしい。
それを原因と思わなかった理由だが。
まぁ、言い訳にしたくなかったとか。
思い出したくなかったとか。
いくらでも想像できる。
別に体に傷ができる物でも無いしな。
むしろ加害者。
傷を与えた側だ。
その意識が余計正解を遠ざけていたのだろう。
気づかないタイプの人は。
多分、一生気付かない。
「細かいことは聞かない」
「はい」
「言っちゃ何だが、珍しいことじゃ無いからね」
「そうなんですか?」
「イップスとか言うんだっけ」
「初耳です」
「心的要因で体が思い通りに動かせなくなるんだ」
「そんな事が……」
この世界じゃそこまで広がってない概念なのかな。
戦争とかしょっちゅうやってるし。
魔物なんてものが居るのだ。
前世より命の危険に陥る場面も多い。
PTSDとか、イップスとか、それこそかなり多いような気もするが。
鬱とかと同じか。
昔は甘えで処理されてたって言うし。
その傾向があるのだろう。
「まぁ、一種の病気だよ」
「……病気」
メスガキが分かりやすく気落ちしている。
病気って言われたらね。
そうなるか。
でも、これは前進なのだ。
原因がわかったってことは。
それに対して解決のために動けるってことだからね。
原因がわからないと。
何をしていいのかも分からない。
それに。
ちょっと良いこと思い付いた。
「落ち込む必要はない」
「でも」
「病気だからね、その状態が通常ではない」
「え?」
「つまり、才能がなかった訳じゃないって事」
「ロルフ先生!」
「まぁ、才能があるとも限らないけど」
「ロルフ先生?」
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