生徒 11

「やっぱり、私には才能がないんですね」

「まぁ、だろうな」

「……」

「でも、落ちこぼれるほどでもないと思うけどな」

「え?」

「制御は下手だったけど、魔力量はあるし」

「なら、どうにかしてくれるんですか?」

「多分」

「そんな安請け合い、変に期待させないでください」

「んなつもりは無いんだけど」

「もう帰ります」

「えぇ、どうぞご勝手に」


 落ち込んでいたのが、一瞬顔を上げた。

 ちょっと嬉しそう。

 別に褒めたわけでも無いのだが。

 それぐらい自信を無くしてたってことか。

 でも、それだけ。

 はっと気づいたようにまたネガティブに。

 諦めてしまってるらしい。

 自分に期待を持てないと。

 こりゃ、重症だな。


 まぁ、俺のこと信用できないのはその通りだけど。

 こいつから見たらただのおっさんでしかない。

 実績やらなんやらもノアからの又聞きでしかない訳で。

 肩書きも皆無だからね。

 信用に足る要素は皆無と言っていいだろう。


 しかし、帰るって勢いで言ったのだろうが……

 どうやって帰るつもりなのだろうか?

 あからさまに困ってる。

 そりゃそうだ。

 出口なんてないし、壁壊せるなら話は別だけど。

 今無効にされたばかりだからね。

 壁をぺたぺたしたりしてたが、そう広くもない。

 すぐに一周した。

 諦めたのだろう、とぼとぼ戻ってきた。


「本当に何とか出来るんですか?」

「疑ってるの?」

「まぁ……」

「ノアが俺のこと褒めてたんでしょ。信用してないの?」

「ノア先生はいい人です」

「なら」

「でも、騙されやすそうだから」


 それは、……確かに。

 そもそもこの関係自体、ノアが騙されて始まったところあるしな。

 メスガキの癖して。

 なかなか見る目あるじゃないか。


「先生が教えるのに使ってた、ノート書いた人なんですよね?」

「あ、そうそう。信じる気になった?」

「まぁ、綺麗に纏められてたと思います」

「でしょ」

「でも、内容だけならあんなの私でも」

「本当に?」

「すごい情報が書いてあるわけじゃなくて、学園の図書館にも置いてあるような事がまとめられてるだけ」


 否定はしない。

 そもそも、そう言う目的で作った物じゃないし。

 学生時代。

 ただ、勉強のために作ったものだ。

 こいつにも作れるってのもまぁ。

 学生の時だしな。

 作ったの。

 そりゃ学園の生徒なら作れるだろう。


「強いってのも怪しいし」

「おっしゃる通り」

「……ファイヤ」

「おい! 人に向かって魔法を放つな」


 急にどうした。

 だいぶ加減はされてたが。


「そんな簡単に、やっぱり私なんて」


 勝手に攻撃して、勝手に落ち込むな。

 情緒不安定すぎやしないか?

 さっきまでの分かりやすいメスガキ風味はどうした。

 自信満々だったのに。

 なんでこんな打たれ弱いかね。

 裏付けがないんだろうな。

 ただの虚勢。

 だから、簡単に剥がれ落ちてしまう。


「はぁ……秘密守れるか?」

「秘密?」


 俺も仕事受けたからね。

 真面目にやらないと。

 ってのは建前か。

 もともと適当にやってそれで済ますつもりだったし。

 今更だ。

 これ、なんて言えばいいんだろうな。


 メスガキの不自然な状態に興味がある。

 それはもちろんそうなのだが。

 それ以上に。

 自分でも知らなかったのだけど。

 どうやら、俺って一度関わりを持つとどうにかしてやりたくなる性分なのかもしれない。

 ノアに呼ばれて王都に来たのも、なんだかんだ理屈並べたが結局ここら辺から。

 ブラック企業だと分かってて死ぬまでやめられなかったし、学園も停学くらうまでダラダラ通っていたのだ。

 要は、仕事として受けてしまった時点で。

 最後までやり切りたくなる、そういう性格らしい。


「証明でもしようかと思って」

「何、これ?」

「身分証」

「Dランクの冒険者カードなんて見たって」

「まぁまぁ」

「え、これ学生証?」

「そう」

「どこの」

「良く見てるだろ、学園のだ」


 学生証を見せた。

 普通に魔法とか使ってもいいんだが。

 何となく。

 これが一番分かりやすいかなって。


「貴方って貴族だったの?」

「いいや」

「お金持ちの息子とか?」

「そんなんじゃないよ。でも、先輩ではある」

「先輩……」

「話聞く気になった?」

「多少は」

「なら良かった」


 やっぱこういうのは身近な存在の方がいいからね。

 俺が魔法見せつけても。

 余計落ち込むような気もするし。

 同じ学校出身っていう共通点。

 これ初対面の相手には結構強力なキッカケになる。


「ちなみにいつの卒業生?」

「ん?」

「え? 生徒だったんでしょ」

「そうだね」

「卒業は?」

「してないよ」

「??」

「入学した年に辞めたからね」


 俺の言葉にメスガキが一瞬硬直し、


「……やっぱチェンジで」

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