生徒 10

「じゃ、適当に魔法でも使ってみてよ」

「……大丈夫なの?」

「いいから」

「でも、結構狭いし」

「そのための場所だから、やってみれば分かる」


 不安そうに周囲を見渡すメスガキ。

 それ目的で作った場所だからね。

 問題はない。

 とは言っても、さっきの説明だと不安になるのもわかるが。

 どこの誰が作ったのかも分からないし。

 しかも、信用ならないおっさんからの又聞きである。

 そこはフィーリングって事で。

 これ目的で来たのだ。

 真面目に指導するかは置いておくにして。

 とりあえず形だけでもやってもらわないと困る。

 魔法も見てないのに教えましたとか。

 流石に通用しないだろう。


 まぁ、不安になる気持ちも分からんでもない。

 ここ結構狭いしね。

 学園の施設は広大だ。

 それは予算があるからってのもあるが、魔法の余波に巻き込まれないようにするため。

 ある程度、広さが必要なのだ。

 この狭さだと確かに心配か。

 壁に直で魔法を当てることになるし、部屋自体が崩れそうとでも思っているのだろう。

 普通の素材であればその心配ももっとも。

 ただし、この空間に限っては問題ない。


 もともと俺が魔法の練習するために作った。

 いや、練習はあんましなかったか。

 それでも、授業でやった魔法の確認のために作った場所だからね。

 想定はしていたのだ。

 ちょっとやそっとで崩れたりしない。


 流石に俺が本気でやったら。

 いや、そのレベルじゃなくても。

 多分ノアとかでアウト。

 でも学生ならね。

 余程の天才でもない限り。

 全力で魔法ブッパしたところで問題はない。

 伸び悩んでるメスガキなら。

 まぁ、十中八九大丈夫だ。


「そこまで言うなら、……どうなっても知らないからね!」

「はいはい」


 部屋の角まで移動する。

 そこから使うのか。

 対角線上に、反対側の角の方へと手を伸ばす。

 わざわざ端に行かなくてもと思ったが。

 なるほど。

 最低限、魔法による自分への被害は無くそうと。

 そういうことらしい。


 にしても、俺への警告は無しですか。

 お前の想定だと巻き込まれるんじゃねーの?

 ちょっと痛い目見せてやろうとか、そんな魂胆が見え隠れする。

 お前に教える義理はないとでも言いたげ。

 まぁ、別にいいんだけどね。

 むしろ、それでこそメスガキである。


「ファイア」


 基礎的な火魔法の一種か。

 彼女の手の先に魔力が集中し。

 熱を帯びる。

 一部が発光し、その光が拡大。

 火球が生成された。

 射出。

 そのまま壁にぶつかる。


「……え」


 ただし、焦げ一つ付かない。

 衝撃もまるで吸収されたように、消え失せ。

 周りへの被害も皆無。

 当然、俺が巻き込まれることもない。

 メスガキが驚愕といった表情を浮かべる。

 言ったでしょ?

 全く問題ないって。


 威力としてはそこそこ、か。

 直撃したら重症を負わせられはするだろうが。

 殺せはしない。

 それぐらいのダメージ。

 ……弱い、な。

 これが伸び悩んでるって所かな。


 見る限り、魔力はしっかりこもっていたんだが。

 魔法も発動自体は出来ていた。

 でも、威力が……

 使用されてる魔力から想定されるものより低い。

 別に壁に傷つけられないのはいい、そこまでの威力が出るとは思ってないし。

 だが。

 にしても、って感じだ。

 ここに入る時。

 外で試してもらったのと同じだな。

 魔力の制御が不安定。

 そのせいで魔法への変換効率もガタ落ちしている。


 これ、幼い子供には多い症状なのだが。

 なんだかんだメスガキは小学校高学年ぐらいの年齢。

 この年でこれはちょっと珍しいか。

 だから遅れ気味って表現ね。

 他の子達はだんだん克服していくから。

 ノア的にそれが成長の遅れに感じたのだろうけど。

 果たして。

 魔眼を起動する。

 話から予想はついていたが、魔力は多いな。

 上位貴族とかそれ並み。

 それのおかげでこんな変換率でも遅れ程度で済んでいた。

 確かに才能はあるらしい。

 魔力量って意味に限っては。

 しかし……

 制御が不安定になる理由は大抵体内の魔力回路の未発達なのだが。

 予想外にと言うか。

 そっちの方は順調に成長してるらしくぱっと見問題はない。


 他の原因としてはサボりとかそこらへんだが。

 感覚で覚えるものだからね。

 日々の反復は大切だ。

 でも、生意気ではあるが真面目でもある。

 俺の言うことにも一応従ってくれてるし。

 ノア相手なら尚更。

 より素直だろう。

 これで伸びないってのもな。

 確かにノアは講師としては素人で。

 本人も自分の教え方に問題があるんじゃないかと疑っていたが。

 でも、あのノートだけ。

 つまりほぼ独学でAランクまで成り上がった人だし。

 それに、担当してる生徒全員がスランプならともかく。

 このメスガキが突出してって感じらしいからなぁ。


 適当にやってはい終わりってつもりだったけど。

 これ、少しおもろいかも?


 俺があれやこれやと考えていると。

 よたよたと、メスガキが反対側の角まで歩いていく。

 壁の、魔法が当たった部分。

 そこをそっと撫でる。

 もしかしたら、結構ショックだったのかもしれない。

 魔法で傷も出来なかったってのが。


 肩を落とし、わかりやすく落ち込んでいる。

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