生徒 6

 なんとかベッドの誘惑を断ち切り。

 後ろ髪を引かれつつ、宿を出る。


 受付で金を払おうとした所。

 代金は頂いてますとの事。

 どうやら、ノアが払ってくれてたらしい。

 いや、ほんとにイケメンだな。


 こりゃ、メスガキが惚れるのも無理ないわ。

 ませた女の子特有の年上への憧れとかではなく。

 単純に魅力的な人間だし。

 他の子もやられてる説濃厚では?

 しかも、今結構中性的な見た目してるからなぁ。

 男女問わず魅了しててもおかしくはない。


 貴族やら大商人の子供やら。

 学園の生徒なんて将来の王国を背負う人ばかり。

 彼らの性癖を破壊して。

 未来の王国をどうしたいのだろうか?

 ってのは、冗談だけど。

 個人で王国にえげつない影響力持ちそうではある。

 あれだな。

 気がついたら貴族とかになってても。

 そこまで驚きはない。


 くだらない事を考えながら。

 宿を出たそのままの足で。

 屋台へ。

 昨日のトードー美味かったし。

 時間空いちゃったからね。


「おっちゃん、串3つ」

「あいよ」


 昨日と同じ場所、目的の屋台が出ていた。

 屋台だし場所変わるかと思っていたが。

 まぁ、祭りでもないしね。

 毎日出てるタイプのものだ。

 同じ場所の方が固定客もつきやすいだろうし、わざわざ変える必要もないのだろう。

 ナワバリみたいな物。

 ここが定位置なのかもしれない。


 もしかしたら、場所の権利とか買ってるのかもな。

 そういう商売ありそう。

 屋台っていうとそっち系が思い浮かぶが。

 王都の大通りだしヤクザとかの反体制側ではなさそう。

 商人ギルドとかその辺りだろうか?

 どちらにしても結構搾り取られてそうではあるが。


「って、あれ? お前さん昨日ぶりだな」

「気づいた?」

「昨日の今日で忘れるかよ」

「そっか」

「なんだまたトードーの串食いに来たのか」

「まぁね」


 口調としてはぶっきらぼうではあるが。

 心なしか嬉しそう。

 料理人だからね。

 リピートしてもらえるってのは嬉しくはあるのだろう。

 また食べたいと思われたって事だからね。

 最上級の評価ではある。

 料理を褒められると好感度が上がるタイプか。

 ちょろい。


 まぁ、屋台のおっさんの好感度上げてもね。

 しょうがないんだけど。

 ほんとだよ?

 ノアが例外なだけ、俺は別にホモではないのだ。

 おっちゃんの照れ顔とか。

 そんなの見せられても嬉しくもなんともない。


「今日も酒飲むのか?」

「おっちゃんがそこまで言うなら貰おうかな」

「別に進めてはいねぇーよ」


 おっちゃんの戯言を流しつつ、酒を受け取る。

 やっぱこの串は酒に合うな。

 濃いめの味付けがいい。

 昼間っから、屋台での飲み歩きってシチュエーションも。

 ちょっとしたスパイスになり酒が進む進む。


「良い飲みっぷりだな」

「おっちゃんも飲むか?」

「仕事中だよ」

「そりゃ、残念」


 誘うも断られてしまった。

 当然である。

 祭りの屋台とかだと飲んでくれるんだけどね。

 そうはいかないらしい。


「昨日も昼間っから飲んでたが、何してんの?」

「言っとくけど無職じゃないよ」

「そんなこと言ってねぇ」

「学園祭見に来たんだよ」

「学園祭って、あの学園祭か?」

「それ以外があるなら教えて欲しいな」

「入れるのか?」

「招待もらってるからね」

「へぇ、あんた結構すごいやつだったんだな」


 いや、その言い草よ。

 屋台のおっちゃんにどう思われてたんだか。

 やっぱ無職だと思われてたのでは?

 ま、強く否定は出来ないが。

 非常に残念なことに、今は何もしてないしな。

 それどころか、さっきの宿代ノアにも奢ってもらっちゃってるし。

 最早ヒモでしかない。

 一応、昨日のディナー代は出したから……

 それでギリセーフって事で。


 ちなみに、見直された理由だが。

 学園祭って基本関係者しか立ち入り出来ないんだよね。

 生徒が貴族やら大商人の子供やら、要人の塊だし。

 警備も厳しいとはいえ。

 誰でも入れます状態だと困るのだ。

 庶民がどうこうというよりは。

 他国の人間とか?

 まぁ、庶民は身元がしっかりしてないのも多いからね。

 結果としてやる事は同じなのだけど。


 おっちゃんから訝しげな視線を感じる。

 半信半疑って感じだ。

 単に、口で言っただけだしな。

 今の服装もノームの冒険者スタイルの物で、無職と勘違いされても仕方ない装いではある。

 とても学園に入れる身分の人間には見えない。

 かと言って証拠もないし。

 出来るとしたら、無職ではない証明ぐらいか?

 そもそも証明する必要もないのだが。

 なんとなく。

 無職と思われるのは癪なのだ。


 低ランク冒険者も無職も大して変わらない?

 まぁ、見ようによっては確かに。

 更新が必要なタイプじゃないからね。

 ランクが高いならともかく、Dランクとか昔作ってそのままの人もいる気がする。

 だが、しかし。

 大して変わらないからこそ、その差は重要なのだ。


「俺の身分証。無職じゃないだろ?」

「へぇ、冒険者。ってDランクじゃねぇか」

「バレた?」

「学園祭もよく考えたらしばらく先だし」

「そういや、そうだな」

「結局暇なんじゃねえか!」

「確かに」

「……ったく、どこまで本当なんだか」

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