生徒 5

 このままベッドの上でダラダラとしていたい所だが。

 ホテルだからね。

 いつまでも横になってる訳にもいかない。


 それに、昨日の話受けちゃったし。

 ノアに頼まれた。

 生徒のこと見るってやつ。

 長期間しっかり面倒見るかは置いておいて。

 とりあえず一回。

 最低限やらないとね。

 約束したことぐらいはこなさないとだ。


 学園祭まで、まだしばらく時間が空く。

 その間は王都にいるのだけど。

 後回しはよくない。

 どうせ面倒がるのが目に見えてる。

 今日中に済ませてしまう予定。

 だから、どっちみちそれまでには出ないと。

 ノアにも伝えてある。

 準備の方はしてくれるはず。


 俺から声かけるのは無理だろうからね。

 例のメスガキ。

 彼女は学園の生徒なのだ。

 俺みたいな部外者が、勝手に中に入るの訳にも行かず。

 かと言って、外で待ち構えるのも通報される気がする。

 本人を見つけた所で。

 そもそも嫌われてそうだったし。

 邪険に扱われるのが落ちだ。


 ただ、愛しのノア先生の頼みならどうか?

 それなら向こうも言うことを聞いてくれるだろう。

 渋々かも知れないが。

 それで問題ない。

 俺の話に耳を傾けるかは別として。

 とりあえずノアの望み自体は叶えられるはず。


 それじゃなんの解決にもならない?

 まぁ、その通りだ。

 その通りではあるが、それでいいのだ。

 メスガキ自体はどうでも良いからね。

 俺は一旦見るだけ。

 そこから先に責任は持てない。


 とりあえずノアの気分が軽くなるならそれで十分。

 そもそも、才能があるなんて言ってたが。

 ちょっと怪しい所あるし。

 本腰入れたところで素人がどうこう出来る保証もないのだ。

 本当に才能なんてものがあったとして。

 そんなものがあるなら勝手に伸びる。

 それこそ、ノアの様に。

 ただ、素人が本を適当に纏めただけのノート。

 それを信じてAランクにまで成り上がったのだ。

 教え方どうこうの話ではないと思う。


 でも、伸び悩んでるんでしょ?

 あのメスガキ。

 教え方次第で多少改善する可能性こそあれ。

 元々そんなもんなのではなかろうか。

 そんな気がする。


 そりゃ、貴族だしそれなりに魔力はあるのかもしれないが。

 ノアが才能はあるって言ったの。

 あれも単純な魔力量を見ての話だった可能性が高い。

 魔力があれば魔法を使う上で有利ではある。

 でも、魔法はそう単純じゃない。

 いや、正確に言えば単純じゃないらしいって所か。

 俺はチートのおかげで簡単に扱えちゃったから。

 そこら辺結構疎いのだ。

 魔法ってのは個人の感覚による部分が大きいらしいく。

 単純に言えば、センスが物を言う世界。

 そこまで体系化もされてないし。

 だから、教えると言っても。

 基礎的な部分、そこを過ぎてしまえば中々難しい代物なのだ。


 この世界じゃ、技術が国を渡らない。

 例えば、ネジひとつとっても。

 国境を跨げばサイズも性能も全く異なってくるし。

 規格はバラバラ。

 当然の様に、互換性などは皆無。

 ネジですらそれなのだ。

 魔法なんてのは国力にも関わってくる部分。

 そして、それだけ重視されるってことは。

 出世競争やら権力闘争にも力を発揮してしまう。

 ネジですら魔法に比べればまだマシ。

 魔法なんかの話になると。

 国どころか人から人へすら渡らない。

 情報が遅いってのは何度も感じてはいたけど。

 これは特に酷い。

 異世界での弊害の一種だ。


 専門的な知識。

 前世じゃ、理解できるかは別として誰でも調べること自体は出来た。

 この世界じゃそうもいかない。

 情報媒体として一応書物があるけど。

 高価だし、希少だし。

 そもそも本にも全てが書いてある訳でもない。

 弟子入りして、何年も経ってそれで初めて教えてもらえる。

 そんな秘伝のような技術もあるのだ。


 情報が独占され、研鑽されない。

 それどころか。

 定期的に失伝すらしていて。

 そうと気づかぬ再発見が無限に繰り返される。

 こんな状況で発展など望めるはずもなく。

 結果、魔法の知識は停滞気味。

 何年も昔の賢者様。

 彼が張った結界を今なお使い続けてる有様。

 これが切れたら?

 まぁ、劣化品しか張り直せないだろうな。


 前世の世界じゃ、過去の人間に凄さはあったとしても。

 基本的に上回られることはない。

 教科書に載るような偉人。

 彼らが一生かけて知り得た情報を学生のうちに知ることが出来る。

 それ以上の性能の物をなんでもない一般人が量産する事が出来る。

 他の分野でもそうだ。

 野球やサッカーの様なスポーツでも。

 将棋やチェスの様な頭脳競技でも。

 過去の人々の積み重ねがある。

 戦術も、食事も、トレーニング方法も。

 より良いものが確立され。

 過去とは比べられないほどに進歩している。

 条件が違うのだ。

 もし競えば、間違いなく近代の人間の方が圧倒する。


 修行なしで寿司屋を開いたなんて話もあったか。

 賛否をかなり呼んだ気はするが。

 それでも、実際に店を持てていたはず。

 こっちじゃ無理な話だな。

 技術が個人に依存し過ぎているのだ。

 単純に近代の方が技術が進んでるとも言えない。

 だから体系化されずに……


 ……あれ?

 何を言いたかったんだっけか。

 考え込んでるうちに、思考が明後日の方向に。

 まぁ、才能がないと厳しいよねって。

 そういう話だ。

 別にメスガキをどうにかしようって気概もないのだし。

 深く考えるだけ無駄。

 これ、いつもの悪い癖だな。


 言い訳するなら。

 ほら、昨晩はノアに搾り取られちゃったし。

 賢者タイム的な?

 無駄に小難しいことを考えてしまった。


 さて、まだ授業中だろうが。

 そろそろ行くか。

 本当はベッドから離れたくないんだけど。

 チェックアウト時間もあるからね。

 延長料金を払うのもバカらしいし。

 適当に。

 屋台で飲んでれば時間も潰れるでしょ。

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