王都 10

「……あれ? 先輩」

「ん?」


 再会した勢いで抱きついて来て。

 そのまま、しばらくしがみつかれていたが。

 ようやく離れてくれた。

 いや、別にいいんだけどね。

 今更だし。

 特に忌避感なんかは無い。

 ただ、流石に周囲の視線が気になると言いますか。

 ノアは気にならないのかもしれないけど。

 俺は根がただの一般人なのだ。

 あまり注目されることに慣れていない。


「もしかしてですけど、お酒飲んでます?」


 そして、俺を解放するなりこの一言である。

 責めるような視線ではない。

 どちらかと言えば呆れられてるような。

 そりゃね。

 これだけ密着されたらアルコールの匂いぐらい分かるわな。

 胸に顔を埋めて来てたし。

 なんかフガフガしてた。

 何処となく犬味を感じるような仕草。

 可愛いと思ってしまうのは。

 多分、ノアに毒されて来てる証拠なんだろうな。


「まぁ、久々の王都だからつい?」

「意味が分からないです」

「ノアのこと待ってる間、暇だったし」

「そう言われちゃうと何も言えません」

「よしよし」

「まったく、日の高い内から飲んで。体に悪いんですよ?」

「分かってるって」


 ギルドのおばちゃん見たいな事を……

 いや、心配してくれてるのは分かってるんだけどね。

 多分大丈夫でしょ。

 なんたって俺にはチートボディーがあるし。

 神様仕込みの一品である。

 肝臓も特別製。

 アルコールぐらいでガタが来るほど柔じゃない。

 と、思う。

 それに、人生楽しんだ者勝ちだからね。

 仮に酒で俺の体にダメージが入ってたとしてもだ。

 変に我慢して。

 それで、つまらない人生を送っても仕方がない。

 長生きすることが目的じゃない。

 その人生で何をするかが大切なのだ。


 辞めるのがめんどくさいって理由で。

 ブラック企業で過労死した人間のセリフではない気もするが。

 だからこそ。

 好き勝手生きる幸福を噛み締めている所である。


 太く短く生きる。

 ……いや。

 俺の人生別に太くはないか。

 何もしてないし。

 緩く短く。

 こっちの方が近いかな?

 これが俺の人生の指標。

 座右の銘である。


「本当に変わらないですね」

「そうか?」

「初めて会った時も飲んでましたよね」

「あ、バレてた?」


 確かに、直前まで飲んでたからな。

 量としてはそうでもなかったが。

 飲んでない人からすればそれぐらいでも匂いは感じるのか。

 指摘されなかったし。

 バレてないモノだとばかり。

 ……ん?

 あの時は違うか。

 ノアがあれを初対面って言うわけないし。

 アレだ。

 十年前のノート売りつけた時。

 まぁ、飲み代が足りなかったんだから。

 そりゃ酔っ払ってるよな。


 当時も、再会した時も。

 どっちでも酔っ払ってたんか……

 そんな奴の戯言。

 よく間に受けたものだ。


「それで、この後どうする?」

「この後ですか?」


 不思議そうな顔。

 コテっと。

 首を傾げられてしまった。


 ……あれ?

 てっきり何処か行くのかと思っていたんだけど。

 久々だし、デート的な?

 一応その覚悟は決めて来たのだが。

 それなのに何故抱きつかれて狼狽えてたのかと言われれば。

 まぁ、はい。

 突然だったからね。


 そういえば、ノームの街にいた頃もデートらしいことしてないな。

 せいぜい2人で飲みにいいくぐらい。

 それも、デートって感じではないし。

 ほとんどはそこらの飲み屋。

 ノアが唐突にスカート履いて来たりはあったけど。

 それだけ。

 別に俺がエスコートしたりとか、何処か高いお店に行ったりとかはなかった。

 嬢が一緒のことも多かったしね。

 それも変な話だが。

 同伴的な?

 最終的な目的地もホテルというより娼館の方が多かった気がする。


 これ、中々に酷いのでは?


「よし、今日は何処かレストランにでも行くか」

「え?」

「せっかく招待してくれたからね。お礼でもしようかと思って」

「僕が来て欲しくて呼んだだけなのに」

「良いの良いの」

「本当に、良いんですか?」

「もちろん」

「やった!」

「あ、一応言っておくけど。あんまり高いとこは無理だぞ?」

「はい!!」


 嬉しそう。

 ま、ドラゴン便なんて奢ってもらっちゃったしね。

 馬車で来いとかって感じならともかく。

 これぐらいは、流石に。


 釣り合いは取れてないけど。

 気持ちだから。

 いや、俺側が言うことじゃ無いんだが。

 喜んでるからね。

 それで良いのだ。


「ただ、俺王都なんて来たの久々だから」

「?」

「おすすめの店とか、教えて欲しいな」


 こっち来てから準備とかしてないし。

 良いお店なんて知らん。

 時間はそこそこあった様な気はするが。

 それこそ、屋台で飲み歩いてる間とか。

 そこまで頭が回らなかった。


 俺の言葉にちょっと呆れた様な。

 でも、笑顔だ。


 変に取り繕ったり、カッコつけても仕方ない。

 ただでさえ盲信されてる節があるのに。

 もともと実情と離れすぎているのだ。

 多少、カッコ悪いぐらいでちょうどいい。

 これ以上は取り返しのつかないことになる気がする。

 離れるならそれで……

 いや、流石に今から離れられるのは寂しいけど。

 無理しても長続きしないし。

 これぐらい、ゆるい感じでいいのだ。


 言い訳?

 まぁ、そうとも言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る