王都 11
「ノア先生! ……誰と話してるの?」
レストランにでも行こうとした矢先。
横から声が聞こえた。
小学校高学年ぐらいの少女。
学園の制服を着てるし。
ノアの事を先生呼び。
おそらく、学園の生徒なのだろう。
「あ、エリス。この人は僕の先輩だよ」
「先輩って先生がよく話してたあの人?」
「そんな話してたかな」
「うん。講義中、毎回一回は出てきてた」
「そ、そうかな?」
すぐ隣で会話が始まってしまった。
友達と友達の友達の会話的な?
ままあるシチュエーションではあるが、どうも居心地が悪くなる。
しかも話の内容は俺の事。
もうね。
気まずいったらありゃしない。
流石にここを割って入る訳にもいかないし。
何もせず。
所なさ気に待ってる以外の選択肢はない。
しかし、よく話してたってどんな風に話してたんだか。
毎講義なんて結構な頻度である。
多少誇張は入ってるだろうが、どちらにしろ。
生徒の印象に残るレベルには話してたって事だし。
よくそんな話す内容があったものだ。
10年以上前に一回。
再会してからも一月ちょっとしか一緒にいなかったのに。
「……なんか、全然イメージと違う」
「えぇ、そうかな?」
「強くてかっこいいって言ってたのに……」
「うん、先輩は強くてカッコいい人だよ」
あ、そういう感じか。
まぁ、なんとなくそんな予想はしていた。
ノアの感じから言ってもね。
俺のこと尊敬してくれたままっぽいし。
手紙の件とか考慮すると、多少メッキは剥がれてるだろうが。
それだけ。
大部分は変わっていなさそう。
そこは嬉しいんだけど。
俺なんて、そもそもがただのおじさんなのだ。
無駄にハードルを上げられてもね。
それを越えられるような人間ではない。
Aランク冒険者が褒めたとなれば。
そりゃ期待する。
そして現物を見てガッカリ、と。
イメージとの差を感じるのは当然の話だ。
「これが? ノア先生趣味悪い」
「こら!」
「あ、先生怒った」
エリスだったか、少女と一瞬目が合った。
値踏みしてくるような視線。
すぐに、フイっと目を逸らされる。
そして一言。
趣味が悪いと。
酷い言い草。
まぁ、否定はしないけど。
見るからに普通のおっさんだからね。
冒険者としてもDランクだし。
とてもノアと釣り合ってるとは言えない。
俺も趣味は悪いとは思う。
こんなおっさんのどこがいいんだか。
ノアに怒られ、そのまま逃げていった。
お淑やかな見た目に似合わず。
中々のクソガキである。
ただ、この態度なんとなく理由が分かる気がする。
あの娘がノアと話す時に向けていた視線。
多分そういう事だよね?
中性的ではあるが、整った顔立ちだし。
雰囲気もある。
髪を伸ばしたとは言っても、似合ってはいるのだ。
俺みたいなおじさんじゃ違和感しかないだろうが。
ノアだからね。
イケメンは何をしても様になる。
そりゃモテるか。
これぐらいの年頃の女の子なら年上の男に憧れる物。
講師って立場も。
教師よりは距離が近い立場でありながら。
でも、生徒とは一線を引く。
乙女心をくすぐる物がありそうに感じる。
後、年も近いしね。
例えるなら教育実習生的な?
惚の字になってしまうのも仕方がない。
学園の先生なんて大体歳いってるからね。
未来を担う教育機関。
しかも、この国の中でトップの位置。
東大の様な物だ。
そこの教授になるのには才能だけじゃ足りない。
それ相応の時間もかかるのだ。
研究して、成果を出して。
その上で認めさせなければならない。
後は、席が開くのも待つ必要があるし。
結果おじちゃんとおばちゃんばかりになる。
ちなみに、身分はあまり関係ない。
結構いろんな人が教師をやってた記憶がある。
いや、貴族限定だけど。
そこはね。
大体学園の卒業生は貴族ばっかだし。
母数の関係だろう。
商人の子供もいるのだが、コネ作りメインだから。
研究職には進まない。
ノアを雇用してるのもそこらへんだろう。
才能主義なのだ。
だから俺も入学できたし。
差別主義が強ければ。
たとえ満点でも入学させない事も可能なのだ。
……話がブレた。
そんな、憧れの先生が講義で度々名前を出す謎の先輩。
気になって仕方が無かったのだろう。
さっき話かけて来たのも。
薄々勘づきながら確認のために聞いて来たのかもな。
男同士じゃんって話なのだが。
女の子は成長が早いからね。
先生の話ぶりから気持ち的なのを感じ取ったのかもしれない。
ノアが分かりやすいってのもある。
あんま隠してないし。
とは言いつつ、同性愛はメジャーではないのだ。
貴族の間じゃ特に。
そもそものせい行為からして、正常位以外は異端レベル。
同姓での行為なんて禁忌並の扱いだろう。
だから、淡い思いぐらいにでも思ってるのかもしれない。
今日俺を見て勝てるとでも踏んだのかな?
まぁ、相手がただのおっさんだと分かればそうなるか。
でも残念。
もう既に手遅れです。
そう考えると、さっきの行動も中々可愛げがあるじゃないか。
ちょっとムカつきはしたが。
まぁ、子供相手に怒っても仕方ない。
こういうの、メスガキとでも言うのだろうか。
死ぬ前に少し流行ってたて気がする。
この手の生意気な娘を分からせたら、さぞ気持ちいいんだろうな。
流石に無しだけど。
いや、この世界に未成年との行為を規制する法律は無いが。
普通に貴族だし。
手を出したら面倒なことになるに決まってる。
後、ノアの生徒だ。
どう考えてもバレる。
「すいません、失礼なこと言って」
「別にいいって」
「でも」
「子供の言うことだろ?」
ちょっとイラついた事はおくびにも出さない。
カッコ悪いからね。
まぁ、今からデート先に連れてってもらうわけだが。
エスコートされる側。
それはどうなの?
それはそれ、これはこれである。
ちょっと心配していたが、案外いい先生やってるらしい。
じゃないと惚れられたりなんて無いだろうし。
結構上手くやってる様子。
まぁ、外部講師って形ではあるし教師ほど難易度は高くないのかもしれないが。
それでも子供の面倒を見るって大変だからね。
ましてや貴族やら商人の子供ばかりだし。
普通の子より面倒。
冒険者として成り上がった上で、別の方向でも才能を発揮して。
素直にすごい事だと思う。
同時に、ここに俺を押し込もうとしていたのかと。
生徒を目の前にするとね。
言葉で言われただけよりよほどイメージが湧く。
一日何時間働くのか。
少なくとも、生徒が授業を受ける時間よりは長いだろうし。
いや、時給はいいんだろうけどね。
そこは前世の教師とは違う。
でも、労働時間は大して変わらなそうな気も……
塾とかも一緒だ。
一見時給も労働時間も良さそうに見える。
しかし、準備とかいろいろやらなきゃいけないことがあるからね。
結果あんま良くないみたいな。
まぁ、やりがいはあるんだろうけど。
何年もただただ薬草採集ばかりやって、ギルドの片隅で酒飲んでるのが幸せな俺には向かない仕事である。
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