王都 9

 いやー、飲んだ飲んだ。

 結局他の屋台でもつまみ追加しちゃったし。

 後、酒も何杯か。

 暇つぶしのつもりだったんだが。

 結構がっつりと食事してしまった。


 日もそろそろ傾いてきた頃。

 学園も授業の方は大体終わってるはず。

 下校時間なんて概念はないけど。

 先生ならともかく。

 講師ならもう帰宅しても大丈夫でしょ。

 記憶の彼方だが。

 多分そんな感じだったと思う。


 屋台が並んでる通りを離れ。

 学園の方へ。

 やはりそれぐらいの時間だったのだろう。

 辺りには制服を着た生徒がちらほら。

 懐かしいな。

 昔、俺も着てたわ。


 鏡を見て、絶望的に似合わなくて気落ちした覚えがある。

 金持ち向けの制服だからね。

 根本的に合わないのだろう。

 完全に服に着られてしまっていた。

 あと、俺の身長に対してかなり大きめだったから。

 一般的な感覚として?

 こういうのって、成長を見越してデカ目の買うじゃん。

 まぁ、それも前世の常識に囚われていた訳だが。

 貴族やら大商人の子供が通う学校である。

 そんな所をケチる訳がないのだ。

 この学園じゃ成長するたびに買い替えるのがスタンダードだったらしい。

 俺以外はしっかり着こなしていた。

 多分、そのせいもあって余計みっともなく見えたんだろうな。

 しかも、結局そんな長い間着なかったし。

 すぐ辞めっちゃったからね。

 結果としては無駄にブカブカの制服を着ただけだ。


 それにしても、当然と言うか何というか。

 周りは貴族ばかり。

 俺の格好だと結構浮く。

 昔を思い出すような感じがして余計に虚しさを覚える。

 普段の、薬草採取行くのと同じような格好だからね。

 まぁ、当然ではあるのだが。

 ここは街中。

 別にドレスコードなんてないから問題ないと言えばない。

 ただ、冷ややかな視線を感じる。

 不審者ではないからね?

 捕まらないか、少し不安になる。


 このままノアが出てくるまでは待ちぼうけ。

 流石に中には入れない。

 外でこんな感じだし、中に入ろうとしたら一発アウトである。

 今日呼んだのは向こうの方。

 ドラゴン便も用意してくれたわけで。

 俺が来てるのは把握してるはず。

 無駄な事はせず、早めに出てきてくれることを祈ろう。


 手に持っていた軽食をパクリ。

 いや、別に腹が減ってるわけじゃ無いんだけど。

 暇でつい。

 待つのは分かってたからね。

 屋台で買ってきたのだ。

 これは、ケバブ的なモノとでも言えば良いだろうか。

 あの特徴的な焼き方はしてなかったけど。

 薄い生地に野菜と肉を挟んだ料理だ。

 あ、トルティーヤの方がが近いかもしれない。

 これまた酒が欲しくなる。

 まぁ、そこはね。

 ここで飲んだら余計視線が厳しくなる気がするし。

 流石に買ってはこなかった。

 飲もうと思えば、アイテムボックスの中にもあるが。

 ノアとの再会が刑務所の面会室ってのはごめんだ。


 そのまま、生徒を眺めながら時間を潰していた。

 周囲に警備員が増えてきたかなという頃合。

 本格的に身の危険を感じていた所ようやくノアが出てきた。


「お、ノア!」

「先輩!!」


 気持ち大きめに名前を呼んだ。

 助けが来たと。

 居心地悪かったからね。

 後は、周囲へのアピールもある。

 俺は不審者では無いですよと。

 関係者と知り合いですよと。


 そしたら、それ以上にデカい声。

 そのまま走ってきて。

 いきなり抱きついてきた。


「おっと……」

「えへへ」


 しっかり体重を預けてくる感じの。

 文句の一つでも言いたかったが、笑顔を見せられるとね。

 何も言えない。


 ただ、周りからの視線が別の意味で増えた気がする。

 学園のすぐ側なのだ。

 当然周りは保護者やら生徒だらけな訳で。

 そんな中堂々とこんなことやってれば、ね。

 そりゃ目立つ。

 お前は学園の講師だろ。

 生徒に見られてるけど良いのか?

 ま、気にしないんだろうな。

 地元で唐突にスカート履けるようなやつだし。


 にしても、久しぶりである。

 再会したのが去年の秋。

 それから冬が始まる前ぐらいに学園に行ったから。

 大体2、3ヶ月ぶりだろうか。

 結構間空いた。

 雰囲気も少し変わった様な。


 元から中々カリスマ性を感じる奴ではあったが。

 それがさらに強くなった様な感じ。

 自信がついたからってのもあるんだろうけど。

 上流階級に囲まれてたせいかもな。

 環境の変化ってのは想像以上に影響を与えるらしい。

 それに比べ、俺ときたら。

 前世と合計70年も生きた上で、子供のまま。

 転生までしてるのに。

 ま、真面目に生きてないからね。

 無駄に年を重ねただけじゃこんなもんか。

 ノアは真面目だから。

 きっとより多くのことを吸収しているのだろう。


 ただ、そういうのとは別に。

 なんか外見的な所。

 分かりやすく変わってる気が……


「もしかして、髪伸ばしたりした?」

「あ、分かります!?」


 ……ま、まぁ。


 前会った時はもっと短かったし。

 普通の短髪ぐらい?

 爽やか青年って感じだった気がする。


 それが、今はショート程度はあるだろうか。

 そりゃ気づくよねって。

 与えられる印象も。

 より中性的な色が強くなっている。


「この方が可愛いかなって」

「そ、そうか……」

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