王都 8

 それにしても、久しぶりの王都だ。

 ノームの街とは何もかも違う。

 距離としてはそう離れてないんだけどね。


 まず、道からして差を感じる。

 土が押し固められただけの他の街とは雲泥の差。

 石畳とでも言うのだろうか?

 わざわざどこかから切り出して来たらしい。

 それを丁寧に敷き詰めているのだ。

 どれだけの人手と時間が掛かることか。

 魔法がある分前世より難易度は下がるのだろうが。

 それでも、ね。

 街自体にかなりの金が掛かっている。


 何より、人が多い。

 ここまでの人混み、他の街じゃ祭りだって経験しないだろうな。

 さすが都会と言うべきか。

 祭りどころか休日ですらないのに人で溢れてやがる。

 この世界じゃ何気に珍しい光景だ。

 人口を増やすのには色々と障壁があるからね。

 高い建物建てるにも技術がいるし。

 土地あたりに住める人数は前世よりもずっと少ないはず。

 そこは魔法があるが。

 どちらにしろ、魔物から守るために壁を建てる必要もあるのだ。

 無駄に広げられないし。

 百万都市なんて夢のまた夢。


 そんな違いを感じつつ。

 昔を思い出す。

 まぁ、実際の所懐かしさと言うより新鮮味の方が勝っている気もするが。

 最後に来たの何年も前だもんな。

 さらに発展してる印象。

 結構色々な部分が変わってるように思う。

 今住んでる街なんて、ここ二十年でそれほど進歩してるように見えない。

 それに比べて王都は色々変わったなと。

 ずっと住んでるのも理由ではあるだろうけど。

 多分、客観的に見てもそうなのだ。

 ここは国中から金と人が集まるからね。

 時間の進みが早い。


 本当はこのままノアのとこにでも行こうかと思っていたのだが。

 ドラゴン便なんて用意してもらっちゃったからね。

 向こうの呼び出しとはいえ、流石に。

 お礼の一つぐらい言わないと気持ちが悪い。

 ただ、まだお昼を過ぎたぐらいの時間帯。

 ノアも学園で仕事中だろうし、少し時間が出来てしまった。


 行く当てもなく歩いている訳だけど。

 あちこちから美味そうな匂い。

 俺を誘惑してくる。

 これ、多分香辛料の匂いだよな。

 ヨダレが……

 高いから普段はあまり買わないんだが。

 これはちょっと我慢できない。

 ま、いいでしょ。

 王都なんて滅多にくる物じゃないし。

 偶にぐらい、ね?


 祭りでもないのに、屋台がずらり。

 せっかくだしここで買おうかな。

 人が多いからだろうな。

 後は、土地も高いし。

 この乱雑とした雰囲気、嫌いではない。


「おっちゃん、その串ちょうだい」

「何本欲しい?」

「3、いや5本くれ」

「あいよ。トードーの串焼き5本ね」


 良さげな屋台で串を頼む。

 トードーってのはカエルに似た魔物だ。

 鳥とフグの中間ぐらいの味。

 弱いし数がいるから安価。

 前世の感覚ではゲテモノだが。

 この世界じゃ結構一般的な食材だ。


 焼きたてのそれにかぶりつく。

 うん、美味い。

 最高だ。

 ジャンクな味とでも言えば良いのか。

 スパイスがよく効いている。


 素材の味としては落ちるんだろうけど。

 なんせ鮮度がよくない。

 足が速い生モノだけじゃない。

 野菜なんかも。

 王都で作ってるのは少ないからね。

 他の街から運んできて、それを買っている店ががほとんど。

 今は冬だけど。

 鮮度が落ちにくい代わりに、運ぶのにも時間が掛かるから。

 結果としてはそう変わらないのだ。


 だからこそのスパイスである。

 保存もきくし。

 臭みも消える。

 前世と同じ理由だな。


 しかし、こうジャンキーなのを食べると。

 どうしても欲求が……

 まだ昼間だけど、別にいいよな。

 普段からそんな感じだし。


「おっちゃん、エールある?」

「お、昼間っから酒か?」

「悪いか?」

「いいや、うちの串は相性バッチリだろ?」

「おかげで飲みたくなっちまった」

「最高の褒め言葉だ」


 乾いた喉に酒を流し込む。

 最高。

 おっちゃんの言うとおりだ。

 酒とよく合う。


 日が高いうちから飲むってのは最高だな。

 しかも屋台で。

 ま、普段からこの時間のんでるんだけどね。

 言葉のあやである。

 周りに人も多いし、働いてる人間ばかりだ。

 最高のスパイスになる。


 王都には鮮度の良い食材が少ない。

 その代わりと言っちゃなんだが、酒の種類は豊富だ。

 流通の中心だし。

 当然、金も集まる。

 酒なら長期間持つからね、持ってこいだ。

 屋台に大量に置いてあるってことはないだろうが。

 それこそ居酒屋にでも入れば。

 珍しい酒も結構扱っていたりするはず。


 これからは偶に来ようかな。

 ただ、学園を辞めたら何となく来なくなっただけ。

 別に特別な理由なんてない。

 ノアが学園の講師やってる間。

 どうせ、毎年この時期には来ることになるだろうし。

 変に避ける必要もない。

 冬以外なら馬車で来れるしね。


 ノアの事、たまに飲みに誘ってもいいだろう。

 教職なんてストレス溜まる仕事。

 ちょっとした息抜きぐらい必要だろうから。

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