手紙 7

 それにしても、今日は謎に疲れた。

 おかしいな。

 温泉宿で疲れをとって心機一転って気分だったのだが。

 それ以前より疲労してる気がする。


 呼び出し、からのハゲたおっさんによる取り調べ。

 このコンボが効いた。

 いや、ポーションのことだし自業自得ではあるんだけど。

 なんでかな。

 前、ノアと応接まで話した事があったが。

 あれでポーションとか盗賊関連の事は終わったと思い込んでいたのだ。

 実際は一言も触れていないのに。

 だから、順当な事象に対して謎の不意打ち感があった。


 これは癒してもらうしかないな。

 温泉街に蜻蛉返りって手もあるけど。

 それは流石にね。

 今日帰ってきたばかりだし。

 ちょっと、無しかなと。


 ギルドを出て、少し歩く。

 街中は外ほど雪は積もっていないからね。

 そこまで歩きにくいってこともない。

 ま、人通りも多いし。

 それに、雪かきにそれほどリスクも伴わない。

 ある程度整備はされているのだ。

 もっと冬が深くなると。

 そうも言ってられなくなるけど。


 大通りから一本外れた裏路地。

 慣れた道だ。

 取り調べで何時間か拘束されたとはいえ、まだ日が落ちるには早い時間帯。

 ここは飲み屋街なのだが。

 結構な店が閉まっている。

 この景色が、よりアンダーグラウンドな雰囲気を強く醸し出している。

 その少し奥。

 見慣れた宿屋のような外見。


「いらっしゃいませ」


 俺の行きつけのお店だ。


「いつもの娘って、今の時間出勤してる?」

「もちろんでございます」

「じゃ、その娘指名で」

「お時間の方はいかがいたしますか?」


 娼館である。

 やっぱり、癒してもらうと言ったらここでしょ。

 体も、心も。

 肌のふれあいはどちらも回復してくれる。

 しばらく温泉街に行ってたから。

 この街のお店に来るのは、結構久しぶり。

 当然。

 嬢に会うのもそうだ。


 時間が普段と違うからね。

 お気に入りの娘、居るか分からなかったけど。

 ラッキー。

 今日は不運続きだったからね。

 たまには幸があっても良いでしょ。


 で、時間か。

 普段は大体朝までとってるんだけど。

 今からは流石に長いか。

 でも、時間決めちゃうとな。

 目一杯楽しめないし。


 癒しを求めて来ているのだ。

 時間を気にして楽しめないのは本末転倒。


「フリーで入って、出て来た時間でそのプランにってのはあり?」

「……お客様は常連ですから。特別ですよ」


 お、行けた。

 我ながら、結構な無茶を言ってる自覚はあったが。

 これ、通るのか。

 流石常連パワー。

 こういうのが行きつけを作るメリットだよね。

 ま、あまりやりすぎると嫌われるかもだけど。

 だから、ほどほどに。


 鍵を受け取り部屋へ。

 ベットに浅く腰掛け、嬢を待つ。

 いや、椅子もあるんだけどね。

 いつものことだから。

 何となく、癖になっているのだ。


「お待たせしました」

「よ、久しぶり」

「ロルフさん! 嫌われちゃったのかと思いました」

「そんな事ないって」


 ドアがノックされ、嬢が来た。

 お待ちかね。

 相変わらず胸元が大きく開いた服を着ている。

 自分の強みを知ってる女だ。

 分かっていても視線が吸い寄せられる。

 ま、見ても怒られないしね。

 街中ではそうも行かない。

 ジロジロ見てたら不審者以外の何者でもないからね。

 そんな噂とか。

 不名誉以外の何物でもない。

 多分、そっちでは気をつけられているはず。


 それにしても、嫌われたね。

 自覚はあったらしい。

 ノアの件ではノリノリだったような気もするが。

 まぁ、別に恨んじゃいない。

 ノアと仲良くなれたのも。

 何だかんだ後悔はしていないし。


 ま、感謝してもいないんだけど。

 ほら、2人には盛大に嵌められた訳で。

 ちょっと複雑な気分だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る