手紙 5

 足早に冒険者ギルドを出る。


 別に逃げた訳じゃないよ?

 ……うん。

 周りの視線とか、気になってないし。

 ノアの件も合わせて。

 俺までそっち認定されかねないとか。

 そんな事、考えてはいない。


 単に、薬草採取に行くだけだ。

 お金を稼がないとな。

 なんだかんだ結構目減りしちゃってるし。

 まず、仕事をさっさと終わらせよう。

 招待を受けるか。

 それを考えるのはその後で。


 青年?

 彼のことはもう考えない。

 思考から追い出す。

 そういう方向で決着がついた。

 俺の中で。


 門を出て、草原を抜け、森まで。

 道中結構雪が積もっていた。

 降り始めぐらいは、雪を踏み締める感覚というのも結構良いものがあるが。

 ここまで積もっちゃうとね。

 足がとられて鬱陶しい以外の感想はない。


 草原まで来た時点で、俺以外の足跡がほぼなかった。

 あっても人のものじゃない。

 多分、ゴブリンとかその系統の魔物。

 ほとんどの人間が街にこもっているのだ。

 当然、冒険者も。

 冬の間にまた結構減るんだろうな。

 蓄えのあるベテランはともかく、それ以外は。

 外も危険だが、中にいても飢えるだけ。

 他の仕事もライバルが増えるし。

 あぶれるのは目に見えている。

 餓死するか、魔物に殺されるか。

 最悪の2択だ。

 ま、日本とは違って出生率は高いからね。

 毎年そんなことがあっても、別に人口は減らないんだけど。


 そこを気にしても仕方がない。

 幸い、俺の知り合いは無縁だからね。

 そんなものだと納得するのが吉だ。

 変に深く考えても。

 自分の精神を病むのがオチ。


 受付嬢とかおばちゃんは、ギルドの安定雇用だし。

 大将や女将は自分の城を持ってる。

 獣っ娘やら嬢も仕事があるし。

 ノアは冒険者と言ってもAランク、しかも今は学園の講師だ。

 旅人のおっちゃんは……

 バリバリ関係ある気もするが。

 そもそも季節関係なく常に危険だから例外って事で。


 魔眼を使い、薬草の魔力を察知。

 さっさと回収する。

 この時期、他に冒険者がいないのはいいんだけど。

 薬草の伸びも悪くなるのがね。

 まぁ、太陽は遮られるしエネルギーも無駄にかかるから。

 当然っちゃ当然。

 まだ、浅いところにもあるが。

 春直前には森の奥まで入る羽目になる。

 結構な手間だ。

 でも、無いものは仕方がない。

 むしろ枯れないだけ感謝すべきかもしれない。


 それでも、取り尽くせはしないしね。

 春になれば新芽も出るし。

 生命力も強いから。

 根っこが残ってれば、そこから再生する個体もいる。

 また浅い場所で取れるようになる。

 薬草の生育は大体そんなサイクルだ。


 それどころか、草原の方にも芽を出す個体も出て来る。

 冬を乗り切った駆け出し冒険者。

 後は、スラム街の人たち。

 彼らの稼ぎ時。

 ま、量が量だから値段は普段より安め。

 俺が普段受けてる依頼の料金まで下げられるのは癪だけど。

 そこは経済の原則だからね。

 供給が多くなるのだ、文句を言っても仕方がない。


 栽培したりすれば楽なのかもしれないが。

 世話が面倒だからな。

 植物を育てるの、結構手間なのだ。

 水やりがね。

 毎日。

 あれ、家庭菜園レベルでもかなりの重労働である。


 俺の場合魔法で出来るけど。

 魔法使ってるとことか、人に見られたくないし。

 人目のない所。

 例えば森の中とかに作るにしても、魔物に荒らされる気がする。

 と言うか、だ。

 人に見られないほど奥地に作るなら結局一緒では?


 そもそもの話として。

 俺に育てられるのかって疑問もある。

 素人だ。

 薬草の値段的に、多分難しい気がする。

 養殖方法確立されてたらねぇ。

 あそこまで高価で売れる訳ないし。


 昔は舞茸がかなりの高級品だったとか。

 それこそ、松茸より高いぐらい。

 養殖出来るようになって、格段に値段が落ちたのだ。

 今じゃ、家庭に出てくるのも珍しくない食材。

 そんなもんだ。

 上手い話はそう転がってないって事。


 素人の俺に育てられるもんじゃない。

 大人しく、ちまちま採取するのが合っているのだ。

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