手紙 4
「あ、もしかしてその手紙って」
咄嗟に口元を押さえたせいで、他がお留守に。
机に置いていた手紙。
それが青年の視界にバッチリ。
一応、伏せてあるから内容は読めないだろうけど。
宛名と送り主の名前。
これは、しっかり見られた様子。
いや、見られてまずいことはないんだが。
内容はともかく。
送り主の名前とか。
そんなの、封筒の外側に書かれる訳で。
隠すような物でも無いと言うか。
配達員も見るだろうし。
まぁ、これはギルド経由だけど。
それこそ、ここに届くまでに結構な人数が確認したはず。
じゃないと宛先も分からない。
だから、それ自体には何の問題もない。
問題は無いんだけど。
ただ、個人的に都合が悪いというか。
このタイミングはあまり良くない気がする。
「これ、噂のAランク冒険者から」
「……」
「ラブレター、ですか?」
「いや、違うからね」
「遠距離になったのに、一途なんですね」
「話聞いてる?」
「俺は潔く身を引きます」
いやいや……
何故だろう?
話が全く通じていない気がする。
何が潔く身を引きます、だ。
勘違い。
とも言い難いんだけど。
まぁ、もう面倒いしそれでいいや。
何故こうも男に狙われるのか。
いや、違うはず。
狙われてはいない。
うん。
少なくとも、彼は純粋な尊敬。
そのはずだ。
これは、そう。
ちょっと揶揄われてるだけ。
受付嬢の同類である。
多分。
そうに違いない。
ノアの時と違って、尊敬される事への心当たり自体はあるしね。
何年も前の事を引きずってる訳でもなく。
理解できない理由で執着されてる訳でもない。
助けたのは紛れもない事実。
だから、尊敬される事自体は納得。
これはその延長線。
命の恩人へのお礼の延長線上でこれってのも、なかなかに謎ではあるが。
あれ、やっぱりその片鱗が……
俺ってそんな雰囲気出てたりするのか?
いや大丈夫。
理由付けは可能。
先輩のためならその覚悟がありますよという。
そう示しただけ。
ノアも王都に行ってることだし。
その代わりに、と。
見どころのある後輩じゃないか。
にしては、断られて落ち込んでた気もするが。
都合の悪いところは無視だ。
そこを気にするのは、ね。
俺の精神衛生上よろしくない気がする。
差別?
俺にも好みはあるのだ。
選ぶ権利ぐらいある。
と言うか、そもそも異性愛者で男は対象外なのだが。
恋愛対象は女だけ。
ノアは……
まぁ、例外は何事にもある。
美形だし。
嬢との合わせ技でガードを突破してきたに過ぎない。
まだ納得してないけどな。
性的同意だっけ?
それをした覚えはない。
あれは明らかに罠にハメられたのだ。
俺の意思ではない。
ここを言っても仕方ないが。
結局流されたんだろって?
それはそう。
そう、なんだけど……
それに、こいつはそもそもどっちだ?
いや、ね。
攻めと受けでは難易度が。
偏見だけど。
青年の見た目的に、尻の方が危ない気がする。
どっちでも無しなんだけど。
入れる方だったとしても。
ノアと違って別に中性的でもないし。
ザ、男って感じで。
……これ以上はダメだな。
無駄にリアルな映像を想像してしまって。
気分が悪い。
考えない方が幸せなこともあるのだ。
深く思考を巡らせるべきではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます