手紙 3

「ロルフさん、何読んでるんですか」


 感傷に浸っていると声を掛けられた。

 咄嗟に学生証をポッケにしまう。

 そのままアイテムボックスの中へ、ボッシュート。

 これでバレることはない。


 所で、こいつは誰だ?

 俺に話しかけてくるのなんてあんまり居ないんだけど。

 せいぜい受付嬢と酒場のおばちゃんぐらい。

 まぁ、ノアの件があって俺の記憶は信用ならないのだが。

 なんか見覚えあるような。


「忘れちゃったんすか? 酷いなぁ」


 ……あ、あいつか。


「確か、馬車の護衛やってた」

「そうです」

「へぇ元気そうで何より」

「お世話になってます」

「世話してやった覚えは無いけどな」


 思い出した。

 あの時の青年だ。

 良かった。

 また、過去の事を掘り起こされるのかと。


 この前のノアみたいな?

 いや、他に詐欺まがいのことをやった記憶はないが。

 ギルドにいる時、高確率で酔っ払ってるからね。

 記憶にないだけで他にやった説もある。

 まぁ、詐欺まがいってだけで。

 詐欺をやるほど落ちぶれちゃいないんだけど。


 ……本当だよ?


 にしても、機嫌良さそう。

 あの時は確か仲間が1人亡くなっちゃったとかで。

 すっかり落ち込んでいたが。

 冒険者を続けてたらしい。


「これ、見てください」


 自信満々に見せてきた。

 何かと思えば、冒険者カード。

 デカデカとCの文字が。

 それがどうした。


 って、あれ?

 こいつって確かDランクじゃ無かったか。

 確か最近入ったばっかりで。

 それでDは凄いとか受付嬢と話した記憶がある。

 いつの間にか上がってたのか。

 凄いな。


「実は、ランク上がったんです」

「おめでとう」

「ロルフさんのおかげです」

「何もしてないけどな」

「あの時助けてもらってなかったら、死んでましたから」

「あれは俺も運が良かっただけだからな」

「それでも、です」


 にしても、そうかCランクになったのか。

 そこまで期待してなかったけど、これはひょっとしたらひょっとするかもな。

 Bで上位冒険者の仲間入り。

 ノアといい、この青年といい。

 一つのギルドから数年で何人も出るなんて珍しい。

 そこまで人口も多く無いのに。

 才能のある人間が案外多いのだろうか。

 いや、その前に死んでるだけか。

 こいつも死にかけてたし。

 上に上がれるような能力があるとその分危ない依頼受けれちゃうからね。

 死にやすいのだろう。


 ノアほどじゃないかもしれないが。

 英雄の領域に足を踏み入れる可能性は無きにしもあらずって感じか。

 やっぱ将来有望かもしれない。


「そう言えば、ロルフさん噂聞きましたよ」

「ん?」

「Aランク冒険者を堕としたとか」


 ぶっ、飲みかけの物を吹き出しそうになった。

 と言うか、ちょっと漏れた。

 いや、別に知ってるのはおかしくないんだけど。

 街中で噂になってるっぽいし。

 このギルドで活動してて知らない方がおかしい。


 でも、言い方よ。

 堕としたて。


「さすがです! 只者じゃないと思ってましたが」

「堕としたと言うか、捕まったと言うか……」

「?」

「まぁ、はい」


 色々言いたいことはあるが。

 否定しても仕方ないしな。

 流されてしまった俺が悪いとも言う。


「ロルフさんならいつでも声かけてくださいね」

「?」

「ほら、ノア様今王都でしょ?」

「だから?」

「その代わりに、とか」

「誰が声掛けるか!」

「遠慮しないでくださいって」

「俺にそっちの趣味はねぇ」

「……」

「何を落ち込んでるんだ、お前は!」


 上位冒険者ってみんなこうなのだろうか。

 あまり関わってこなかったから、よく知らないのだが。

 ちょっと怖いんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る