手紙 2

 依頼行く前に目だけ通すか。

 心当たりはない。

 いや、普段から手紙は来るんだけど

 その時は酒とかと一緒だし。

 ギルド経由でもない。


 そこそこ大事な話なのだろう。


「私にも見せてください」

「却下だ」

「えー、おじさんのケチんぼ」


 手紙を読もうとしたところに受付嬢が寄って来る。

 憧れのノア様からの手紙だからね。

 興味津々って感じ。

 まぁ、断ったんだが。

 何書かれてるかも分からんし、揶揄いのネタにされる気しかしない。

 と言うか、お前は勤務中だろ?

 真面目に仕事をしなさい。


 ギルドの隅、俺の指定席に座り封を切る。

 ……あ、なるほどね。


 手紙の内容は、近況報告もほどほどに招待の話だった。

 何処にって?

 もちろん、ノアが講師をやってる学園である。

 何でも近々学園祭をやるとか。

 そこで闘技場を使って大々的にトーナメントをやるらしい。


 魔法アリで真剣片手にガチバトル。

 優勝者は豪華景品をゲット。

 まぁ、生徒にしか参加資格はないから俺には関係ないのだが。

 出場のお誘いではなく、観戦。

 ノアの教え子もそれに出る様で。

 先輩に見に来て欲しいと。

 んで、出来ればアドバイスも欲しい。

 そんな話だった。


 いや、観戦は良いとしてアドバイスって……

 学園の生徒なんて殆ど貴族な訳で。

 しかも、こんな大会に出る様な子はちゃんと鍛えてる人間だろう。

 魔法に剣術に。

 先生が控えてるとはいえ、事故が無い訳じゃないし。

 その上、ノアの生徒ならAランク冒険者から直接教わってるって事だ。

 Dランクの俺が言える事なんて無いだろ。

 何か言われたとして、誰がまともに聞き入れるんだって話である。

 結局俺は尊敬できる先輩のままらしい。

 まぁ、学園の方で上手くやれてるのならそれでよかった。

 アドバイスとかいう戯言は置いておくとして。


 こんな話を聞くと少々物騒に聞こえるだろう。

 そして、実際物騒だ。

 前世の頃イメージしていた貴族とは違う。

 いや、前世でも戦闘の指揮とか取ってたし。

 決闘なんてのも貴族の文化か。

 案外イメージ通りの優雅な貴族なんてほぼ居ないのかもしれないが。


 この世界、一騎当千の存在が本当にいる世界なのだ。

 その血には価値がある。

 貴族なんてのは、当然血を家に取り込もうとする訳で。

 どの程度才能が開花するかは運次第。

 英雄級なんてのがゴロゴロいる訳ではないが。

 総じて、上級貴族は強い傾向にある。

 庶民じゃ魔法を使えるほど魔力がある存在は珍しいけど。

 逆に、貴族は全く使えない方が珍しいぐらいだし。

 そんな事情もあって、前線に立つことも珍しくない。

 温存して勝てるほど差があることは少ないし。

 相手にだって似た存在はいるからね。

 それを数で抑えると、かなりの損害を出すことになる。

 学園でのトーナメントも伝統的な物なのだ。


 ノアが学園に行ってから、なんだかんだ結構な日数が経った。

 学園で上手くやれているのか。

 多少は心配していたのだが、問題はなさそう。

 こんな話寄越すぐらいだしな。

 自分の生徒を見て欲しいと。

 なかなか教師としての自覚が出てきてるじゃないか。


 ただの庶民ならまともに言うこと聞いてくれずに苦労しそうなものだが。

 庶民が学園で講師できるんかという疑問は置いておいて。

 ノアはそうではない。

 Aランクって言う、分かりやすい肩書きがあるからね。

 この世界の事情も相まって、強さってのは明確なステータスになる。

 そこらの木端貴族よりよほど尊敬されるはずだ。

 もちろん身分としてはそう高い物じゃない。

 式典なんかでは普通に貴族の方が上位の扱いをされるだろうし。

 ただ、その実態が異なると言うか。

 貴族の地位は国に裏打ちされたものであるのに対し、冒険者の地位は自分の力に裏打ちされたものだから。


 もちろんAランクって地位はギルドに与えられたものだけど。

 そこはあまり関係ないというか。

 冒険者の力を分かりやすく表してるに過ぎない。

 極論、ランク自体に価値はないのだ。

 そのランクに至れる力、そこに価値の大部分が集約する。

 自分で武力を持つ。

 言わば小国みたいなものだ。

 コネを作りたい貴族も多いだろう。

 依頼を優先的に受けてくれるAランクがいれば、それだけでとんでもない財産になる。

 血を取り込めれば尚更。

 それぐらいAランクの肩書は強力なのだ。


 ま、そうでもなきゃ学園の講師の話なんて来るはずないしな。

 高位の冒険者と言っても、所詮は庶民だし。

 階級社会が根付いてるこの世界でも、特に厳しい階級社会。

 ほぼ貴族より上しかいないのだから。

 息が詰まるったらありゃしない。

 そこに呼ばれるのだ。

 庶民からの成り上がった青年が。

 これは、偉業と言っても間違いではないレベルの出来事。


 しかし、学園祭かあまり気乗りしない。

 ただ、せっかくの後輩の誘いを断るというのもな。

 興味自体はあるのだ。

 講師をやってるノアにも、その教え子にも。

 貴族は血筋がいいし、魔法の才能がある人間も多い。

 Aランクの彼が教えてどう仕上がるのか。

 見たい気持ちはある。


 でも、なぁ……

 王都。

 特に学園にはあまり近づきたくないのだ。

 別に出禁を食らってたりなんて話は無いのだが。

 何となく。

 かれこれ、20年以上行ってない。


 ノアからの手紙を読んでいたら昔を思い出してしまった。

 確か、ここら辺に。

 アイテムボックスの奥の方を探る。

 あった、あった。

 金属のプレート、そこに文字が刻まれている。

 俺の名前と適当に他の情報。

 冒険者カードと似たような形だ。

 用途としてもほぼ同じ。

 学生証、学園の生徒であることを証明するための物だ。


 懐かしいな。

 もう、何年前だろうか。

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