八章

手紙

 女将さんに別れを告げ温泉街を出る。

 帰路に着いた訳だが、当然のように雪が積もる街道。

 馬車なんかで帰るつもりはない。

 行きと同じ方法。

 森の中へ入り、魔眼で周囲を確認。

 目撃者が居ないのを確認して転移を発動する。

 視界が切り替わり、街の近くの森へ。

 ウーヌの街まで帰って来た。


 このまま家に帰ってゆっくりしたい所だけど。

 流石にね。

 今回の旅で結構お金使っちゃったから。

 ボーナスも目減りしたし。

 ずっと休んでいたのだ、久々に働かなければ。

 森を出て、その足でギルドへ。

 見慣れた内装。

 少し離れていただけなのだが。

 何故だろう、この光景に懐かしさすら感じる。


 普段通り薬草採取の依頼を受注して、そう思ったのだけど。

 ちょっと嫌な予感が……

 受付は一つしかない訳でもない。

 別の受付へ。

 訝しげな視線を向けられる。

 ノアの件もあって、俺って多少有名人になっちゃってるからね。

 同僚だし。

 俺が普段同じ受付嬢を利用してるのを知ってるのかも。

 だからだろう。

 まぁ、特にルールなんて物ないし。

 問題はないのだが。

 そのまま薬草採取の依頼を受けてしまおうと思っていた所。

 ちょうど席を離れたのか、例の受付嬢と目が合った。


「おじさん! なんでそっちいるんですか?」


 寄ってくる。

 避けようという試みは失敗したらしい。

 ってか、お前対応中じゃなかったか?

 放置するんじゃない。


「いや、ちょっと嫌な予感がしたんで」

「何意味わからないこと言ってるんですか」

「すんません」

「ってか、どこ行ってたんです?」

「言ったじゃん」

「確かに旅行くとは聞いてましたけど……」


 まぁ、予定よりだいぶ伸びてしまったが。

 獣っ娘のせい。

 彼女が可愛かったのが悪い。


「……まぁ、良いです。おじさんに話があるって人が来てて」


 なるほど?


 俺に聞きたい事がある人が居るとかなんとか。

 デジャブである。

 なかなか聞き覚えのある入り。

 俺の謎の嫌な予感は当たっていたらしい。

 非常に残念な事に。

 そこから、また応接間へ。

 違いといえばノアがいなかったことぐらいか。

 代わりにハゲが座っていたが。

 ギルド長と合わせて、応接間にハゲが2人である。

 眩しい。

 ジェスチャーをしたら受付嬢に叩かれた。


 なんでも、もう1人のハゲが俺に話があるらしい。

 この国のお偉いさん。

 ほんとかどうかは知らないが。

 ギルド長がそう言ってるんだから、そうなのだろう。

 何かと思えば、例の件だった。

 ポーション。

 これについてたっぷり取り調べされた。

 忘れていたのだけど。

 そういや、ノアが来たの。

 あの件とは無関係だったからね。

 つまり、盗賊とかポーションの話はちゃんとしてなかった訳で。

 そりゃ、こうなるわな。

 取り調べを受けるのも当然の流れではある。


 まぁ、事前に対策してたおかげでうまいこと誤魔化せはしたが。

 明日にも国のお偉いさんは盗賊団探して森の中を彷徨ってる事だろう。

 いや、本人は行かないだろうけど。

 彷徨うのは命令された兵士達。

 しかも、それで見つかるのはもぬけの空になった拠点だけ。

 結構時間空いたし。

 もしかしたら別の盗賊団が入ってたりはするかもだが。

 どちらにしろまともな情報は手に入らない。

 もし盗賊がいるのなら、国に目をつけられるとか不幸としか言いようがないな。

 普段ならほったらかしなのに。

 かなりの規模の兵士に拠点ごと潰される事になる。

 ま、自業自得だし別に同情はしないけど。


 にしても、どこまで深追いするのだろうか。

 無いものを探すのだ。

 予算を掛けるだけ無駄になる。

 でも、ポーションの効果的に結構やりそうだよな。

 一兵卒が英雄級の力を手にするのだから。

 戦略級の兵器。

 もし、安定供給が可能であれば。

 隣国を支配、それどころか世界の統一も夢ではない。

 お偉いさんなんて大抵野心に溢れてるもんだし。

 国の使いだったのか、どこかの貴族の使いだったのか。

 それは知らないが。

 多分、財力と兵力の許す限りはって所だろうな。

 付近の盗賊一掃する勢い。


 いいぞ、もっとやれ。

 盗賊なんて旅の邪魔でしかないからな。

 居ないに越した事はない。

 普段サボってるんだ。

 この際、全部消して欲しい所。

 ついでに溜め込んだ金も吐き出して経済も回してくれ。

 薬草とか大量に必要になるだろうし。

 もしかしたら依頼料上がるかも?


 時間にして、半日ぐらいだろうか。

 やっと解放された。

 でも、見つからなかったらまた聞きに来られたりとかする可能性あるよな。

 そう考えると気が滅入る。

 見つかりようがないし。

 ま、俺が大した情報持ってないのは示せた。

 だって、盗賊が持ってたのを一か八かで飲んだって設定なのだ。

 俺を詰めても何も出ないと理解はさせれたはず。

 そう何度も来ないと思う。


 ……そう信じたい。


「おじさん、待ってください」


 ギルドから出ようとしたところで呼び止められた。

 受付嬢である。

 またか、と。

 さっさと薬草採取終わらせて家帰りたいんだけど。

 せっかく温泉で疲れとって来たのに。

 今日1日で寧ろ温泉行く前より疲れたまである。


 これは早急に金貯めて、また癒されに行くしか無いな。

 獣っ娘も名残惜しそうな感じだったし。

 多分、すぐに帰っても歓迎ムードで喜んでくれるはず。


「まだ何かあんの?」

「お手紙です」

「え、ギルドってそんなサービスやってたっけ?」

「やってませんよ。この方だから特別です」

「えぇ……」


 そうやって特定の個人を特別扱いするのはどうなの?

 手紙を受け取る。

 名前を確認すると、ノアの文字が。

 あぁ、なるほど。

 A級だからか。

 国家のパワーバランスにすら影響するレベルだからね。

 特別扱いも納得である。


 さて、なんの用だろうか。

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