散策 12

 女将と目が合う。


「いや、これは違くっ……」


 咄嗟に言い訳しようとした瞬間。

 パクリと。

 息子を食べられてしまった。

 言葉に詰まる。

 ちょっ、獣っ娘さん状況分かってます?

 女将さんいるから。

 見られてるから。

 もう少しだけ待ってださい。


「?」


 手で制するも、首を傾げるだけ。

 すぐに再開しようと口を近づける。

 おい!

 恥ずかしかったりとか無いの?

 このままだと俺。

 色んな意味で、死ぬ気がするんだけど。


 いや、別に責められる言われはない。

 強制とかしてないし。

 獣っ娘の方から手を出してきたのだ。

 仮に強制したとして。

 俺の奴隷だし。

 自分の奴隷とそういう事して責められる理屈はない。

 ないのだが……

 何故だろうか。

 謎に後ろめたい気持ちの俺がいる。


 女将が部屋に上がる。

 そのまま、俺と獣っ娘の近くまで。

 何で黙ってるんですか?

 怖いんですけど。

 別に怒ってるようには見えない。

 でも、時には真顔の方が恐ろしいと言うか。


 一瞬、美人局という言葉が頭をよぎる。

 いやいや。

 俺の奴隷だし。

 それはない。

 自分の奴隷に美人局かけられるのは前代未聞。


 ……って、言うほどでもないか。

 時の権力者って大抵。

 奴隷って言われて差し出された女が実は演技してただけとか。

 いくらでも聞いたことある。

 いや、大丈夫でしょ。

 契約の時魔法ちゃんとかかってるの確認してるから。

 さっき疑ったせいで不安だが。

 うん、問題ないはず。


「あ、あの女将さん。これはですね」

「待ってるように言ったのに」

「え?」

「ロルフ様と先始めちゃってたのね」


 どゆこと?

 獣っ娘を見る。

 こくんと頷く。


 いや、頷かれましても。

 意味わからないから。


「どうかいたしましたか?」


 俺の表情に気づいたのか、女将がそんなことを聞いてくる。

 どうかいたしましたかじゃないが?

 全くもって意味不明。

 とりあえず懸念したような事態ではないって事は確か。

 怒ってるようには見えないし。

 それどころか。

 今の状態も、女将にとっては事前に知ってたとでも言いたげな様子。


「怒ってたり、とか?」

「お客様が自分のお部屋でなさる事に、目くじら立てたりはいたしませんよ」

「ですよね」

「あんまりお声が大きいとかならともかく」


 あ、はい。

 そこは気をつけます。


 じゃなくて、


「えっと、俺に何か用事でも」

「そうですねぇ。ロルフ様に用事と言うよりは、彼女に」

「?」

「この娘にお願いされてしまって」

「お願い、ですか?

「経験ないから教えて欲しいって」

「それって、そういう」


 いや、これから女将さんに見られながら。

 それどころか、教えられながらするって事?

 どんなプレイだよ。


 ……でも、グッジョブ獣っ娘。

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