散策 11
獣っ娘と目が合う。
「えっと?」
別に、置いていかれたとかでは無さそうだ。
追いかける気配ないし。
と言うか、動く気配がまるでない。
新人の娘も、流石に後輩を忘れていったりはしないだろう。
掃除用具とかならともかく。
さっきまで仕事教えながらやってた訳で。
結構親しそうにしていた。
その存在が急に思考から消えたりはしないはず。
「一緒に行かなくて良かったのか?」
「ここで待ってるようにって言われてますから」
「?」
「まだ、お掃除が終わってないので」
掃除が終わってないって。
部屋は十分綺麗。
いや、もともと綺麗ではあったけど。
さらに。
さっきの清掃で、清潔になった。
これ以上何をしようと言うのだろうか?
先輩も帰っちゃったし。
そもそも、掃除用具だって無い。
「掃除って、スタッフの娘は先に帰ったみたいだけど」
「先輩も一緒の方が良かったですか?」
「え?」
「ご主人様は、先輩にも手をお出しになるんですか?」
「……え??」
責めるような視線。
いや、何の話?
謎に論理が飛躍した感覚があったんだけど。
手を出すって?
話の展開がさっぱり。
全く理解出来ない。
俺が獣っ娘の謎の言動に混乱していると。
部屋の中央に座っていた彼女がにじり寄ってくる。
立ち上がる訳ではなく。
四つん這い、はいはいの要領。
ちょっ、なんか怖いんだけど……
距離を取る。
近づく。
さらに距離を取る。
近づく。
そのループ。
出来るだけ一定の距離を保ちながら。
お互い立ち上がる訳でもなく。
ジリジリとした謎の攻防戦。
ただ、この部屋が多少広めとは言ってもそんなスイートルームみたいな作りではない。
すぐに背中が壁に。
追い込まれた形だ。
俺が止まってもなお距離を詰めて来る。
「な、何をするおつもりで?」
「お掃除です」
掃除って……
いや、何を?
君の視線、明らかに俺へ向いてるよね。
俺をゴミだとでも言うつもりか?
掃除して綺麗にしたいと、そういう事?
流石にそれは辞めて欲しいんだが。
別に救世主とか思って欲しい訳じゃ無いんだけど。
恨まれたくもないというか。
俺みたいなおっさんがご主人様というのは都合よくは無いかもしれないが。
仮にもあの状態の君を買ったんだからね?
あのままだったら間違いなく死んでただろうし。
もちろん感謝しろとは言わないけど。
だからって、恨みをぶつけて来る方向はちょっと。
と言うか、魔法は?
契約魔法。
ちゃんと店員が掛けてくれてたはずだが。
主人に危害を加えようとすれば制限がかかるはず。
失敗してた、とか。
まさか。
ちゃんと確認したんだが?
おっちゃんに偉そうに語ってたのに。
俺も全然見極められてなかった。
いや、これ恥ずかしいってもんじゃないぞ。
手を伸ばせば届く距離。
膝立ちの状態。
そのまま、手を伸ばして。
ズボンに手が掛かる。
「……ちょっ!」
「何で逃げるんですか?」
「いや、びっくりして」
え?
「ご主人様って、そういう事するために私の事買ったんですよね?」
「そうだけど」
「なら、良いじゃないですか」
「仕事は?」
「これもお仕事です。奴隷として、ご主人様の体を綺麗にしないと」
またズボンに手が掛かる。
よく分からん。
でも、懸念していた事は無いらしい。
ご奉仕してくれようと。
そういう訳だ。
まぁ、断る道理はない。
唐突すぎてちょっとびっくりしたけど。
掃除って、なるほど。
そういう事ね。
元々そのつもりではあったし。
何なら、タイミング逃してちょっと後悔してたぐらい。
向こうから来てくれるなら。
全然。
こっちとしてはウェルカムである。
仕事の方はひと段落ついたって事なのだろうか?
ま、1日目だし。
そんな詰め込んでもしょうがない。
奴隷だから、俺の部屋で休めと。
そう言う事なのだろう。
だから、新人ちゃんも置いて行ったのだ。
急だったからね。
獣っ娘の部屋とかないし、確かにここ以外寝る場所ない。
寝室とかはおいおい必要になるだろうが。
そこら辺の事は後で女将が用意してくれるでしょ。
「じゃ、じゃあ早速……」
下半身を獣っ娘に預ける。
顔のすぐ前に俺のジュニアがある状態。
さっき掃除する姿を眺めてたせいだろうか?
服も宿の制服だし。
この光景、背徳感がヤバい。
獣っ娘が触れるか触れないか。
ギリギリのタイミング。
ドアが開いた。
逃げ回ってたのでちょうど対角。
視界の中央に見える。
ドアの向こうには女将が。
……あ、えっとこれは違くて。
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