散策 9

 ドアがノックされた。


 多分、結構な時間が経ったと思われる。

 日も少し傾いて来た気がするし。

 単にぼーっとしてるのもどうかと思うなんて言いつつ。

 どれだけゆっくりしてたんだって話だ。

 ま、俺ってそういう人間だしね。

 やらなくて良いことはやらないし、ほっとけば無限に時間を浪費する。

 だからチートなんてものがありながら。

 この年まで何もしていないのだし。


 そもそも、旅先でだらけてるだけだからな。

 何も責められることじゃない。

 温泉宿なら尚の事。

 むしろ、午前中の忙しさの方がイレギュラーである。


 尋ねて来た人を無視するわけにも行かないので。

 渋々立ち上がる。

 多分、女将だろう。

 獣っ娘の事で話があるのかもしれない。

 雑に預けちゃったからね。

 いや、正確には向こうが持って行った形な気もするが。

 ともかく。

 女将にはかなりお世話になってるし。

 これからもお世話になるからね。

 あまり待たせて機嫌を損ねても困る。


 ドアを開けると。

 あれ?

 予想外。


 女将ではなく、見覚えのあるスタッフがいた。

 玄関を掃除していた娘だ。

 何の様だろうか?

 心当たりがない。

 確か、昨日夕飯運んできてくれたのもこの娘だった気がするが。

 まだその時間には早いはず。


「お休みのところすみません」

「いえ」

「実は部屋の清掃に……」

「掃除?」


 客がいる時に?


 これまで何度もこの宿に泊まっているが。

 そんな事一度もなかったんだけど。

 長期間泊まって掃除できてないとかならともかく。

 まだ一泊しかしてないし。

 そこまで部屋も汚れてはいない。


 スタッフの娘も言い慣れてなさそうな感じ。

 申し訳なさそう。

 普段からこの対応をしてる訳ではない様子。


「えっと、……少々お待ちください」


 俺の疑惑の視線に耐えられなかったのだろう。

 軽く頭を下げ、引っ込んだ。


「ちょっ、あなたからも説明してください」

「え、」

「ご主人様なんでしょ?」

「いや、辞めっ押さないでください」


 どうやら、誰かと一緒に来たらしい。

 引っ張り出そうとしている。

 声に聞き覚えがあるような。

 もう1人の子が抵抗虚しく扉の前に引っ張り出された。


 あ、なるほどね。

 獣っ娘か。

 心なしか声色が明るくなってる様子。

 声だけじゃ気づかなかった。

 良い変化だ。

 スタッフの娘との仲も悪くはなさそうだし。

 結構馴染んでいそう。


 うん、ちょっと心配だったが。

 なかなか上手くやれてそうだ。


「あ、えぇっと……」


 いつの間にか着替えたらしい。

 この宿の制服である。

 結構、似合ってるじゃないか。


 目が合ったが、さっと逸らされてしまった。

 あれ?

 表情もどこか申し訳なさそうな顔。

 どうしたのだろうか。

 もっと遠慮ない感じだったが。

 一回距離を置いたからかな。

 ちょっと緊張しているのかもしれない。


 獣っ娘にはどうして買ったか説明したしね。

 一度は受け入れていたが。

 時間をおいて冷静に考えたら恥ずかしくなったのかも。

 環境も良さそうだし。

 その余裕が出来たって事か。


 俺への態度も一種の精神的な異常。

 ストックホルムっぽかったし。

 慕われるのは嬉しいが。

 あまり心酔のような状態になられても困る。

 心身共に健康になるのは良い事だ。

 でもまぁ。

 使用目的を変更したりはしないけどね。


「女将さんに、ご主人様の部屋を掃除してくるように言われて」

「俺が居るのは知ってるんだよね?」

「多分。邪魔だったら、適当にどかせばいいって言ってたので」


 いや、女将さん……

 扱いが雑。

 ま、良いんだけど。


 なるほど、俺のところで研修させようと。

 そういう魂胆か。

 奴隷の世話押し付けちゃったからね。

 それぐらい、別にいいんだが。

 ただぼーっとしてただけだし。

 女の子2人が掃除してくれるって言うんだ。

 目の保養になる。

 しかも、その内の1人はお触りオッケー。


 いや、最高では?

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