散策 8
腹ごしらえも終わり、土産屋を一通り物色した。
お互い温泉街をそこそこ楽しんだところで、宿に帰宅。
別にそのまま散策を続けても良かったんだけど。
流石にね。
一応、港町で面識があるとはいえほぼ初対面なのだ。
こういうのはあまり長い間一緒にいない方がいい。
楽しかったな、とか。
もうちょっと遊びたいな、とか。
そんな感想が出るぐらいの時間で別れるのがベスト。
かなり広めの、木造りの部屋。
そこに俺1人。
ま、1人で泊まりに来たのだから当然ではあるのだけど。
さっきまで人と一緒にいたせいか。
女将に、奴隷に、おっちゃんと。
なんだかんだ、俺にしては朝から1人の時間が少なめ。
環境音のみが耳に入る状況に少し新鮮味を感じる。
ちなみに、奴隷を買ったので本当は1人ではないのだが。
獣っ娘は女将に連れて行かれたまま行方不明。
今、どこで何をしてるのかは謎である。
仕方ないね。
まぁ、雰囲気的に雇ってくれそうな感じだったから。
そこは良しとしよう。
おそらく、早めの新人研修でも受けているのだろうな。
手を腰の後ろに当て、軽く伸びをする。
最近凝ってきたような。
立ってストレッチでもしたい所だけど。
腰を下ろしてしまうと、なかなか。
別にすぐ立ち上がれはするんだけど、ちょっと抵抗を感じる。
結構歩き回ったしね。
足が休みを欲しているのだ。
そんなこんなで。
ぼーっとしてるうちに時が過ぎていく。
時間を無駄にしてるなって感覚。
でも、こういう時間こそが宿に泊まった時の醍醐味だろう。
振り返ると、温泉街に休みに来たにしては充実した1日だった気がする。
いや、まだ日も高いまま。
別に1日は終わって無い。
正確に言えば、充実した半日か。
朝風呂に入って、
森の奥まで鉱物の採取に行き、
スラム街で奴隷を購入。
獣っ娘を連れて川まで歩き、
娼館に寄って、
提案を断られ宿に帰宅。
その後、おっちゃんと2人で街の散策へ。
うん、我ながら結構な運動量。
そりゃ疲れるよね。
一度座ったら立てなくなるのも頷ける。
いや、体の方は全然大丈夫なんだけど。
何たってチートがあるし。
多分、身体能力的にこの程度の運動量なら延々と続けてても問題ない。
それよりも精神的な方。
前世の、チートを手に入れる前の感覚が残ってるからね。
これだけ動けば頭が疲れたと判断する。
実に自然な話だ。
ただでさえ、日頃酒を飲みながらだらけてる訳だし。
異様に安全マージン多めで設定されているのだ。
なんの気なしに外へと視線を向ける。
中庭が日の光に照らされている。
しっかりと管理された。
枝は整えられ、少量の落ち葉が地面に彩りを加える。
何だろうか。
別に良し悪しとか分かる人間じゃないんだけどね。
ずっと見ていられる。
……
しかし、どうしたものか。
いや、こういう時間は醍醐味ではあるし嫌いでは無いんだけど。
ずっとぼーっとしてるのもどうかと思って。
温泉に行っても良いんだが。
今、満腹だからな。
軽く空かせてからの方がリラックス出来る。
ま、人それぞれだろうけど。
もともと、お楽しみの時間にしようと思っていたのだ。
奴隷を買った時点でね。
そもそもがそういう目的ではあるし。
ただ、肝心の獣っ娘が居ない。
と言うか、いつ帰ってくるのだろうか。
不明だ。
夜は返してくれると思いたいが……
えっ、帰ってくるよね?
返してくれるよね?
女将も男が奴隷買う理由ぐらい想像ついてるだろうし。
うん、多分大丈夫なはず。
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