散策 5

「そう言えば」

「ん?」

「さっきの子、結局何だったんだ?」


 ……さっきの子?


 あぁ、さっきの子って獣っ娘か。

 ナンパしてきたと勘違いされたやつ。

 そういや説明してなかったな。


「奴隷だよ」

「へぇ、町で女の子でも引っ掛けて来たのかと思ったが」

「誰がそんなことするかよ」

「兄ちゃん若いし。まだまだ元気だろ?」

「俺ももう35超えてんの」

「35歳なんて、そんなのまだまだだよ」


 おじさんの言うことは大抵これだ。

 若いとか。

 まだまだとか。

 まぁ、実際その立場に立ってみるとそうなんだけどさ。

 俺の場合プラスで前世の年齢も乗っかるからね。

 体のおかげで性欲はあるけど。

 流石に、ナンパなんて物に積極的にはなれない。


「それにしても、わざわざ連れて来たのか」

「?」

「あれ、一緒に温泉旅行に来た訳じゃないのか?」

「いや、買ったの」

「え、買ったってこの町で?」

「そう」


 驚いてるって事は、知らなかったのか。

 通りの方に店があるらしいが。

 もしかしたらそっちは看板出してないのかもしれない。

 逆な気もするけど。

 ま、あそこはスラム街だしね。

 摘発される可能性もかなり低くなる。


 なら、知らないのも当然か。

 あんな場所、普通は近づかないだろうし。

 特に旅好きらしいからね。

 尚のこと。

 旅先で治安悪い地域に足を踏み入れるとか。

 命がいくらあっても足りない。

 チートがある俺とは違うのだから。


「この町にもあったのか」

「まぁ、多分営業許可の降りてない違法店だと思うけど」

「そんな場所で買って大丈夫なのか?」

「契約は結べたし、問題ないでしょ」

「そんなもんか。俺は魔法はさっぱりだからな」

「なら、やめた方がいい」

「言われなくても、危ない橋を渡るつもりはない」


 魔法の知識がないと、騙されても分からない。

 奴隷買ったけど、実は奴隷契約結べてませんでしたとか。

 全然あり得る。

 逃げられるだけならまだしも。

 契約結べてないってことは、主人に危害加えられるってことだからな。

 結構危険だ。


 そうなった所で、訴える場所もないし。

 いや、衛兵とか頼ればいいだろうが。

 そんなの対策してるだろう。

 対策してないお間抜けがいたとして。

 そんなやつに貯蓄なんて概念があるはずもなく。

 どちらにしろ。

 間違いなく、金は帰ってこないだろうな。


「兄ちゃんは、魔法使えるのか?」

「擬きだよ。その店にいた店員と一緒」

「そりゃすごい」

「どこが?」

「いや、学園を卒業した正式な魔術師なんてほぼいないだろ?」

「一般人はあんまりお目にかかれないわな」

「大抵は擬き。魔法が使えるだけですごいと思うぞ」

「ま、そんなもんか」


 認識としては、そんな感じなのか。

 あの店の店員も結構良さげな待遇っぽかったし。

 擬きですら珍しいって知識はあったんだが。

 実感の方がどうもな。

 チートで当然のように魔術を使えるせいだろうか。

 そもそも、使える人間自体が少ないのだ。

 魔術師擬きなんて玉石混合。

 だが、それだけでかなり希少な存在に違いはない。


 俺はそのチートのおかげで玉側。

 擬きのレベルじゃない。

 おそらく国でもトップの筈。

 まぁ、理論とかはちんぷんかんぷんなんだけど。

 そこらへんがね。

 いくら強くても知識がない。

 結局、魔術師擬きでしかないって事だ。


「それで、何話してたんだ。女将が怖い顔してたが」

「覗いてやがったな?」


 真っ先に逃げたくせに。

 ちゃっかりしてやがる。


「すまんって」

「まぁ、いいや。普通にさっきの子を働かせようかと」

「ん? 宿でって事か?」

「そう」

「兄ちゃんが買った奴隷を?」

「面倒見れないからな。代わりに見てもらおうかと」

「いや、それぐらい頑張れよ」

「旅中とか、どう頑張っても無理だろ」

「確かに。それで旅館に、ね」


 面倒見れないなら買うな。

 これが正論なんだけどね。

 欲望に負けてしまったのだ。

 仕方ない。


「でも、怒られる要素はなくね?」

「これの前の話がちょっと良くなかったらしく」

「前?」

「いや、元々は娼館で働かせようかと」

「は?」

「ただ奴隷の方に嫌がられちゃって。宿に」

「金でも稼ごうと思って買ったのか?」

「いや、奴隷商で一目惚れして」

「なら何故娼館に……」

「普通に世話してもらおうかと。身寄りのない女の子の面倒とか、慣れてそうだろ?」

「意味が分からん」


 信じられないものを見るかのような視線。

 同意が得られなかった。

 奴隷にも、女将にも、おっちゃんにも。

 もしかして俺がおかしいのか?

 あまり納得いかないが。

 ここまで共感が得られないとちょっと、ね。


「そもそも、この町に置いてくなら買う意味ないだろ」

「来た時、相手して貰えばいいんだよ」

「あぁ、兄ちゃんは良く来るんだったか」

「そう」

「だとしても、住む訳じゃないんだろ?」

「まぁな」

「その頻度で、わざわざ買った意味とは? それこそ娼館でいいだろ」

「いや、奴隷は買わないと一生会えなくなるからさ」

「あ、なるほどね」


 変に後悔したくないからな。

 冬に外で放置されてて、買わなかったら1ヶ月持たなかっただろうし。

 買ってよかったと思ってる。

 容姿に惹かれた訳だが。

 性格の方も良さげな感じだったし。

 大正解。

 今から楽しみで仕方ない。


 まぁ、今は女将に連れてかれてどこいるか知らないが。

 多分新人として頑張っているのだろう。


「現地妻みたいなもんよ」

「なんだそれ」

「住んでる場所とは別に、離れた所に女を作ること」

「それで現地妻、ね。……贅沢な奴め」

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