散策 4
「はいよ、まず先に朝摘み山菜のランチセットね」
おぉ、美味そう。
店主がテーブルに料理を並べていく。
スープに、サラダに。
ん?
これは水煮、かな。
後、蒸した芋っぽいものが幾つか。
見た目としては地味寄りだが。
それが逆に好感を持てるというか。
店の外見通り。
映えを意識するつもりは一切ない。
素材で勝負する。
そんな意気込みを感じる。
いや、全部俺の勝手な妄想だけど。
にしても、結構すぐに提供されたな。
この手の店は味が良いぶん提供まで時間がかかるイメージがあったが。
ま、裏道に入ったとはいえ一本だけだし。
大通りからすぐ。
時間にして数分歩くかって所。
客もそれなりに多いのだろう。
地元民に愛されていそうな店だが、それだけを相手に商売してる訳じゃない。
ならスピードは大事だ。
今はオフシーズンだからか店内の客は俺達のみだけど。
冬が開ければ、そうも行かないしね。
待たせればそれだけ満足度が下がる。
客引きのために、わざと行列を作る店なんかもあるらしいが。
店構えからしてそんな感じでもなさそうだし。
初来店で料理も食べる前だが、ここの店主良い腕をしていそうな予感。
「どうだ? 美味そうだろ」
「ですね」
「ちなみに、朝摘みとか言ってるが店主は買って来てるだけだからな。本当のところは不明」
「おい、エドガー余計なことを言うな」
「はいはい」
そんなことを口走り、おっちゃんが店主に怒られる。
相変わらずだな。
港町の大将にも似たようなこと言って絡んでた気がする。
あ、そうだ。
酒がどうたらとか言ってたんだっけか。
たった数ヶ月前の話なのに、もはや懐かしい。
まずは、スープから口をつける。
お吸い物みたいな。
透明なスープだ。
そこに、葉と根菜っぽい物が浮かんでいる。
熱々と言うよりは、あったかいってぐらいの温度。
初めに飲んでもらう想定なのだろうか。
ガツンとした旨みはない。
ただ、優しい味だ。
染み渡るって感じ。
空腹だった俺の腹をゆっくりと癒してくれる。
スープに入っていた根菜。
これ、昨日宿で食べたやつだな。
汁物と相性良いし。
この町では定番の食べ方だ。
次は、ノビルか?
それ系の山菜。
料理名は不明。
いや、初めて見る料理とかではないんだけど。
スティック野菜をマヨとかにディップして食べる料理あるだろ。
そういうやつだ。
特製のドレッシングに付けて食べるらしい。
シャキシャキとした食感。
本当に近いな。
ただ、味としては少し辛め。
生の玉ねぎとかに近いかもしれない。
新玉ではなく、普通の。
でも、辛すぎて食べられないって事はなく。
良いアクセントだ。
こっちは、おひたしだろうか。
葉っぱ。
ほうれん草とか、小松菜とか。
その系統。
前世でも無限にあったが。
多分、似たような野菜なのだろう。
それが小鉢に盛られている。
てっきり苦味が強いのかと思ったが、そこまででもないな。
それより酸味。
お酢とかじゃない。
多分、この山菜の味なのだろう。
カタバミとか。
あれが近いかもしれない。
見た目の想像よりかなりスッキリとした味だ。
刺激強めだったノビル擬きとは正反対。
最後に、残ってるのが茎って感じの見た目。
ちょっと勇気がいる。
いや、フキとかその系統なのだろうけど。
調理法も水煮っぽいし。
ただ、初見だとね。
初めて食べた人間は、よくこれを食べようと思ったものだ。
ゴボウもだが。
出された軍人が根っこを食わすのかと騒いだのも頷ける。
まぁ、海外にもサルシフィーとかあるしな。
そんな話がありつつも食べるやつは食べるのだ。
この世界でも。
これが山菜だと定着してるってことは。
似た様なことしたやつがいたって事だしね。
恐る恐る口に含む。
これ、癖も強いな。
フキを初めて食べた時も思ったが、それ以上だ。
本当に山菜か?
いや、美味しいけど。
好き嫌い分かれるだろ。
これ。
誰が食べても美味いってならあれだけど。
この見た目で、癖も強くて。
ほんと、よく食材として定着した物だ。
そして、こいつらを蒸したいもに乗っけて食べる。
ランチセットね。
可愛い名前の割に、随分と質素だが。
実際、味は濃くない。
若い人は満足できないかもな。
でも、素材の味がしっかり生かされていて。
俺ぐらいの歳になると、なかなかいける。
温泉でのんびりして、遅くに起床。
その日の朝食兼、昼食。
ピッタリだ。
酒の当てにはならないけど。
そのシチュエーションにこれ以上のものはないってぐらい。
本当に、食事処って感じ。
おっちゃんが勧めて来たのもわかる。
見る目あるな。
大将の店も当たりだったし。
流石は旅人。
黙々と食べていたおっちゃんが、ふと顔を上げた。
「どうだ?」
「かなり美味い」
「だろ?」
なんか、デジャブ。
なぜ?
……あ、そうだ。
「勧めてきた人間目の前にして、不味いなんて言えるわけないけど」
「は? ……ってそれ、俺が言ったやつじゃねぇか!」
「正解」
「よくそんなの憶えてたな」
「いや、なんか謎にその時の光景を思い出して」
多分、おっちゃんが店主に港町の大将と似たような絡みしてたせいだな。
俺の記憶力もまだまだ捨てたもんじゃないらしい。
ま、言わなくてもいい余計なことを思い出しただけなんだが。
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