散策 3
「メニューもらってもいいか?」
「はいよ」
おっちゃんが店主から木の板を受け取る。
メニューなんて置いてあるのか。
結構珍しいな。
大抵は壁に書いてあるだけ。
それも、文字が潰れたりしていてまともに読めないやつ。
飾りみたいなものだ。
しっかり、客が読む前提のものがあるのは稀。
仮に、苦労して読んだとしても。
開店当時の物だからね。
その料理の取り扱い辞めてたりもザラ。
飾りみたいと言うか。
本当に、飾り以外の何者でも無い。
観光地だからかな?
この世界の識字率じゃ、そんなの用意するだけ無駄なんだけど。
旅行できる人間なんてある程度裕福だからね。
貴族とか、商人とか。
他の場所より、字を読める人間が多いのかもしれない。
なら、有用ではある。
「兄ちゃんは字読めるか?」
「軽くなら」
「そりゃいい、どれにする?」
「おすすめの店なんだろ。おっちゃんに任せるわ」
「へぇ、分かってんな」
そう言って、俺の方にメニューをよこして来た。
普通に選んでも良かったんだが。
断った。
いや、別に字が読めないからそう言った訳じゃないよ?
普段から依頼の内容を隅々まで読んでるし。
ついさっきも、奴隷商との契約書を読んだばかりだ。
おっちゃんにもそんな疑いは掛けられていなさそう。
一切気にしてない。
それどころか、嬉しそうな顔。
ま、悪い気はしないよな。
俺も、逆の立場でこう言われたら嬉しいし。
おすすめの店を聞けば、大抵一緒におすすめの料理も紹介される。
今回の場合は一緒に来たが。
おっちゃんの中で、この店の一押しがあるはず。
それを食べないのは意味不だしね。
飲食店なんて、料理あってこそのお店である。
建物やら雰囲気やら。
そういうのも大切ではあるが、あくまでプラスαの要素でしかない。
前世で偶にいたのだ。
あれは確か、おすすめのラーメン屋を聞かれたんだったか。
味噌ラーメンが美味いと近くの店を勧めた。
しばらくして、美味しかったですよと感想を言いながら見せられた写真が塩ラーメン。
いや、意味が分からない。
悪気は無かったんだろうけど。
じゃなかったら、そもそも紹介された店に行かないだろうし。
感想も言ってこない。
美味しかったです、とか。
教えてくれてありがとうございます、とか。
そう言いつつ。
何故か勧めた料理以外を食う奴ら。
これが、居るわ居るわ。
こっちとしては多少モヤモヤするが。
まぁ、目くじらを立てるほどのことでもないと言われればそう。
怒っても仕方ないし。
特に言うこともない。
別に紹介した側に何かデメリットがあるって訳でもないからね。
どの店で何を食おうと自由。
単純にその日は塩ラーメンの気分だったのだろう。
ただ、個人的に感情が揺さぶられたってだけの話だ。
「いつものと、今日は何か良いの入ってるか?」
「今朝仕入れた山菜が良さげだな」
「いや、それはいつも頼んでるだろ」
「すまんすまん」
「ま、おすすめなら大盛りにしてもらっちゃおっかな」
「まいど。他だと、型のいい魚も入ってるが」
「へぇ、あっこの川か?」
「そうそう」
「じゃ、魚も追加で。調理方法は店主さんに任せるわ」
「あいよ!」
「あ、こっちのにいちゃんにも同じのを頼む」
「んなの分かっとるって」
へぇ〜、なるほどなるほど。
山菜ね。
いつも頼んでるって事は、それがこの店での一押しなのだろうか。
良いのが入ってるってのも嬉しいニュースだ。
温泉街で食べる山菜。
なかなかよさげな感じじゃないか?
ただ。
キノコといい、季節外れなイメージが強い。
冬に食べるってのもどうかと。
いや、偏見なんだけどね。
前世の価値観を引っ張ってるせい。
異世界だし、別に同じ季節が旬とは限らないのだけど。
なんとなくそう思ってしまう。
川魚に関しちゃ、結構食べ慣れてはいるが。
そういやこの街で食べた事は無かったかもしれない。
ノームでも食べれるし。
魚を食べようってなったら港町まで行っちゃうから。
良型が上がったのか。
あんまり川魚に期待しすぎるのは酷だけど。
店主の言葉も期待を膨らませてくれる。
どちらも、なかなか楽しみだ。
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