散策 2

「ってか、おっちゃんのおすすめの店ってこの時間から空いてるのか?」


 ふと、疑問に思った。

 ほらおっちゃん酒飲みっぽいし?

 何となく。

 温泉での晩酌を速攻でまねるぐらいだからね。

 生粋である。


 別に早朝ってほどの時間ではない。

 朝風呂入ってから、何だかんだあったし。

 源泉まで鉱物の採掘に行って。

 戻ってスラムを散策。

 そこで、奴隷を買って川へ。

 娼館に寄って、宿まで帰ってきた。

 ……なんか、本当に色々あったな。

 とりあえずだ。

 もうそろそろお昼ではある。

 大抵の店は空いてると思うが。

 飲み屋とか。

 そういうとこは午後からのイメージ。


「ん? 普通に空いてると思うぞ」

「へぇ意外」


 ま、昼からやってる店もあるか。

 特にここは観光地だしな。

 俺もギルドで昼間っから飲んでたりするけど。

 そういう人間も多いのだろう。


 観光地なんて休暇として来る物だからね。

 むしろ、普段から観光客と同じような生活スタイルって方が。

 それはそれでどうかと思うけど。

 まぁ、俺の場合。

 これで生活出来ちゃってるからね。

 楽な事に越した事はないし。

 今の所、このルーティーンを変えるつもりは無い。


 普段は、温泉街に来たら真っ直ぐ宿へ。

 風呂に入って部屋で外を眺めてと。

 宿でまったりしてる時間が長かったからね。

 あまり店の事とか気にしていなかった。


「意外なのか?」

「飲み屋は勝手に午後からのイメージがあったからね」

「いや、今から行くのは飲み屋じゃないぞ」

「え?」

「そもそも、何故そう思った。一言も言ってないが」

「おっちゃん酒飲みだし。港町で会った店も、あれ飲み屋だったろ?」

「確かに酒飲みだが。ここは宿の飯が美味いからな」

「あぁ、なるほど」


 確かに美味い、夜は宿で食べるに限るって事か。

 実際俺もほとんどそうだし。

 地元の食材使ってくれてるからね。

 旬のものを。

 昨日みたいにたまに脱法食材も混ざるが。

 そこはご愛嬌って事で。

 味だけでなく、もってこいなのだろう。

 おっちゃん旅人だし。

 その土地のものを食べるのは旅の楽しみの一つだ。

 そのままゆっくり出来るのも良き。

 昨日は食後に風呂に入って飲み直してたっぽいし。

 そういうのも温泉宿ならではだ。


 宿で夕飯とって、その時に酒も飲むからな。

 夜飲みには出ないよな。

 ってことは、普通に飯屋か。

 お昼時。

 ちょっと混みそうな予感が。

 まぁ、シーズン的にはオフだからそこまででもないはず。

 時間帯的にもちょうどいいし。

 今日、謎に忙しかったせいか腹も減ってきた。

 旅好きのおっちゃん一押の店。

 期待に胸が膨らむ。


 通りから一本奥に入ったところ。

 やっぱ、そうだよね。

 何となくだけど、メイン通り沿いの店は紹介したくない。

 ベタっていうか。

 美味い店も多いんだろうけど。

 ちょっとした男としてのプライドの問題。

 自分1人で入るならいいんだけどね。

 人に紹介するとなると……

 いや、おっちゃんがそう思ってるのかは知らないけど。

 俺ならそうってだけの話。


 それが空回った結果のスラム行きなのだが。


「ここか?」

「そう、いい雰囲気だろ」

「確かに」


 港町の店と似ているかもしれない。

 いや、見た目の話ではなく。

 文化が結構違うからね。

 雪も降るし、建物の作り自体はかなり異なる。

 ただ、どことなくその雰囲気が。

 おっちゃん、こういう店が好きなんだろうな。

 地元民に愛されていそうな。

 看板もそこまで大きく主張していない。

 いやらしくない面構えの店だ。


「やってる?」

「おぉ、エドガー。いらっしゃい!!」

「相変わらずデケェ声だな」

「いつもの席でいいか?」

「いや、今日は連れがいてな」

「女か?」

「これが女に見えるか?」

「おっと、失礼」


 店に入ると、威勢の良い声が店内に響く。

 もう常連らしい。

 この街に来てそう時間はたってなさそうなものだが。

 流石、コミュ力強者。

 温泉でも向こうから話しかけてきたし。

 そういう出会いとかも含めて、旅を楽しんでいるのだろう。

 酒と飯と女で回してる俺より健全そう。

 ま、こういうのは無理しても仕方ないからね。

 今回はおこぼれに預からせてもらうが。

 旅行なんて、好きなように楽しむのが一番。


 って言うか、おっちゃんエドガーって名前だったんだな。

 初耳、いや港町の店で一度聞いたはずなんだけど。

 我ながら酷い記憶力である。

 冗談ではなく、本当に記憶力に衰えが来てる説ある。

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