奴隷 13
「えっと、何処から聞いて……」
恐る恐る確認。
すると、笑みを返された。
「あ、俺はここら辺で」
不穏な空気を察したのだろう。
おっちゃんが真っ先に逃げ出す。
まぁ、責められない。
当然だ。
誰だってそうする。
俺も逃げたいし。
でも、流石にそれは許されそうに無い。
「いや、冗談ですよ?」
「私は何も言ってませんが、どうしてそう縮こまっておられるのです」
「なら、俺も……」
「ロルフさん、昨日のご夕飯はいかがでしたか?」
「美味しかったです!」
「何でも、ちょっと気になるところがあるご様子で」
どうしよう。
……いや、俺は悪くないし。
気になっただけ。
毒だなんて言っていない。
ちょっと心当たりがあるって話ただけだ。
別に問題ない。
「ピリッとしたんで、香辛料でも使ってるのかなと」
「なるほど」
「赤字なんじゃないかなって」
「心配せずとも大丈夫ですよ。お客様には美味しいモノを食べて欲しいので」
「……」
何故だろう。
言ってる事自体は真っ当なのだが。
絶妙な嘘臭さを感じる。
商売なのだ。
赤字でいいって事はないだろう。
それにこの返答ねぇ。
ふと、視線が合う。
「毒は量と言いますからね」
「え?」
「何事も取り過ぎれば毒。多少刺激的でも、量を調整すればスパイスになります」
「それって、結局毒なのでは」
「まぁ、考え方次第ですね」
目を逸らされた。
おい!
まぁ、いいや。
実際美味しかったし。
おっちゃんも体調崩した訳じゃないっぽい。
つまり、言葉通り。
毒ではなくスパイスとして機能したって事。
言ってることは正しいからな。
確かに毒は量だ。
って言うか、多分これ俺が女将に話したやつだな。
そんな概念この世界で聞いた事ないし。
結局俺のせいなのでは?
この話広げるのはちょっと……
そもそも。
別にそこを突っ込みたい訳ではないのだ。
向こうとしても。
あまり話を広げられたくは無いのか。
そそくさと帰ろうとする女将。
待て。
俺は獣っ娘の事で話があってきたのだ。
帰られると困る。
女将の事を呼び止める。
「あ、待ってください。女将のこと探してたんですよ」
「私の事を?」
「話があって」
「さっきの」
「いや、それは関係ないです」
首を傾げられた。
俺の後ろに隠れたままの獣っ娘を前に。
まぁ、後ろから声かけられたし。
見えてただろうけど。
「この娘の事で相談が」
「? うちは連れ込み宿ではありませんが。別に、そこまで目くじら立てることは」
「じゃなくて。働かせられないかなって」
「はい?」
やはりそう見えるらしい。
懐いてるからだろうな。
いや、そういう事もするつもりではあるが。
本題はそちらではない。
「ここの宿で、という事でしょうか?」
「そう」
「……何処で拾ったのか知りませんが、慈善活動などしてもあまり意味は」
「いや、孤児を拾ってきた訳ではなくて」
「では?」
「こいつは奴隷です」
「はぁ……、ロルフ様がお買いに?」
「正解!」
「ますます話が見えてこないのですが」
「女将さんなら想像つくと思うんだけど、俺って人の面倒とか見れないじゃないですか」
「まぁ、そういうお人ではないですね」
「だから、代わりに」
「自分で面倒も見れないのになぜお買いになったのです?」
「可愛かったし。ほら、見て」
呆れられてしまった。
いや、まぁ。
自分でもあまり良くない行動だとは思うけどね。
でも、しょうがないじゃん。
機会逃したら。
一生会えない可能性高いし。
獣っ娘の脇に手を入れ、持ち上げる。
女将と目線を合わす形。
急でびっくりしたのか一瞬びくっと震えた。
すぐに逸らしてしまう。
でも、女将のほうはそのまま見つめてる。
ね、かわいいでしょ。
「……まぁ、確かに可愛らしいとは思いますが」
「でしょ? 2度と会えなくなると思ったらつい」
「自分で面倒を見るべきだと思います」
「まぁまぁ、そう堅いこと言わずに」
「いえ、私は当然のことを言ってるだけなのですけど」
魅力は理解してくれたらしい。
相変わらず雇うって話には消極的だけど。
用意していた奥の手。
あれ、早々に消えてしまったからね。
このまま押し切るしかない。
「給料とか要らないからさ。労働力なんて、あるだけいいでしょ?」
「えっと?」
「面倒みてくれるだけで。流石にそれよりは利益出すと思うから」
「それは、まぁ。悪くない話だと思いますが」
「あ、後は俺が泊まりにきた時だけは優先して俺の方に付けてくれると」
「そこは別に問題ないです。しかし、獣人ですか……」
「で、どう?」
メリットは提示出来るだけ提示した。
実際、利点は感じてくれてるみたいだし。
後はもう女将次第。
女将が膝をつく。
獣っ娘に視線を合わせた形だ。
「こう言ってるけど、貴女はいいの?」
「……はい」
「本当に?」
「少なくとも、娼館よりはここの方が」
「娼館!? どういう事?」
「実はさっき、娼館の方に……」
話し合い。
途中からお互いが小声になった。
女将に耳打ちしてる。
なんか、あまり都合の良くない話が聞こえてきた様な。
「ロルフ様?」
「はい」
「娼館なんかに連れて行ってどういうおつもりで」
「いや、面倒みてくれるとこってそこしか思いつかないし」
「だからって……」
ヤバい。
「はぁ、分かりました。私が面倒を見ます」
「おお」
「ロルフ様に任せる訳には行かなそうですから」
……何故だろう。
上手く行ったはずなのに、全然嬉しくない。
視線も。
何処か蔑むような目を向けれらてる気が。
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