奴隷 6

 護衛の申し出は断らせてもらった。

 だって、必要ないし。

 と言うか、むしろ邪魔まである。


 仮に金目的の住人に目を付けられたとして。

 自力でどうとでもなるのだ。

 襲われても、ねぇ。

 チート能力の前ではどうしようもあるまい。

 もちろん派手に暴れたりはしないけど。

 まぁ、これでも冒険者だし?

 スラムの人間ぐらい追い返せても違和感はないでしょ。

 やりすぎちゃったとしても。

 目撃者も少ない。

 最悪、全員消せば無かった事に出来るしね。


 そもそも、その護衛信用できるのって話だ。

 俺からしたら初対面の相手。

 しかも、非正規店に付けてもらった人間である。

 警戒対象が1人増えるだけでは?

 それがずっとついてくると。

 おそらく、スラムを出るぐらいまでの間。

 いや、普通に考えて要らないよねって。


 そんなわけで。

 奴隷を連れ、2人。

 スラムを歩く。


 結構目立つらしく、行きとは違う視線を向けられる。

 好奇の目。

 ま、獣人は珍しいしな。

 後はその格好も。

 ボロボロの服。

 それに、洗っていないボサボサの毛。

 ここは水が豊富だ。

 なんたって温泉街だし。

 スラムと言えどここまでの人はあまり見ない。

 分かりやすく奴隷。

 そりゃ、みんな気になりますよねっていう。


 まず、風呂入れないとだな。

 宿に連れてって……

 いや、このまま温泉入れるのはまずいか。

 汚れ過ぎだ。

 その前にどこかで洗わないと。

 川でもいいんだが。

 弱ってるし。

 冷水に入れたらそのままぽっくり行きそう。

 流石に勿体無い。


 あ、あそこでいいや。

 源泉からの流れ出し。

 下流の方ならちょうどいい温度の場所もあるでしょ。


 しかし、今更ながら買ってしまったなと。

 奴隷。

 ずっと欲しくはあったんだけど。

 理性で押さえつけていたのだ。

 世話できないだろ、娼館で十分だろ、と。

 言い訳を見つけてしまったからね。

 つい欲に負けて手を出してしまった。


 さっき店員に言った言葉。

 盗られる金が無いというのは、流石に言い過ぎだが。

 それでもボーナスはかなり目減りした。

 結構高かったからね。

 ま、これだけで減ったのかと言われれば。

 多分そんなこともないんだけど。

 最近薬草採取サボり気味だし、それの影響という説もある。

 毎日のコンビニで給料が消える的な?

 分かりやすくでかい買い物したからね。

 それで余計目立ってるだけ。

 実はこれまでの見えない積み重ねが効いてるのかも。

 まさに浪費。

 降って湧いた金は身につかないと言うし。

 その通りになりつつある訳だ。


 過ぎたことを後悔しても仕方がない。

 金は使うためにあるんだしな。

 貯めてても仕方ない。

 世話の方も、当てはあるのだ。

 何も問題はない。

 横を歩く奴隷の面を見る。

 うん、可愛い。

 やっぱり買ってよかった。

 間違いない。

 あのまま素通りしてたら絶対後悔してただろうし。


 ふと、ノアのことがよぎった。

 何故に?

 別に面影を感じるとかは無いんだが。

 ……いやいや。

 文句は言ってこないでしょ。

 そんな筋合いないし。

 何を気にしてるんだって話だ。


 そもそも、付き合ってるような関係じゃない。

 気を使う必要は皆無。

 責任?

 いや、元々同意してないしね。

 嵌められただけ。

 行為への同意とか、ねぇ……

 あの時のテンション。

 ちょっとおかしな事になってたからな。

 同意書用意されてたらサインしてたかも知れないが。

 振り返って同意してなければ無効である。


 つまり、ほぼレイプでは?

 強姦魔め。

 って、これは冗談だけど。


 それに、この国じゃ無理やりヤったぐらいの事。

 別に大した罪にならないし。

 精々禁固数年。

 しかも、Aランク冒険者にDランク冒険者がって形だと。

 衛兵に訴えたところで。

 まぁ、十中八九放置される案件だろうな。

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