奴隷 4

 店先でうだうだと悩んでた訳だが。

 決心して、入店。


 店内には外に出てたのとは別にいくつかのケージが並んでいた。

 当然、中身は人間だ。

 男女問わずって感じ。

 レベルもそこまで高くないな。

 獣人の娘は客引き目的もあって外に置いてたのだろうか?

 にしては扱いが雑な気もするけど。


 それに、匂いも酷い。

 もともとスラムって事もありキツかったが。

 ここはさらに。

 動物園とでも言えばいいのか。

 それ系の匂いだ。

 獣臭い。

 これ、しばらく風呂に入れてないな。


 男と目があった。

 店員だろう。

 暇そうにしている。


「すいません」

「あ?」

「1人、買いたいんだけど」

「取置きはやってねーぞ」

「金なら持ってる」

「……不用心な奴め」


 なんだこいつ。


 いや、取置きをやってないのは別にいいのよ。

 そんなのよくあることだ。

 買う予定だから売らないでくれと。

 迷惑でしかない。

 相応の手付金払うならともかく。

 それで結局キャンセルとかになったら、機会損失でしかないし。

 でも、だ。

 なぜ買う気あること示して罵られる羽目になるんだか。


 ま、別に接客には期待してないけどさ。

 店が店だし。

 奴隷商なんて人の売り買いを生業にしている人間。

 まともなはずもなく。

 ただ、最低限ってのがあるじゃんね。

 こちとら客だぞ。

 しかも、奴隷なんて安い買い物でもないのだ。


 商品の管理状態から言っても。

 ほぼほぼ非正規店で間違いなさそう。

 仮に正規店だったとして。

 大手ってことは無いな。

 貴族連中を相手にする可能性もある所なのだ。

 この辺りは徹底されてるはず。


 ちゃんと取引終えられるだろうか。

 少々不安なんだが。


「それは理不尽じゃねーか?」

「……お前、この店は初めてか」

「ん? そうだが」

「なるほどな。道理で」


 俺が強めに言い返すと店員の態度があからさまに変わった。

 あれ?


「本当に買うだけの金はあるんだろうな」

「もちろん」

「大通りの方に金のやり取りする場所があるんだよ。ここはただの受け渡し場所」

「あ、そういう」

「こんなスラムの中まで大金持ってくるやつはいねーよ」


 なるほど、冷やかしだと思われたのか。

 販売してるのはここじゃないと。

 だからあんなあしらう様な態度だったのね。

 いや、分からねーよ。

 それであの対応は理不尽でしかない。

 まぁ、違法店にそれを言っても仕方ないか。

 分かりにくいようにしてるんです、と。

 彼らに言わせればそれで終わり。


 言われてみれば確かにそうだ。

 スラムの中を大金持って歩くのは襲ってくださいと言ってるようなもの。

 俺も視線感じて財布アイテムボックスの中にしまったし。

 それに、店に大金があるというのもよろしくないか。

 同じ理由だ。

 ここの住民に狙われるに決まっている。


 商品の方も危ないような気もするが。

 なんたって高価ではあるし。

 でも、人は案外重いからね。

 遺体を運ぶのに苦労するなんて話を聞いた事がある。

 死んで無抵抗になった人間でそれなのだ。

 生きた人間なんて尚更だろう。


 仮にケージから出せたとして、それでも精々数人で1人盗むのが席の山。

 奴隷と協力して逃げる?

 そんなの不可能だ。

 親切心で助けられた訳ではなく、商品として盗まれる。

 その意味は奴隷側だって理解出来るはず。

 店以下の扱いは確定だ。

 間違いなく抵抗される。

 天然の盗難防止装置付き商品の完成。

 いくらスラムとはいえ、これを狙う人間はそう多くはないのだろう。


 殺したって何の得にもならんしな。

 住人が怖くないとなれば、堂々と商売出来るってものだ。

 実に理にかなってる。

 違法店ならさらに。

 ここなら摘発の可能性も他の場所より少ないし。

 仮に目をつけられたとして。

 そのシステムなら、販売はしてませんよって言い訳も可能か。

 個人的に奴隷を管理してるだけ。

 別に誰かに奴隷を売ったりはしていない。

 知人に譲ることはあるけど。

 その際にお金は受け取って無いからね。

 それなら販売には当たらないしなんの問題もないでしょ?

 ってな理屈。


 まぁ、ここの場合は堂々と看板掲げてたけど。

 ついでとしては上出来だろう。

 違法店のくせに、色々と考えてるんだな。


「そっちで取引してこないとダメか?」

「まぁ、別にこっちで売ってやっても良いが」

「それ良いのか?」


 やっぱり考えてないのかもしれない。

 いや、こいつが適当なだけか。


「金さえ貰えるなら、どうせ変わらない」

「じゃあそれで」

「本当に金持ち歩いてたのか。度胸あるな」

「これでも冒険者なんで」

「へぇ……。って、Dランクじゃねーか!」


 冒険者カードを提示、結構ノリノリでツッコミをくれた。

 最初の無愛想な態度とはえらい違いだ。

 悪いやつではないのかもしれない。

 ま、俺に人を見る目なんて無いのだけど。

 別になくても困らないしな。

 最悪チートがなんとかしてくれるから育たなかったとも言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る