温泉 14

 軽く汗を流して湯船を出た。

 朝風呂だからね。

 そんな長居はしない。


 別に、気まずかった訳じゃないよ?


 ま、仮に昨日食べたのが毒キノコだったとして。

 キノコ系はね。

 仕方がない。

 見分けが難しいのだ。

 前世でも、慣れた人が食中毒で運ばれるなんて事は度々あった。

 味としては美味しかったし。

 俺は被害を受けてないから問題ない。

 そういう事で。


 おっちゃん?

 それは、まぁ……

 どんまい。


 いや、別にそうと決まった訳じゃないけどね。

 キノコで食中毒とか。

 ただの俺の妄想でしかない。

 本当に湯冷めして体調を崩したのかもしれないし。

 そもそも、だ。

 初めから朝風呂に入る気なかった説もある。

 普通に部屋で熟睡してるパターン。

 別に待ち合わせとかした訳じゃないから。

 全部、仮定の話だ。


 むしろ、女将の裸独り占め出来たし。

 結果プラスだったのでは?


 いや、ジロジロ見るのは失礼だと言いつつも。

 視界の端には入っていた。

 当然である。

 あれを見るなって方が無理だよね?

 男として。

 むしろ無礼というもの。

 熟れた体。

 普段指名するような娼館の嬢よりはだらしがない。

 でも、魅力的な。

 女を感じるシルエットだ。


 何度思わず手が伸びそうになったか。

 流石に引っ込めたけど。

 普通に他のお客さんも入ってくる時間帯だからね。

 受け入れられる可能性は皆無。

 無駄に嫌われるだけ。

 ビビり?

 いいや、違うな。

 こういうのは勇気ではなく蛮勇と呼ぶのだ。


 風呂から出る際も、ちょっとしたトラブルが。

 せっかく下を向いててくれた息子が、いつの間にか上向きに。

 それを抑えるのに必死だった。

 表情には出さない。

 引かれても困るし。

 視線も含めバレていた様な気もするけど。

 視界の端には入れつつも直接ジロジロ見ないってのと一緒。

 表向き、建前は大切だ。


 部屋着から着替え、宿を出る。

 室内から景色を眺めていてもいいんだが。

 大体はそうしているし。

 今日は天気が最高だからね。

 そういう気分なのだ。

 どうせ1人旅。

 思うがままに行動するのが吉。


 ひんやりした風を感じる。

 温泉であったまった体から熱を奪っていく感覚。

 髪も半分濡れた様な状態。

 もうほぼ水。

 頭が冷やされる。

 普通だったら冷たいぐらいなのだけど。

 その極端な寒暖差が心地いい。


 きちんと乾かせと言われそうな物だが。

 まぁ、別にいいでしょ。

 子供でもあるまい。

 どうせ旅先、周りに迷惑を掛けてるならともかく。

 これぐらいなら、ね。


 湯冷めする?

 例のおっちゃんみたいにか。

 大丈夫。

 俺、チーターだから。


 門から繋がる、この街の大通りを進む。

 街中の散策は後で。

 そもそもまだ朝早いからね。

 あまり店も開いてないだろうし。


 そのまま街の外へ。

 転移して来た時に出た森。

 あそこに来た。

 ちょっと用があるのだ。

 昨日食べた猪もどきを探しに?

 あれも気にはなるけど。

 そっちではない。


 森の中に入り奥へ。

 生い茂ってる木々のせいか光もあまり入らない。

 人の手が入ってない原生林だ。

 どこか鬱蒼としている。

 当然まともな山道なんてあるはずもなく。

 あって獣道。

 まぁ、どちらにしろ目的地まで続いてるものでもない。

 道なき道を進む事になる。

 歩きにくいったらありゃしない。

 雪が深く積もってないだけマシか。


 ここで魔物と出会しても面倒だな。

 魔眼を起動。

 動く魔力を避けながら、さらに進む。


 突然、木々が開けた場所に出た。

 森を抜けたわけではない。

 場所で言えば森の中心部。

 そこにぽっかり、10円ハゲ的にとでも言えばいいのか。

 木の生えてない場所がある。

 それどころか、背の低い草もほとんど生えていない。

 禿げ山と言っても差し支えない有様。


 別に森林限界ほどの高度はない。

 そもそも、ここの山は別に標高とか高くないしね。

 山頂に行ったとて。

 おそらくはしっかり森の中。

 理由は別。

 開けた場所の中心。

 湯気が昇っているのが見える。

 源泉だ。

 地下からの噴出物だからね。

 有害物質も多いのだろう。

 森の中にあってほぼ生物が寄り付かないのだ。

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