温泉 12
気を取り直して、次だ次。
汁物に手を伸ばす。
お、味が違う?
いや、それは当然の事なんだが。
そういう話ではなく。
旨みが違った。
似た見た目だから同じキノコかと思ったけど。
これ、別物らしい。
菌類ってそんなの多いよね。
サラダに入ってたやつの方が、旨みが強く美味しい気もするけど。
やっぱりあんまり食べちゃダメなやつなのかもしれない。
じゃなけりゃこっちにも入れるだろうし。
うま味調味料代わりにすらなる、そのレベルの濃度だった。
もしくは熱を加えると成分が壊れるとか?
ビタミン系はともかく、旨み成分でそれはあんまり聞いた事ないが。
この世界は前世とまるっきり異なるからね。
そんな物質があったとしても、別におかしくはない。
それに、旨みとしては劣るが食感が楽しいタイプ。
下位互換って訳ではない。
これもこれで結構好きな感じ。
変な辛味も無いし。
安心感的な?
そこは大幅加点ではある。
まぁ、食感が楽しいとは言ってもキクラゲほどではないが。
なめことか、それ系統。
いや、ぬめりもないんだけど。
あくまで食感の話。
少なくとも、普通のキノコとは違う。
見た目はそう変わらないんだけどね。
総合して、このスープには良く合ってると思う。
後、一緒に入ってる大根っぽい野菜。
これも中々に良い仕事をしている。
いや、味的には大根と言うよりカブの方が近いか?
まぁ、その類だ。
スープの味、キノコの旨みを邪魔していない。
それでいて味を良く吸っている。
柔らかな食感もこのキノコと良いコントラストだ。
炒め物。
プレートの中心に盛り付けられている。
立ち位置としてはメインなのだろう。
パンに乗せ、一口。
これ、ジビエ肉だろうか?
臭みが強い。
キノコの味よりも先にそっちが来た。
まぁ、この世界で食える肉は大抵ジビエなんだが。
その中でもかなり野生味を感じる。
この宿のことだ。
おそらく、この肉も近くの山で取れた物なのだろう。
味的には猪とか豚肉の様な。
真っ先に思いつくのはオークだけど。
森で魔眼使った時、人型の魔力は見えなかったし。
いても数は少ないはず。
それに、オークとは脂の味が多少違う気がする。
もしかしたら、まんま猪っぽいのがいるのかもしれない。
魚と同じく見た目と味が一致するとは限らないが。
中身としてはそんな感じのやつ。
オークがたまたま豚っぽかったから、これでいいやと満足して他に探していなかったけど。
ツマミにはこの肉も悪くないな。
全然嫌いじゃない。
それに、料理としても。
確か肉の旨みとキノコの旨みって相乗効果があるんだったか。
二種の旨みが味をより複雑にするとか。
前世とは物質からして違うから当てはまるか知らないが、それでも別々なのには変わりないしな。
少なくとも俺的には相乗効果があるように感じた。
今日の料理、総じて主張が強い。
別に味付けが濃いと言うわけではないのだけど。
旨み。
それを強烈に感じる。
だからこそ、この酒がよく合う。
あっさりとした。
特徴のない酒。
普段だったら好きも嫌いも無いような。
ほぼ水みたいな物だ。
でも、だからこそ洗い流してくれると言うか。
またリセットした気持ちで食べられる。
物理的にも口の中をリフレッシュしてくれてるし。
獣肉の脂もスッキリする感じ。
これが無かったらちょっとくどかったかもな。
ふぅ、完食。
ご馳走様。
綺麗に食べ切ってしまった。
サラダ、あれ多少は怖かったのだけど。
気がついたら手が伸びて……
いつの間にか綺麗さっぱり無くなっていた。
中毒性的な?
ま、砂糖ですらかなり強力な物があるからね。
あの旨味ならあってもおかしくない。
皿はそのまま。
しばらくすれば、勝手に取りに来るだろう。
片付け不要というのは楽でいい。
横になり、天井を眺める。
浴室と同じ木の板だ。
違いといえば水滴が付いてるかどうかぐらい。
食べてすぐ寝ると牛になるなんて言われる物だが。
関係ない。
腹の重みを感じながら、横になりぼーっと。
これぞ最高の贅沢。
飲食店ではこうもいかないからね。
食べ切って横になるとか。
迷惑客もいいところである。
宿だからこそ出来る事だ。
いや、自宅でも出来はするんだけど。
片付けがあるから。
何も気にしなくていいというのが素晴らしいのだ。
懐かしい、な。
こうやって腹をパンパンに膨らまして横になる。
そんな体験。
思い出すのは同じような旅先での事。
社会人になってからはほとんどそんな余裕はなかった。
だから、修学旅行とか家族旅行とか。
その光景を幻視する。
このまま夜更かし、と行きたいところだが。
それはしない。
色々と勿体無いからね。
蝋燭とかもそうだけど、時間も。
大半を暗闇で過ごすことになる。
それは流石にね。
まぁ、俺には魔力がある。
一日中光魔法で室内を照らすことも可能だが。
夜中に部屋から漏れる光。
これ、怪しいったらありゃしない。
この世界じゃ日と共に寝て起きるのがベストなのだ。
街も人もそう動いているのだから。
夜起きていたところで。
大抵の店は閉まったまま。
俺1人、ただただ夜更かししても寂しいだけだ。
誤魔化す方法はいくらでも思いつくけれど。
せっかくこの宿に泊まってるのだ。
ここから寂しさを紛らわしに、そこ行くのはよくわからないし。
お金使って、触れ合って。
懐かしさも何もあったもんじゃ無い。
このまま気持ちよく。
今日はひたすらに感傷に浸る、そんな気分である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます