温泉 3
「あ、彼氏さんいらっしゃい」
絡んでこないと言ったな。
あれは嘘だ。
正確には、受付嬢は別だ。
なんでも、ノアは彼女の推しだったらしく。
冒険者にそんな概念あったのか。
まるでアイドル扱い。
まぁ、あの容姿とカリスマ性だ。
ファンが付くのも理解は出来るけど。
そのせいでかは知らないが、対応にトゲが増した気がする。
いや、以前からそんなきらいは有ったんだけど。
より雑になったと言うか……
本人が言うには、脳が破壊されたとかなんとか。
そんな事をほざいていた。
BSSかな?
八つ当たりも甚だしい。
いや、彼女的には俺も当事者だろってことなんだろうけど。
前も似た様なことを思ったが、見直してくれたりはないんだなと。
私が気づかなかっただけ。
推しが選んだんだから、凄い人に違いない。
的な?
そんな評価になってくれても良さそうな物だが。
そういう事にはなってくれないらしい。
受付嬢が言うには、ノア様が凄いだけでおじさんはおじさんのままなのでとのこと。
まぁ、全くもってその通りではある。
俺自身は以前と何も変わっていない。
いや、色んな意味で経験値は増えたかもしれないが。
それだけ。
仕送り的に物を貰える様になって、働く頻度がさらに減少したまである。
連む人間を見て対応変えるよりはいいか。
一貫して態度が悪いというのも、流石にどうかと思うけど。
ここまで清いと逆に好感を持てるまであるな。
「それで、今日もいつもの草むしりですか?」
「いや、しばらく家を空けるから報告しておこうと思って」
「また何処か行くんですね」
「まぁな」
「でも、珍しいですね。おじさんが律儀に旅の事前報告するなんて」
「ギルド長に言われたからな」
「そんなの気にする人じゃないですよね?」
「ほら、ノアが突然帰って来て俺が行方知れずだったら困るだろ?」
「……自慢?」
「いや、ちげーよ」
ほんとこいつ……
薬草採取の事も相変わらずの草むしり呼ばわりだし。
変わらんな。
俺のおかげで憧れのノアと多少なりともお近づきになれたんだからさ。
少しは感謝してくれてもいいのよ?
自分の推しと飲める機会とかそうあるもんじゃない。
まぁ、こいつが変によそよそしくなったりしたら。
それはそれで違和感凄いんだろうけど。
見てみたいような、見てみたく無いような。
「また港町ですか?」
「それは秘密」
「危ないですよ? 冬に他の街に行くなんて」
「大丈夫、大丈夫」
行き先は言わない。
遠いからね。
この時期にそこ行くとか。
それ、どれだけ時間掛けるつもりなんだって話だ。
実際そこまで空けるつもりは無いし。
整合性がとれず破綻する。
あ、そんな事情もあって今回は馬車を使うつもりはない。
そりゃその方が雰囲気は出るんだけど。
受付嬢が言うように、今の時期は危険なのだ。
もう雪も降り始めちゃってるし。
この前港町に行った時とは色々と状況が違う。
盗賊の駆除もままならないのに、街道の雪かきなんてされてるはずもなく。
寒さで魔物の活動は多少おとなしいかもしれないが。
それでお釣りが出るとは、とても言えないよねって感じ。
雪が積もってしまえばほぼ道なき道を進む事になる。
どこが街道かも分からない状態。
そんな中で、立ち往生しては雪を退けと地道に進むのだ。
旅行と言うより、もはや冒険と言った方が近いまであるかもしれない。
後は、そもそもの出ている便自体も少ないし。
しかも結構な高額。
命懸けだし、当然っちゃ当然なんだけど。
その少ない便に乗ったとしても、目的地まで何泊かかるか。
全くの不明。
不確定要素が多すぎるのだ。
出発してみないことには分からない事がほとんど。
流石に、これを馬車で行く気にはなれない。
「本当に分かってます?」
「分かってるって、心配してくれてありがとさん」
「別におじさんを心配してる訳じゃありません」
「え?」
「ノア様悲しませたら、殺しますからね」
あ、そういう心配……
確かに、推しの悲しむ姿を見たくないのは分かる。
だからってその言い草はどうなん?
殺すて。
表面上ぐらいは心配してくれても良いじゃん。
それに、その状況だと俺すでに死んでるような。
その上での追い討ち。
まさかだけど。
死体滅多刺しにしたりとか、んな事するつもりじゃないよね?
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