A級 15

 ノアを連れて娼館にまで来た訳だが。

 場違い感が半端ない。

 ここにいるような人間じゃないとでも言いたげな空気である。

 周りの視線も含め。

 別に冒険者なんだから何もおかしくない。

 それどころか、ピッタリな気もするんだけど。

 ほら、強い雄って感じしない?


 ……もしかしたら、女遊びしてない事すら有名だったのかもな。


 俺、刺されるかもしれない。

 ノア様に女遊びを教えた元凶とか言われて。

 過激なファンに。

 その可能性がよぎるほどだ。


「いらっしゃいませ」


 娼館と言っても何軒かあるのだが、今日来たのはいつもの行きつけ。

 変な所には連れてけないしね。

 初めてでハズレ引いて嫌な記憶とかになって欲しく無いし。

 気持ちを切り替えようってタイミングなのだ。

 シコリを増やすのは頂けない。


 その点、ここなら安心出来る。

 サービスって点でも、女の子の質の方でも。


「本日、普段ご指名の娘出勤してますよ」

「いや、今日はちょっと別件で」

「別件でございますか?」

「こいつを男にしてやろうかと」

「……かしこまりました。お連れ様のご利用ですね」


 初めての娼館に俺の背後に隠れていたノア。

 店員の視線が向き、一瞬固まった。

 気づいたのかな?

 本当に知名度凄いんだな。

 この街だと特にって感じだろうけど。

 知らないって言った時、受付嬢に正気を疑うような目を向けられたのも納得。


 しかし、教育が行き届いてるらしい。

 一瞬表情にこそ出たが、無闇に客の事を詮索してきたりはしない様だ。

 この手の店だと大事だよね。

 そこら辺の配慮とか。

 俺みたいなおっさんはともかく、こそこそ通ってる人もいるだろうし。


「先輩、ここのお店って良く来るんですか?」

「まぁな」

「……」

「どうかしたのか?」

「さっき店員さんが言ってたのって、先輩のお気に入りの娘ですよね?」

「あ、あぁ」


 こそこそと耳元でそんな事を聞いてきた。


「店員さんとも顔見知りみたいだし……」

「あのー」

「先輩って、普段からお店の娘とそういう事してるんですよね?」

「ま、まぁ最近はずっとそうかな」

「経験豊富な方が好きなんですか?」

「絶対って程じゃ無いけど、どちらかといえば?」

「へぇ……」


 なんの話だ、これ。


「僕、会ってみたいです!」

「は?」

「指名って言うんでしたっけ? それ、僕がしてもいいですか?」

「いや、別にいいけど」


 そういう感じ?

 ま、あの娘なら失敗はしないだろうが。

 初めての選択肢としてはこの上ない。

 しかし、何故だろう。

 ちょっと嫌な予感が……


「店員さん」

「はい」

「先輩、じゃなくてロルフさんがいつも指名してる娘。その人指名したいです」


 店員が俺の顔を窺ってくる。

 文句なんて言わねぇよ。

 別に俺の女って訳でもないし。

 そもそも娼婦だし。

 そこに独占欲発揮するのはねぇ。

 流石にキモいでしょ。


 単に、気に入って良く指名してるってだけの関係。

 ただの常連客だ。

 それ以上でも以下でもない。


「では、こちらへ」


 ノアが店の奥に案内される。

 さて、どうしよっかな。

 独占欲どうこうという話ではなく、普通に予定が狂った。

 彼が、初体験済ませるまでの間。

 いつもの娘を指名して、時間潰そうと思ってたんだけど。

 それが不可能になってしまった。


 ま、久々に新規開拓しますか。

 行きつけだし、一番人気とかではなく店員のセンスを信じてお任せで。

 適当に良さげな娘見繕ってくれるでしょ。


 〜〜〜〜〜

 お楽しみ中

 〜〜〜〜〜


 あっという間に、と言うかいつの間にか時間が過ぎた。

 普段は目の前の娘に集中してるんだけどね。

 今日はどこか心ここにあらずって感じ。

 ノアのことが常に頭の片隅にあったからだろうな。


「どうだった?」

「良かったです。……ええ、本当に」

「そうか」


 ちょっと心配だったが、上手く行ったらしい。

 表情を見てもそれが分かる。

 ツヤツヤしてるとでも言えばいいのか。


 ん、ツヤツヤ?

 俺なんて初めての時は体力と精力を共に使い果たしてげっそりした物だが。

 流石はAランク冒険者。

 あまり疲れていそうには見えない。

 こりゃ、未来の性豪かもな。

 末恐ろしい。


「無事、漢になれた訳だ」

「……」

「あれ?」

「それは、内緒です」


 どゆこと?


「たっぷり、先輩の話聞かせてもらっちゃいました」

「ん?」

「えへへ」


 もしかして、そのために指名しました?

 行為はしたよね?

 まさか何時間もずっと話し込んでたり、とか。

 いや、まさかね。

 まさか、そんなこと無いよね?


 そういえば、俺にここ連れてくよう頼んで来た時なにやら名案でも思い付いたっぽい表情をしていた様な……

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