A級 14

「先輩は?」

「え?」

「先輩はどんな子がタイプなんですか?」


 ……そりゃ、そうか。

 こっちから質問したんだもんな。

 聞き返されるのは道理だ。


 ノアは頬を染めたまま。

 どこかそっぽを向く様な形でそれを口にした。


 普通なら答えるのを躊躇う質問じゃない。

 思春期の男子中学生じゃ無いのだ。

 恋愛が理解出来ないとかいう人種でもないし。

 適当に。

 それこそ、最近抱いた女の特徴でもあげておけば良い。

 例えば、程よく日焼けしていて尻の大きな子とか。

 そうなんだけど。


 今さっき告白してきた相手にそれをするほど無神経にはなれない。

 いや、別に告白では無いか。

 好みってだけ。

 ほぼほぼ同意義だけどね。

 それを理由に現実をねじ曲げられるほど都合のいい脳の作りはしていない。


 ただ、ここで嘘ついても仕方ないしな。

 変に期待を持たせてもね。


「……俺は、女の子の方が好きかな」

「そっか」


 沈黙。

 気まずい。


「ノアは魅力的だとは思うよ。容姿はもちろん、性格も地位だって」

「……」

「でも、こればっかりはね」


 普段なら、告白なんてされてもキッパリ断ってそれで終わりなんだけどな。

 ここまで真っ直ぐなのは少ないが。

 でも、アピールされること自体は無い訳じゃ無い。

 馬車でも、それっぽい様な事はあったし。

 別に慣れてない訳でもないはずなんだけど。

 何故だろう。

 慕われてるのを受け入れちゃった後だから、なのかもしれない。

 こう、やけに気を遣ってしまうのは。


「いいんです。もともと釣り合うとは思ってないですから」


 健気だ。

 そして、釣り合ってないのは俺の方なんだが。

 客観的にみて。

 まぁ、それを言っても仕方ない。

 せっかく切り替えようとしてる所、わざわざ否定してもね。

 数年経って振り返って、あの時あんな人と付き合わなくて良かったと。

 そう笑い話になってるはず。

 ノートの件を考えるとちょっと怪しいけど。


 会話が止まってしまった。

 ただただ食事をする音が室内に響く。

 料理をつまみ、酒を流し込む。

 それだけ。

 とは言え、ここは飲み屋だ。

 個室といえど、外の喧騒が聞こえてくる環境。

 それがかろうじて沈黙に色を与える。


 一通り食べ終わり、もう解散だろうか。

 会計を済ませ店を出た。

 店主には悪いことをしたかもしれない。

 とてもサインなんて頼める雰囲気じゃなかった。

 お詫びに俺から頼むのも気まずいんだが。

 あとで何か埋め合わせをしよう。


 そんなことを考えながら帰路に着き、


「先輩!」


 後ろから呼ばれた。

 ノアだ。

 さっきまで俯いていたのに。

 強い子だ。

 言葉にも震えはない。

 吹っ切れたのだろうか?


「この後、もう一軒いいですか?」

「飲み直すか?」

「そうじゃなくって、もともと僕の事連れてく予定だった場所に連れて行ってください」


 そう言って笑った。

 何も変わらないはずの笑顔だったのに、やけに色っぽく。

 っと、危ない危ない。

 気を抜くとコレだ。

 絶対ニコポ持ってるだろ。


 それで、連れてく予定だった場所?

 ん?

 何の話だっけ。


「さっき言ってたじゃないですか。いいお店に連れてってくれるって」

「あ、それは」

「ダメですか?」

「いや、ダメじゃ無いけど。……意味分かって言ってるんだよね?」

「何となくは」

「なら、良いけど」


 自暴自棄って感じでも無さそう。

 むしろ名案でも思い付いたかのような雰囲気。

 ま、失恋を行為で癒すのも悪くはないか。

 そういう人もいるしな。

 案外スッキリするかもしれない。


 でも、俺が知ってる店は女の子がいる所ばかりなんだが。

 いいのかな?

 まぁ、ノアは男色の気があるってだけ。

 別に男専門って訳でも無いのかもしれない。

 全く遊んできてないっぽいしな。

 意外と、一度試したら女の子の方に目覚めるかもしれないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る