A級 13
「ほら、飲めって」
「あ、はい……」
今の行為が自分でもショックだったのだろう。
分かりやすく気落ちしている。
酔ってテンション上がってくれたら有難いんだが、簡単には行かないらしい。
そりゃそうか。
ノアからしたら憧れの先輩の前だもんな。
カッとなって机を叩き割りかけるとか、僕は何をやってるんだともなるよね。
ただでさえ自信が無いのに。
そこから更に自信を削ってどうするんだって話だけど。
大丈夫、俺にはとっておきの秘策があるのだ。
自信をつけさせるって言ったら、やっぱりあれだろ。
娼館、女だ。
前世でも聞いた覚えがある。
自信がない男は風俗に行けと。
あれは恋愛の話だった様な気もするが、男として成長すれば勝手に自信もついてくるでしょ。
男って生き物は得てしてそういう物だ。
「ノアってさ、遊んでるのか?」
「遊び?」
「お酒もあんまり飲み慣れてないみたいだし」
「?? 子供じゃないんですから、そういうのは」
「違うって、大人の遊びだよ」
頭にハテナが浮かんでる。
やってないな。
そもそも酒慣れしてない時点で察していたが。
「この街じゃ英雄扱いだろ? 何もしなくても、女の子の方から寄ってくるんじゃないか?」
「まぁ、そんな事も偶に」
「一緒に飲んだりとか、それこそ宿とか」
「そういうのは……。先輩に早く認められたかったので、ただひたすら強くなる事に夢中で」
「そ、そうか」
まっすぐな思いが気まずい。
そこまで影響を与えてたという事実が。
忘れてたという事実が。
何より、飲み代の補填が欲しかっただけというのが。
別に大した悪意があった訳でもないのに。
影響を与えまくってる。
「じゃあ、お付き合いした事も無いって感じか」
「ですね」
「よし、食い終わったらいい店連れっててやるからな」
「いい店? ここも十分いいお店だと思いますけど」
「そういう事じゃ無いんだよなぁ。いい店と言ったらいい店だ」
相変わらずノアの頭にハテナが浮かんでいる。
まぁ、いい。
「タイプとしてはどんな子が好みなんだ?」
「好みですか?」
「そう、見た目やら性格やら」
「僕の好み。……先輩みたいな人、とか?」
いや、鈍感系主人公かよ。
そっちじゃなくて。
にしても、盲目的になりすぎじゃね?
何故、ここまで尊敬されるのか。
10年前にノート売りつけただけだよ。
それ以降関わった記憶ないし。
怖いぐらいだ。
結構、依存体質なのかもな。
それに、経験も無いのか。
ノアの容姿とAランクってステイタス込みで、ね。
よっぽど冒険者に打ち込んでたって訳だ。
依存体質なのも合わせて、女知ったら身を崩しそうな気もするけど。
逆に強いモチベーションになる気もする。
女を知ってモテようって思えば見栄も張るだろうし。
それが自信にもつながる。
どっちに転ぶかは、よく分からんな。
まぁ、英雄色を好むとかいうし。
ノアは英雄側だ。
きっと上手い事行くでしょ。
知らんけど。
「そうじゃなくて、恋愛的な意味でとか性的な意味での話」
「性的な……」
聞いといて何だが、分からないとか言い出しそうだな。
そのほうがぽいし。
じゃなかったらとっくに経験してるか。
寄ってくる女なんていくらでもいるのだから、機会なんて滅茶苦茶あったはず。
それでも純潔を守ってるんだ。
大した物だよ。
その仕事に打ち込む気持ち。
原因があれなのがちょっと理解できないけど。
「先輩、ですかね?」
「は!?」
「……」
「え、本気で言ってる?」
俺の言葉にノアがこくりと頷く。
予想外の答えが返ってきて、まじまじと見返してしまった。
まっすぐな目だ。
嘘をついていたり、揶揄ってる様には見えない。
そもそもそういう人間じゃないし。
そのまま見つめていると、頬を染め目を逸らされてしまった。
マジか。
さっきまでそんな感じじゃなかったろ?
質問されて今自覚したとでも言いたげである。
男色ねぇ……
英雄色を好む、それは男女限らずなことが多い。
武将なんかも多かったとか。
Aランク冒険者も似たような物ではある。
地位的にも、武力的にも。
だからそこまでおかしくもないんだろうけど。
ただ、俺にそれを受け入れる度量はない。
ストライクゾーンは広い方だとは思うんだが、あいにくそっちの気はないのだ。
じゃなければ付き合うとかはともかく一晩ぐらいいいんだけどね。
見た目は綺麗系だし。
慕ってくれてるのも分かってるし。
後輩気質。
部活で後輩に告白されるとかに近いか、結構憧れのシチュエーションだよね。
それが男じゃなければ。
……ちょっと、危なかったかもな。
女だと勘違いしてたら。
それこそ、昔はそう思ってた訳だし。
いや、男だと分かった今でも女装して迫られたりしたらころっと行きかねないかもしれない。
確かに、俺にそっちの気は無い。
無いのだが。
男の娘の同人誌に手を出した経験が一度もないかと聞かれれば、そんな事もない訳で。
もちろん二次元限定の話だ。
二次元限定の話なのだが、ノアは美形だし雰囲気もある。
次元の壁を越える可能性もなきにしもあらず。
もちろんこれを教える気はないけど。
だって、怖いし。
そっち方面の冒険は、ちょっと勘弁願いたい。
それより、どうしたものか。
この後、風俗にでも連れて行こうかと思ってたんだが……
最早そんな雰囲気じゃ無くね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます