A級 8

「思い出してくれました?」

「……あぁ」


 思い出した、ノアってあいつか。

 いやースッキリした。

 にしても、変わり過ぎじゃね?

 全然分からなかったわ。

 ギリギリ声に面影あるかなってぐらい。

 いや、変わってなかったら覚えてたかと言われるとね。

 それはまた別の話なんだけど。


 単純に、あんまり記憶に残ってなかった。

 見守ってたとは言ったけど、それは言葉の方便だったといいますか。

 見どころはあったよ。

 少なくとも、他の冒険者よりはノートを買ってくれそうだった。

 騙しやすそうだったとも言う。


 冒険者になったばかりで、あまりスレてなさそうだったし。

 正にルーキーって感じで。

 田舎から出てきたばかりの冒険者って仕事に夢を持っていそうな子供だった。

 と言うか、実際そうだったのだろう。

 だから、あんな話に飛びついた訳で。

 Dランク冒険者が魔導書を売ろうなんて、あからさまに怪しかったのに。


「随分と、変わったな」

「そうですか?」

「全然分からなかったよ」

「まぁ、10年も経ちましたからね」


 いや、そういう変化じゃないと思うけどね。

 ただ成長したって感じではない。

 少なくとも、あの時の子供が10年経ったらこうなると想像出来る人間は圧倒的に少数派だと思う。

 そもそもこんなイケメンじゃ無かったし。

 カリスマ性も無かった。

 だから、一度見たら見たら忘れなさそうなのに全く覚えていなかった訳で。


 人に興味のない俺と言えど、ここまで特別感溢れてたら流石に覚えてる。

 はず。

 ってか、こんな相手に情報商材売りつけたりしないし。

 だってなんか怖いじゃん?

 後ろめたいことしたら、手痛いしっぺ返しくらいそうで。


 これが都会デビューってやつなのかね。

 恐ろしいわ。

 10年前のこいつなんて、もっと芋くさくて騙されやすそうな。

 所謂、世間知らずの田舎者って感じだったのに。

 女は化粧で化けるなんていうが、男も充分化けるらしい。


 ……


 と言うか、本当に男だよね?

 あまり印象に残ってないから、記憶あやふやなんだけど。

 女の子だったような気が。

 別にスカート履いてた訳でもないし、女だって言われた訳でもないんだけど。

 痩せ型だったし。

 髪ももっと長くて、少なくともショートヘアぐらいはあった。

 青髪は珍しいからね。

 その部分だけは結構しっかり記憶がある。


「ノアって……」

「ん?」


 ちょっと待て。

 どう聞こう。


 いや、既に忘れてたのバレちゃってるしその手の気遣いなんて今更なんだけど。

 相手を気遣ってではなく、自分の都合の話。

 10年ぶりの再会で思い出せなかったのとは意味合いが変わってくる。

 当時は見守ってた設定なのだ。

 性別知らないのは流石にアウトだよな。

 それも分からないのに、どうやったら見どころの有無なんて分かるんですかって話じゃん。

 あれをまだ信じてるのかは知らないけど。

 下手にこっちから触ると藪蛇になりかねないし。


「ほら、昔は髪とかもう少し長く無かった?」

「あの時は、切るの面倒だったので」

「へぇ、じゃあ今は気が変わったんだ」

「長い髪は男らしくないかなと、ただでさえ中性的な顔ですから」


 あ、ガチで男だったのね。

 まぁ、中性的だと分かりにくいとは聞くが。

 10年前だと、当時は10代前半か。

 第二次性徴期もまだ来てなかっただろうし。

 それでも驚きだが。


 でも、そうか……

 男だったのか。

 別に狙ってたとかはないが。

 歳が離れ過ぎてるし。

 タイプでも無かったし。

 そもそも忘れてたし。


 ただ、俺が女だと認識してる人間が1人減ったとなるとね。

 謎に思うところがある。

 これ、もはや寝取られまであるな。

 田舎の世間知らずの女の子が都会のイケメンに。

 しかも、その存在ごと。


「それで、その時の借りを返しに来たと」

「はい!」


 借り、……借りねぇ。

 情報商材を売った事へのお返しか。


 お礼参りとかじゃないよね?

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