A級 7

 流石はAランク冒険者、とでも言えばいいのか。

 間近で見るとオーラ的なものを感じる。

 単純にイケメンってのとは別に、独特な雰囲気も。

 膨大な魔力や余過剰の身体エネルギーがそうさせるのか、本人だけじゃなく周囲の空間も含めて存在感がある。

 いや、気のせいなのかもしれないけど。

 隣のスキンヘッドからは特にそんなの感じた事ないし。

 元Bランクなのに。

 やっぱり、イケメンだからかもしれない。


 能力的には俺にもあっておかしくない訳だしね。

 やはり容姿か。

 もしくは、自覚の有無か。

 力を持つ者の責任とか、果たす気ないしね。

 そりゃ矮小に見える。

 ギルド長はまぁ、引退したしね。

 普段偉そうにふんぞり帰ってる禿げ頭も俺と同類という説はある。


 とりあえず、いいやつそうではあるか。

 変に話がこじれない事を祈ろう。


「それで、俺に話って?」


 ポーションの方か、

 盗賊の方か、

 どちらにしても早めに終わらせたいところ。

 すぐ戻れば晩酌の続きが出来るし。

 まぁ、どっちみち飲み直しはするんだけど。

 それはそれ、これはこれである。


 ……今更だが、敬語の方が良かった気がする。

 思ったことがそのまま口をついて出てしまったと言いますか。

 早く終わらせたいという内心のせい。

 あるいは、最近まともに敬語を使ってないせいかもしれない。

 なんか俺って大人として終わってるくね?


「実は、先輩にお願いがありまして」

「ん?」

「僕の代わりに講師の仕事を受けてくれませんか?」


 先輩?

 講師?


 ……なんの話?


 そりゃ、先輩ではあるだろうけど。

 見た目通りの年齢なら20代前半、こいつが物心つく前から冒険者ではあった。

 あったが、違和感が。

 そう言えば、さっき名前呼ばれた時も謎にさん付けだったような。

 いくら年上とは言え、おかしいよな。

 冒険者ってのは本来上下を気にしない人間だ。

 特に年齢での上下なんて。

 だから、俺はずっと他の冒険者に舐められてるわけで。

 気にするとすれば、ランク差ぐらいだろうか。

 ただこれは低ランクが高ランクに対して。

 逆はあっても、AランクがDランクに気にする様な事なんて存在しない。


 と言うか、盗賊の話は?

 国から討伐依頼を受けたんじゃないの?

 ポーションの事とか聞きに来たんじゃないの?

 後、講師って本当に何?


「……もしかして、僕の事忘れちゃいました?」


 俺が頭に大量のハテナを浮かべたまま固まっていると。

 不安気な表情を浮かべる。

 そして、恐る恐るといった様子確認してきた。


 あれ?

 この感じって、まさか。

 ガチの知り合い?

 いや、まさか。

 そんな。


 受付嬢は怪訝そうな表情。

 そりゃそうか。

 俺みたいなおっさんがAランク冒険者と知り合いって。

 しかも、向こうから話したいことがあると。

 どんな関係だって話だ。


 いや、本当に。

 俺が一番知りたい。


 お世話になったから借りを返したい、とかって言ってたんだっけか。

 これも言葉通りの意味ってこと?

 盗賊を代わりに討伐してくれたからそのお礼って事でもなく。

 ポーションの情報聞き出す為の足掛かりという事でもなく。

 依頼を横から邪魔されたから借りを返すという名のって事でもない、と。

 お世話、ね。

 誰かの世話を焼いた記憶なんて無いんだが。

 人の人生に責任なんて持ちたくないが信条だし。


 でも、言われてみれば声にどこか聞き覚えがあるような。

 ただ、こんなイケメン忘れるか?

 いくら人に興味がないと言っても、流石に。

 名前が出てこないとかならともかく綺麗さっぱり忘れるのはありえないでしょ。

 しかも、この感じなんか会話もしてそうだし。

 いくら人に興味のない俺と言えど、ねぇ。


 ノア。

 のあ……

 NOA?


 ダメだ、全然覚えてない。

 正直に言うのもな。

 ちょっと勇気が。

 いや、いい人そうだし怒ってきたりはしないだろうけど。

 まっすぐ向けられた笑顔を思い出してみろ。

 忘れたか聞いてきた不安げな顔も。

 これを見て、全く覚えてないとか言える訳ないだろ。


 思い出した。

 多分。

 ……うん。


「そんな訳ないだろ、もちろん覚えてるって。ノアだろ?」

「……覚えてないですよね?」

「いや」

「僕ですよ、昔お世話になったじゃないですか」

「……?」

「ほら、10年前」


 10年前?

 って言っても、俺の生活スタイルは変わらないしな。

 今と一緒だ。

 後輩の面倒を見たりなんてあったっけ?

 そんな特別なイベント。


 ……あ。

 確か、あれは依頼をサボり過ぎて金がなくなって。

 そうだ。

 いつも通りギルドの酒場で飲んで金払おうとしたら、財布の中身がすっからかんだったんだ。

 おばちゃん、当時からお役所仕事が移ってて。

 常連だっていうのにつけを許してくれなかったんだっけ。

 後一歩で出禁になるところだった。


 それで、流石にそれはまずいと速攻で金を用意したんだが。

 方法が近くにいたルーキーをだまくらかして金を巻き上げるとかいう、我ながらなかなか酷いやり方。

 ずっと見守っていたが、やはり君には見どころがあるとかなんとか言って。

 俺が昔使ってたノートを有益な情報が書いてある魔道書だと買い取らせたんだっけ。

 一応恐喝とかした訳じゃないし、この世界の法律には反しないけど。

 これ、情報商材もいいところだよな。

 いや、ストレートに詐欺かもしれない。


 しかし、あの時のルーキーが今やAランクか。

 俺って結構見る目あったんだな。

 適当に近くにいた相手に売りつけただけだし、ただの偶然なんだけどね。

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