A級 6

 連れて行こうと思えば、出来ないこと無いだろうけど。

 それこそ転移とか?

 まぁ、流石にね。

 お世話にはなっているが、そこまでの仲じゃない。

 デメリットを考えるとどうしても。

 ここら辺が、仲間とか友達って呼べる人間を作れない根本原因なんだろうな。

 隠し事が多すぎてってやつ。

 全部を話せる相手が居ないのだ。

 自分で鼻っから信用出来ないと切り捨ててしまっている。


「……何を、しているんですか?」


 後ろから声を掛けられた。

 震えるような声。

 振り返ると、そこには受付嬢が。


 あれ?

 こんな声だったっけ。

 もっとハキハキした声だった気がしたけど。

 それに、顔も何処か皺がよってるような。

 おばちゃん以上だ。


「普通に、待っててって言われたから待ってたんだけど」

「どこに酒を飲む馬鹿がいるんです!?」

「ここ?」

「……本当、おじさんのアホ!」


 いや、なんとなく想像は出来てましたけどね。

 流石に。

 俺もそこまで馬鹿じゃないし。

 ま、想像ついててもやっちゃう時点で受付嬢に言わせりゃ馬鹿なんだろうけど。

 面倒事が待ってるのだ。

 ちょっとぐらい、良いじゃんね。


 景気付けってやつ?

 まだ数口飲んだだけだし。

 別に酔っ払っちゃいない。

 問題ないでしょ。


「貴女も、この人にお酒出さないでください!」

「ごめんなさいね。お土産もらっちゃったからつい」

「はぁ……」


 受付嬢の標的が俺からおばちゃんの方に移った。

 それはちょっと可哀想。

 おばちゃんは一応止めてた訳だし。

 俺がお酒で誘惑して堕としただけだ。


 なんか、文字にするとアレだな。


「まぁまぁ。おばちゃんはツマミ出してくれただけで、このお酒持って来たのは俺だから」

「何を庇った風な事言ってるんです?」

「ひっ、そう睨まなくても」

「大体おじさんが飲まなければ、私も怒りたくて怒ってる訳じゃ無くって」

「ならもう良いじゃん。ほら、過ぎた事だし」

「……Aランク冒険者にお酒飲んで会うとか、無礼だと思われて斬り殺されても知りませんよ?」

「大丈夫だって」

「私はおじさんのことを心配してですね」


 そんな可能性もあるのか。

 目から鱗だわ。

 まぁ、誰が逮捕するんだって話だしね。

 人1人殺したぐらいで捕まえてたらコスパが悪い。


 ま、今回は大丈夫でしょ。

 ポーションのことか盗賊のことか、どちらにしても話を聞きに来たんだし。

 考えなしでもなけりゃそうはならない。

 仮にそうなったら、その時はその時。

 消えてもらうって事で。


 チートバレるのは不都合だが、隠すことが減るのは何も悪いことばかりじゃない。

 おばちゃん連れて堂々と港町に転移できる訳だし。

 だからって、自分からバラしたくは無いけどね。

 誤魔化せるなら誤魔化しておきたい。

 単に、いざって時は躊躇しないって言わば俺の心構えの話だ。


「ちなみに、お酒はもう一本。受付嬢の分もあったんだけど」

「……」

「いらないのかな?」

「それはまぁ、ありがたくもらいますけど」

「同罪」

「うるさいです! 私は貴方達とは違って今飲んだりはしません」

「ちょっ、落ち着いて」


 怒らせてしまった。

 まぁ、わざとなんだけど。

 からかうのって、謎に楽しいのがね。

 やりすぎは嫌われるけど。

 失敗してもついやってしまう。


 これは、受付嬢の反応も悪い。


「いいから、こっち来てください!」


 手を引っ張られて、無理やり連れ出されてしまった。

 あぁ、まだ飲み切って無いのに。

 勿体無い。

 ま、残りはばあちゃんが飲み切っちゃうだろうから無駄にはならないけど。

 つまみももう少し食いたかったな。

 ちょっと、いやかなり酒と肝臓に心残りが……


「面倒だな。やっぱり無しってあり?」

「良いわけないでしょ!」


 ギルドの裏側。

 事務スタッフや受付嬢なんかが出入りしてる場所だ。

 ここに入るのは久々。

 まぁ、冒険者はほぼ用事ないしね。

 応接間だろうか?

 受付嬢がノックして中に入る。

 俺も軽く会釈だけしておく。


 部屋の中にはスキンヘッドと好青年が2人。

 禿げてる方はギルド長だ。

 ってことは、若いのがAランクか。

 見た目では20代前半って感じ。

 その年では凄いな。

 まぁ、持ってるものが違うから努力でなれるもんじゃないし。

 若さはあんまり関係ないのかもしれんが。


 人気出そうな見た目してる。

 受付嬢もノア様とか言ってたっけか。

 実際そうなんだろうな。


「ロルフさん!」


 俺と目が合うと、真っ先に名前を呼ばれる。

 しかも、謎に満面の笑顔。

 なんて爽やかな、ニコポでも持ってそうなレベルだ。

 正統派のイケメン。

 俺にちょっとでもそのけがあったら危なかった。


 にしても、何故に俺の名前を?

 ポーションに興味あるからって、わざわざDランク冒険者個人をね。

 上級冒険者のくせに、マメな奴だ。

 受付嬢はこいつに俺が斬り殺されるとか言ってたのか。

 結構失礼じゃね?

 全然そんな雰囲気無いんだけど……

 やっぱ受付嬢は受付嬢だな。

 まぁ、そんな奴だから今の関係を保ってられるのかもしれないが。

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