A級 4

「本当に、俺に話があるって言ってたんだよね?」


 確認の意味も込めて。

 別に、現実逃避がしたい訳じゃ無いよ?


 是としか返ってこない事は分かった上で。

 それでも、確認せずには居られないと言いますか。

 出来れば否定してほしいと言うか。

 ……ん?

 それを現実逃避って言うのか。

 まぁ、仮に否と言われたとしてだ。

 そりゃ嬉しいけど、さっきまでの時間なんだったのって話だし。

 タチの悪いドッキリもいい所。

 そこら辺は充分理解してるんだけどね。


「ええ、何かの間違いじゃ無いかと思って何度も確認したので」

「それも酷くない?」

「Aランク冒険者が、おじさん相手に用事なんて思い付かないでしょ?」

「ま、それは確かにそう」


 しかし、Aランク冒険者と面談ねぇ。

 面倒でしかない。

 無視してもいいんだけど、それはそれでどうなる事か。

 絶対面倒ごとになる。

 と言うか、本当に無視とかできるのか?

 疑問ではある。

 そりゃ強制ではないだろうけど。

 Dランクがそんな態度とって波風立たない訳ないし。


 まぁ、本当に最悪の場合ならどうとでもなるのだ。

 相手を消して仕舞えばいい。

 ただ、冒険者といえどAランクまで行くとほぼ特権階級だからな。

 貴族みたいなものだ。

 突然消えたら国が混乱する。

 俺はのんびり暮らしたいのだ。

 バレなかったとして、国が混乱すると物流滞って酒とつまみが手に入らなくなる。

 それは困る。

 別の国で1から基盤を作るのも面倒だしな。

 この街はそこそこお気に入りなのだ。


 今回の件、俺が責められる言われはない。

 全部話せば、適当に終わるでしょって事で。

 別に無理に避ける必要もない。

 誤解を解けばそれでいい。

 向こうは無駄骨を折った事になるが。

 大袈裟に盛って話した護衛の冒険者どもが悪いのだ。

 キレる時は俺じゃなくそっちによろしく。


 それに、ポーション関連の疑惑も一緒に払拭できるいい機会だしな。

 根掘り葉掘り聞かれるだろうけど。

 そこの対策はバッチリだ。

 Aランクが出張ってくるとは思わなかっただけで、いずれ聞かれる事は覚悟してたし。

 ……あぁ、そうか。

 盗賊が壊滅したことより、そっちに興味がある可能性もあるのか。

 Dランク冒険者が盗賊大勢に無双できるレベルの強化率とか、Aランクから見ても興味深いのだろう。

 ポーションのことを信じるにしても、信じないにしても。

 どっちみち俺に話は聞かないとって感じか。


 あのポーション、俺が盗賊から手に入れたって事になってるし。

 他の奴らの話関係なく本人に聞きたい部分ではあるか。

 効果を直接盗賊から聞いたのも俺だけだしね。

 そうでなくとも、ポーションを飲んだ3人のうちの1人だ。

 そしてそんなポーション存在しないと思うなら、あの場にいた誰かの実力が英雄級に片足突っ込んでる事になる。

 あの数の盗賊相手に無双した訳だからな。

 しかも、護衛の奴らに俺の活躍を盛られてる可能性大……


 ま、詳しく話せばポーションの方にかかりっきりになるだろう。

 俺の実力なんて大した事ない。

 そんなのは客観的に見れば明らかだ。

 真実?

 民意が黒を白だと言えばそれは白でしかない。

 人間ってのはそんなもの。

 ポーションの方も、最終的には無駄骨って事になるが。

 そもそも信用度の薄いDランクの言葉を間に受けたのが悪いって事で。

 そこんとこは納得してもらおう。


 それでキレて来たら?

 ……うん、まぁ。

 その時また考えるか。


「なんか、おじさんにお世話になったから借りを返したいとかって」

「借り?」


 あれ、もしかしてポーション関連の話じゃない?

 いや盗賊の方か。

 代わりに討伐してくれたから、借りと。

 別に違和感は無い。

 それを言い訳に使おうってことだ。

 普通に盗賊の方が本題って可能性もあるけど。


 それより、借りを返したいねぇ。

 借りか……

 この言葉って、怒らせたのか本当に貸しを作ったのか分からないのがね。

 文字や又聞きなんかだと特に。

 もはや言語側の欠陥だろ、これ。


「今思い返しても、ノア様がおじさんに借りとか。信じられません」

「ノア?」

「はい、ノア様がギルドに……」

「?」

「……え!? それ本当に言ってます?」

「何を? 心当たりないって言ってるじゃん」

「そうじゃなくて、ノア様そのものを知らないんですか?」

「まぁ、多分」


 ノアって、珍しい名前でもないし。

 聞き覚えある様な気もするが、どこで聞いたかなんて覚えてない。

 上級冒険者なら別に何処で聞いてもおかしくないんだが。

 そんな驚かれても困る。

 受付嬢も知ってるでしょ?

 俺が人の名前覚えるの苦手な事。


「Aランクですよ?」

「うん」

「しかも、この街出身の!」

「へぇ」

「本当に知らないんですか?」

「そう言われても、ねぇ」


 知らないものは知らない。

 興味も無いし。

 そりゃ、覚えられないよねって。


「……はぁ。くれぐれも、失礼な事しないでくださいよ」

「分かってるって」

「とりあえず、少し待っててください」

「はいはい」

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