A級 3
「所で、さっき旅行とか言ってましたけど」
「え、うん」
「どこに行ってたんですか?」
「……ちょっと、隣の港町まで」
まぁ、流石にここで嘘ついてもバレるよな。
仮にそのAランク冒険者が盗賊の討伐依頼を受けてたとして。
こんなこと言えばガッツリ容疑者である。
誤魔化したいのは山々だ。
けど、それバレたらやましいことあるって言ってる様なものだし。
常識的に考えて、その選択肢は無い。
別に依頼で行った訳でもないから、報告はしていない。
ギルドも把握してないはず。
だが、馬車には護衛依頼を受けた冒険者達が居た訳で。
彼らとは共闘しちゃったし、なんなら冒険者カードまで見せてしまった。
調べられれば一瞬でバレてしまう。
いや、まぁ……
容疑者とは言っても別に悪いことをした訳じゃないんだけど。
だから、わざわざ隠す必要はないと言えばその通り。
ただ、逃げ道が塞がれたなと。
俺の得意技が封印されてしまった。
勘違いだとか言ってうやむやにするいつものやつが。
「またそこ行ってたんですか」
「何か問題でも?」
「いえ、問題はないんですけどね」
「?」
「よく飽きないものだなと」
まぁ、あそこって本当にただの海辺の町だしね。
別に観光地じゃない。
俺が魚介類好きだからしょっちゅう行ってるだけで、そうでない人からすれば不思議なのだろう。
だが、文句を言われる筋合いもない。
そもそも受付嬢の場合、俺が頻繁に旅行行ってること自体あんまり良く思ってなさそうだけど。
どことなく真面目に働いて欲しそうだし。
そんな圧を感じる。
この前もランク上げないのかと聞かれたばかりだ。
でも、そこはこっちの勝手である。
冒険者って会社員とは違うしね。
働き方は自由。
前世の仕事でいえば、派遣が近いのかもしれない。
それも短期の物。
依頼を受ければその間は義務を負うことになるが、それを受けるかどうかは本人の自由的な?
そこがいいのだ。
人目を気にして働き出したら冒険者の良さ半減である。
「……でも、港町に行ってたなら本当に関係なさそうですね」
あれ?
そういう感じ?
港町行ってたなら関係ないって、盗賊の討伐任務じゃないのか。
俺の心当たりは気のせいと。
ますます分からなくなったんだが。
杞憂なら杞憂でいいんだけど。
でも、それなら余計に話し掛けられる用なんて思い付かない。
「最近、王都へ行ったりとか?」
「20年以上行ってないな。行く予定もない」
「ですよね」
「ってか、さり気にまだ疑われてます?」
「王都で活動してる方ですし」
「おい」
「うーん、本当に何ででしょう」
えっと、無視ですか。
いっぱいいっぱいなのは分かるけどさ。
何気に酷いよね。
なんか、まだしっかり疑われてた気もするし。
信じてくれるのでは?
さっきの言葉は何処に……まぁ、いいや。
自分でも半信半疑な訳だし。
怒らせたりした心当たりはないが。
いや、話があるってだけか。
そもそも相手が怒ってるとも限らないんだよな。
にしても、王都ねぇ。
ガチで行ってない。
本当に俺は関係ないのでは?
単なる向こうの勘違い。
そんな気がしてきた。
とりあえず、一旦情報を整理してみて。
まずはそれからだな。
あの盗賊団、かなり規模が大きかった。
具体的に言うなら、溜め込んでいた資金と人員を上手く使えば小規模な街なら占領できたかもしれないぐらい。
俺はてっきりそれの討伐依頼でも受けて来たのかと思っていたんだが。
街道に盗賊が出るのは昔からそうで。
国はずっと放置。
それが、今回に限っては流石に無視できなくなったのだろうと。
普通の盗賊団なら今までと対応変わらなかったはずだけど、あそこはちょっと特殊だったしね。
旅行の帰り、周りに盗賊がいなかった。
これが何を意味するかといえば、あの一帯が盗賊団のナワバリだったという事。
その規模を支配してたってことは、それだけ被害も多かった訳で。
実際、周囲の死臭もかなり濃かった。
仮説としては、国が問題視するぐらい物流に問題が出たって所かな。
それで、ようやく重い腰を上げたと。
ただ、討伐と言ってもいたずらに軍を投入する訳にもいかない。
大所帯で行けば被害が大きくなるだけ。
周囲は森だ。
大勢で動いて強力なモンスターでも引き寄せたら惨事だし。
だから、Aランク冒険者に依頼した。
シナリオとして、あり得なくはないよな。
王都で活動してる人間というのも、何処となく貴族との距離が近そうだし。
現場から距離的には離れてるが。
それがこの説を否定する要素にはならない、か。
……やっぱり、勘違いじゃない可能性が高そうな気もする。
俺に話があるとだけ言って、ギルド側に事情を説明してないのは中々に謎だが。
依頼の報告のために話を聞きたいというのは理解出来なくはない。
特に国から受けた依頼なら尚更。
完全な妄想ではあるが、詳細な報告書とか必要そうだし。
お役所仕事的な?
なら、問題はないか。
俺は別に悪い事をした訳じゃない、襲って来たのを返り討ちにしただけだし。
まぁ、特段責められる様な言われはない。
向こうもその気はないはず。
受付嬢の態度のせいで謎に冷や汗かいてしまった。
そもそも、それが出来たのもポーションのおかげだし。
運が良かっただけ。
真実はともかく、表面上の出来事としてはそれだけだ。
拠点の方に関しては……、知らぬ存ぜぬという事で。
俺が潰したとは分かりっこないし。
きっと、どこかからあのポーションの話が漏れて。
それが理由で襲われたんでしょ。
悪の組織やら秘密結社とか、その辺りに。
国が対応してると知ってたら、もっと丁寧にやったのに。
いや、手を出さなかったかも。
ミスったな。
……でも、そういう訳にも行かないのか。
放置してたらポーションの方が一瞬で矛盾が出ちゃうし、それを考えれば潰さない訳にも行かない。
むしろこの選択で吉か。
うん、そう思う事にしよう。
いつまでも過ぎたことを後悔しててもしゃーない。
ただ、その上で俺を呼び出してまで話をしたがる理由は謎だが。
ここら辺は護衛の冒険者から聞けるんじゃ。
基本護衛依頼って往復での依頼で、奴らは俺が旅行してる間にとっくに帰ってるはず。
わざわざ俺の帰りを待ってまで聞くことなんて。
しかも、Aランク冒険者が。
持ってる情報としては、他の冒険者と変わらないのは想像つくと思うんだけど。
俺に聞ける事なんて、奴らが全部……
あれ?
そう言えばあいつら、盗賊を片付けた後やけに俺の事持ち上げてたような。
たまたまだとは言ったがそれでも変わらずで。
悪ノリみたいな感じだったし、最終的には放置した訳だが。
これのせいじゃね?
盗賊の事を聞かれて、その際に俺の事を大袈裟に盛って話したとか。
あり得るな、充分に可能性がある。
それで、Aランク冒険者が俺に興味を持っちゃったと。
どんだけ盛って話たんだか。
勘弁してほしい。
あの惨状の功績、ほぼ俺に押し付けたまであるな。
それなら英雄級の人間という事になるし、向こうが興味持つに値する人物像が組み上がる。
完全な虚像だけど。
ポーションの強化率がバグってることと現実味としてはどっこいだし。
……うん、絶対あいつらのせいだな。
まぁ、悪意はないんだろうけど。
実績になれば、ランクアップには有利になるし。
恩返しのつもりか。
なんともありがた迷惑な話である。
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