ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

A級 2

　さて、今さっき旅行から帰ってきた訳だが。

　適当に酒場のおばちゃんと受付嬢にお土産でも渡そうかと思っていた所。

　ギルドに入ったら突然これである。

　対応中の冒険者をほっぽり出して、受付嬢が俺に駆け寄って来た。

　なんでも、Aランクの冒険者様から俺に話があるらしいが。

　Aランクねぇ。

　話があるって言われても、別に思い当たる節がないんだよな。

　いや、ね。

　俺って基本ずっとソロ行動だし、パーティーとかも組んだ事ないし。

　上級に限らずだ。

　そもそも、親交のある冒険者がほぼ居ない。

　Aランクなんて冒険者内での事実上のトップだ。

　一騎当千。

　まさにその言葉通りの活躍が出来るような人間。

　戦に出れば1人で戦況を変え。

　オーガやドラゴンの様な、ほぼ災害としか言えないモンスター相手に渡り合う。

　人の枠を逸脱した、化け物。

　俺と違ってチートも無いのに、よくやるものだと思う。

　もしかしたらあるのかもしれないけど。

　どちらにしろ俺はやりたくないし、その想いに変わりはない。

　一応、その上にSランクなんてのもあるらしいのだが。

　見た事ない。

　この国にも1人いるだけ。

　それぐらい希少なのだ。

　確か、ここのギルドマスターが元Bランクだったか。

　それぐらいのレベル感。

　Bランクでもギルド長を出来るぐらいには上が少ない。

「それで、おじさん」

「ん？」

「何をしたんですか？」

「……え？」

　もしかして、何か疑われてます？

　受付嬢からそんな様な視線を感じる。

　でもまぁ、そうか。

　実際、俺自身でもAランク冒険者が俺に話しかける用事なんて思いつかないし。

　個人的な知り合いとかならともかく。

　そうでもなければ、Dランクに用なんてある訳ない。

　何かやらかしてお怒りという方が自然か。

　わざわざギルド通してまで文句言う程かとも思うけど。

　それぐらいしか可能性無いのが、なんとも。

　にしても、端っから疑われるのも心外ではある。

　そっちも内容知らないんでしょ？

　ただ俺に話があるってだけ。

　だから、こんな探るような感じな訳で。

　普段の行いのせいだろうか？

　信用されてないのがバリバリに伝わってくる。

　そういや、さっきも理不尽だったよな。

　どこ行ってたか聞かれたから、旅行ってしっかり答えたのに。

　そんなのどうでもいいとか……

　謎に怒られたし。

　もともと、当たりの強めな受付嬢ではあったけど。

　そういう対応は荒くれ者である冒険者側の専売特許では？

　まぁ、それだけ焦ってるって事なんだろうど。

　Aランク冒険者とか、絶対無碍に出来ないしな。

　怒らせたらどうなる事か。

　少なくとも、ここのギルドじゃどうしようも出来ない。

　ポーション飲ませた冒険者が盗賊相手に無双してたが、その逆が起きるわけだ。

　唯一抗えそうな元Bランクのギルド長もブランクあるだろうし。

　ギルドどころか、もしかしたら街という単位ですら対応不可能かもしれない。

　それぐらいの相手ではある。

　ま、だからって無駄に疑われるのは納得いかないんだが。

　機嫌を損ねたくない相手なのは分かるけど、ねぇ。

　こっちに皺寄せが来るのは頂けない。

　ここは、ガツンといってやらないとダメだな。

　妄想するだけで、実際にそんなことはしないんだけど。

　にしても、怒らせたりとかあったっけ？

　全く記憶にない。

　そもそも関わった覚えがないし。

　……怒らせて無いよね？

　心当たりがないからこそ、怖いというか。

　何言われるか想像もつかない。

　例えば冒険者って仕事に誇りを持っていて、とか？

　Aランクに上り詰めたぐらいだしあり得なくはない。

　俺が真面目に冒険者やってるかと言われればそうじゃないし。

　そんな理由だったら、それはすみませんだが。

　でも、そんなの俺だけじゃないし。

　仮にその理由で怒られたとして、さらに理不尽て言うか。

　……あれ？

　今の俺の思考。

　直前のじゃなくて、その少し前。

　何か違和感が。

　冒険者が盗賊相手に無双したのと同じように、って。

　そういえば、あの盗賊。

　結構、規模デカかったような。

　低ランクの冒険者にはどう考えても対応不可能。

　だから俺が出張る羽目になった訳で。

　仮にどうにかしようと思ったら。

　軍隊か、それこそ上級冒険者みたいな。

　どうしよう……

　ちょっと、ほんの少しだけ心当たりあるかもしれない。

　いや、別にそうと決まった訳じゃないし。

　その確率は低いとは思うが。

　あくまで可能性の話で、だけど。

「本当に心当たりないんですね」

「……はい」

「まぁ、信じます」

　良かった。

　良かった？

　そもそも謎に疑われたの納得いってないけどね。

　仮に本当に俺が悪かったにしても、この感じ何も聞いてないっぽいし。

　ただ、まぁ変に蒸し返しても仕方ない。

　理解してくれたなら、それで良しとしよう。

　うん。

　別に藪蛇を突くのが怖い訳じゃないよ？