港町 13
改めて見て見ると、別になんて事ない光景ではある。
まぁ、海は好きだし。
潮風なんかも気持ちよくはあるが。
それだけ。
決して、そこまでセンチな気分になる代物じゃない。
そもそも港町の海岸だしね。
人の手こそ、そこまで加えられてないが。
それは単に整備されて無いだけ。
近くに漁港もあるし、振り返れば街も広がっている。
別に、大自然の中と言うわけでもないのだ。
6回戦もしたのなんて久々だったからな。
チート持ちとは言え、無尽蔵にとは行かないらしい。
精魂尽き果ててしまったのだろう。
朝は、多少ムラムラしていた気もするが。
よく考えれば、その状態で我慢出来るはずがないのだ。
我慢する必要ないとも言う。
相手の事を考えてって、ねぇ……
俺はそこまで紳士じゃない。
お金も払ってる訳だし。
だから、あの時の思考は自分の感情がそこへ向かないことへのただの理由付けだったのだろう。
違和感を感じていたから。
後付けで脳が勝手に考えただけ。
ふと、足元に違和感を感じた。
くすぐったい。
何だろうか?
少なくとも波じゃないな。
例えるなら、ドクターフィッシュについばまれるような感覚。
裸足だったし、魚か何かだろうか?
目を向けると。
……これ、水竜か。
しかも子供だ。
大人は裕に船を越える巨体を誇る訳だが、こいつは10センチ程度。
トカゲとかカナヘビに近い見た目とサイズ。
水竜は非常に凶暴で、海の生態系の頂点に立つ。
漁師なんかも度々被害に遭っている訳だが。
子供の頃はかなり弱い。
浅瀬で小さな魚や腐肉を食って育つのだ。
何が楽しいのか、俺の足の指の間をつっついている。
しばらく観察していたが、離れる様子もない。
すぐ逃げるなら、見逃してあげてもよかったんだけど。
そっと反対側の足を上げ、踏み潰した。
恨みはないんだが、魚が取れなくなったりしたら困るからね。
別に成体になる確率は高くないんだけど。
子供の間は鳥に魚と天敵だらけだし。
ほっといても、こいつも食われていたかもしれない。
でも、念の為だ。
死体を摘み上げる。
見た目は、可愛いんだけどね。
飼えるなら飼いたいぐらい。
設備が大変だけど。
シャチとかイルカとか、そのレベルだろうか?
平気でメートル越えるし。
水の管理も面倒。
個人で飼えるような生物じゃない。
それに、俺ってまともにペット飼える様な人間じゃないし。
餌やりとか面倒で。
命に責任を持てない。
生き物自体、好きではあるんだけどね。
眺めるだけで良いかなって。
殺しちゃう未来しか見えないし。
今も殺した訳だけど。
流石に、飼ってて殺すのと駆除は別だろう。
この子、勿体無いし。
理由なく殺すのはあまりよろしくない気もする。
自己満だけど。
だから、軽く炎魔法で炙って口に放り込む。
味としては鶏肉。
いや、もっと魚っぽいが。
カエルとかフグの方が近いのかもしれない。
別に不味くはない。
あんまり利用されないのは危ないからだろう。
親が近くにいて怒りを買ったら大変だ。
俺も離れるか。
浅瀬の場合、子供だけでいるのがほとんどだが。
大人の水竜に襲われても困るしね。
それに。
今殺しこそしたが、別に進んで駆除する気もない。
水竜は強力な捕食者ではあるが、別に外来種って訳でもない。
その存在を前提に生態系がうまく回ってるのだ。
消したりしたらどうなるかわからない。
ただ、以前この町に来た時の事。
水竜のせいで魚が全く出回ってなかったことがあった。
旅が空振りに終わったのだ。
消す気はないが、あんまり増えてほしくもない。
そんな微妙な心持ち。
日本の、ヒグマや鹿に対しての態度と似ているだろうか。
海から上がったが、足だけ濡れてしまった。
乾いたらベトベトだな。
変な気分に流されてしまったせいで。
それは置いておいて。
さて、これからどうしたものか。
数十分しか潰せてないわけで。
現状は変わっていない。
つまり、店がほとんど空いてないのだ。
それに、この後の予定も。
元々は一泊二日で帰る予定だったのだが。
本当に魚食べに来ただけだし。
貯金も別に多くないしね。
ちょっと溜まったらすぐ散財を繰り返していた。
ただ、昨日ボーナス入ったからね。
もうしばらく居れるんだよな。
確かに一番人気の娘を一晩は高かったけど。
それでなくなるような額じゃない。
金はいつでも稼げるわけで。
極論、帰りの路銀残して全部使い切ってしまっても良いんだが。
そんな長居してもな……
別に帰らなきゃいけない理由があるわけじゃないから、居ても良いんだけど。
いや、あったわ。
お気に入りの子。
あの娘とは定期的に会わないと。
忘れられちゃったりしたら、悲しいし。
旅先での新しい出会いもいいんだけど、慣れてくれてる子も捨て難いのよ。
帰らないと、だな。
まぁ、適当に数日は楽しんで帰ろうか。
別に急ぎでもないし。
今週中に帰るぐらいのイメージで。
その前に、酒も買わないといけないし。
昨日はなんだかんだ聞きそびれちゃったからね。
夜になったら大将のとこに寄ろう。
この町から帰るにしても、それからだな。
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