馬車 14
「「「お疲れ様です!!」」」
戻ると冒険者どもが馬鹿デカい声で挨拶してきた。
うるさい。
そして、うざい。
体育会系のノリってやつか。
いや、冒険者だしな。
どちらかといえば、ヤンキーノリの方が近いか。
上級はともかく、低級だし。
自由業とぼほイコールみたいな所もある。
しかし、素直な奴らだ。
そんな深々と頭下げちゃって……
俺のことなんて、つい数時間前までは見下してただろうに。
ま、ここは弱肉強食の色が強い世界だしな。
下だと思えばとことん見下すが、見る所があると思えばそれを覆すのに躊躇が無いのだ。
手のひらクルクルってやつ?
このタイプの人間を嫌う人種も結構いるらしいが、俺は分かりやすくて嫌いではない。
どちらかといえば、明らかに間違ってるのに手のひらを返せない人間の方が気に食わん。
たまにいるのだ。
自分のたった一つの発言を撤回できなくて、その結果全てがしっちゃかめっちゃかになる奴。
「ロルフさん!」
冒険者の声で気がついたのだろう。
商人が駆け寄ってきた。
盗賊に脅されていたが、特に怪我とかは無かったらしい。
運がいいんだか悪いんだか。
「今回はありがとうございました」
「いいってそんなの。言っちゃえば、単に受けた依頼をこなしただけだしな」
「それで、報酬の方なのですが。いくら程お支払いすれば……」
「ま、相場の1.5倍って所かな」
「え!? 相場って、護衛依頼のですか?」
「そう」
「……その額でいいんですか? 今回の様な件ならそれこそ莫大な、すぐに払える額では無いですが何としてもお支払いしようと覚悟を決めていたのに」
「そんな事しなくていいよ」
「しかし……」
想像より安かったならそのまま流しとけばいいのに。
本当、真っ直ぐな奴だな。
こんな性格で、よく商人としてやっていけてるものだ。
儲けを出せてるのが不思議なぐらいである。
「まぁ、俺も冒険者だしな。今回は依頼を受けるタイミングが遅かっただけってことで」
「受けるタイミングが遅かった?」
「そう、俺が受けたのはあくまで馬車の護衛依頼。ただタイミングがちょっと遅かった。だから、その分の割り増し料金で1.5倍」
「……」
「ありがたく受け取って置けって。あんまり要求してこの乗り合い馬車が無くなったら俺も困るし」
「ありがとうございます!!」
あれ?
もしかして、冒険者ノリがうつった?
感染するタイプだったのか。
厄介な。
ウザい人間が増えていく……
ま、冗談はほどほどに。
実際、この商売やってる人間って少ないからね。
言うまでもなく危険だし。
商品に比べ、運ぶのが人間だと利益も少ないらしい。
この馬車の料金でとなればさらに希少。
旅行は俺の趣味でもあるのだ。
無くなってもらっちゃ、本当に困る。
臨時のボーナスも入ったからね。
その金額に比べれば、言い方は悪いがこの商人から取れる金額はたかが知れてる。
命の恩だって傘に着て搾り取った所で、ねぇ。
なら貰わなくてもいいんだが。
無駄に頼られても困る。
冒険者も仕事でやってるんだし、俺がタダでやったりしたら他の人間も迷惑だろう。
戦えるからって理由で乗り合わせただけで助力を頼まれても、ね。
だから、一応お金は貰う。
護衛依頼、その料金の1.5倍。
払えない金額じゃない。
でも、痛くはある。
それぐらいの料金を想定している。
元々の依頼料も合わせれば、冒険者への経費が2.5倍だ。
おそらく、今回の利益はほぼほぼ出ない。
しかし、首が回らなくなって廃業するほどでもない。
ま、実際の所は知らないんだけど。
経験ないし。
部外者の勝手な予想だ。
だから、ただの俺の自己満足。
こういうのは、やった感が大事なのだ。
真実なんて二の次でいい。
究極、本当の所なんて本人以外には分からないのだし。
その気遣いが誰かの為になってるのかなんて不明瞭。
自分自身が誰かのために気を遣ったという自負。
それだけが、唯一その行為が確実にもたらすメリットだと言える。
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